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京都《長楽館》
伊藤博文、大隈重信、山縣有朋も訪れた有形文化財ホテルで、明治に想い馳せる

2023.5.31
京都《長楽館》<br>伊藤博文、大隈重信、山縣有朋も訪れた有形文化財ホテルで、明治に想い馳せる

京都・東山エリアに建つホテル「長楽館」。建築家のジェームズ・マクドナルド・ガーディナーが設計した芸術様式の洋館は、かつて伊藤博文、大隈重信や山縣有朋など、明治時代の賓客をもてなすための迎賓館として建てられた。この建物を活用したノスタルジックな非日常を味わえるホテル「長楽館(ちょうらくかん)」とは?

伊藤博文が命名した、
“明治の煙草王”の迎賓館

迎賓館の顔ともいえるロビー。重厚な造りは華々しい時代を彷彿とさせる

京都のなかでも四季の移り変わりを実感できる風光明媚なエリアである東山の一角。この場所に建つ「長楽館」は、賓客をもてなす「迎賓館にふさわしい」と建築の地に選ばれた。
選んだのは、“明治の煙草王”と呼ばれた稀代の実業家・村井吉兵衛。1909(明治42)年に吉兵衛が私財を投入し、ヨーロッパのあらゆる様式を組み込み、別宅で国内外の賓客をもてなすための迎賓館として建てられた。長楽館という名は、木戸孝允の墓参のために滞在した伊藤博文が窓からの見事な眺望を見て、長く楽しみが続くように、と「長楽館」と名付けたのが由来だ。
同館には名付け親である伊藤博文をはじめ、大隈重信や山縣有朋、英国皇太子エドワード8世、米国ロックフェラーなど、国内外から時代を彩る人々が訪れた。

村井吉兵衛(むらい きちべえ)
1864~1926年。京都の煙草商の次男として誕生し、9歳で叔父の養子となり煙草の行商をはじめる。明治初期に煙草商で得たお金を元に煙草の製造に踏み出し、日本初の両切り紙巻き煙草を製造、明治24年に「サンライス」と名付けて発売。その後発売された「ヒーロー」は5年後に年間生産量日本一となる。明治37年に煙草が国家専売制となり、その保証金を元手に、村井銀行、東洋印刷、日本石鹸、村井カタン糸等の事業を行い、村井財閥を形成する。

竣工当時の表門の様子

京都の四季を一望できる
「賓客をもてなすため」の場所

明治時代に華やかな迎賓館として使用された建物は、100年以上の時を経て、現在フレンチレストランと喫茶店、バーなどを併設したホテル「長楽館」として賓客をもてなしている。ホテルはわずか6室の隠れ家的なオーベルジュ。ラグジュアリーなパブリックスペース、 無垢の木材を使った家具や調度がセンスよく配された上質な客室が、宿泊客を静かに迎えてくれる。
同館からは隣接する円山公園の桜や紅葉が一望でき、京都の四季の移ろいを実感できる。また清水寺、高台寺、知恩院といった京の名所からも至便な場所に建っており、散策をかねて訪れることもできる。京都の遺産と美しい自然の恵み、双方が感じられる非日常のロケーションは、建築当時から変わらない特別な空間となっている。

芸術様式の宝庫!
有形文化財の建築と調度品

ロココ様式の迎賓の間。壁の漆喰は彫刻、シャンデリアはバカラ社製クリスタル。画家・高木背水(誠一)の原風景画が飾られている。現在はアフタヌーンティー専用となっている

村井吉兵衛の別荘として建てられた長楽館は、竣工から約80年後の1986(昭和61)年、多くの調度品とともに京都市指定有形文化財に登録された。

この豪華絢爛なアート空間を設計したのは、アメリカ人建築家のジェームズ・マクドナルド・ガーディナー。ガーディナーは美術史を学んだ人物で、長楽館に多くの芸術様式を盛り込んだ。それも典型ではなく変形し、独自の創造性を吹き込んでいる。
外観はルネッサンス、応接室はロココ、食堂はネオ・クラシック、ステンドグラスや窓はアール・ヌーヴォー。加えて梅、菊、蘭、竹の四君子の水墨画のある中国風の部屋や、3階には書院造りの和室もある。内部に張り出すバルコニーは、大胆でアメリカ的。英、米、仏、中、日の趣を折中し、まさに芸術様式の宝庫なのである。

ジェームズ・マクドナルド・ガーディナー
1857~1925年。アメリカ人建築家であり、教育者、宣教師。米国聖公会から日本に派遣され、 ハーバード大学にて芸術を学ぶ。立教学校、立教大学校(現・立教大学)で校長、教員を務めた後、立教大学校の校舎群や、聖堂などを設計。建築士として日本の米国式カレッジの設立と運営に大きく貢献した。京都の聖アグネス教会や聖ヨハネ教会、邸宅など日本で多くの建築を手掛けた。

球戯の間。当時はビリヤード台が置かれていた。球戯をする際に手を洗う大理石の洗面台がそのまま残る。現在はカフェスペースとなっている
食堂の間。西洋の館でもっとも重きを置かれるダイニングルームとして使われていた部屋は、イギリス・ヴィクトリア調のネオ・クラシック様式。現在は本格フレンチレストラン「ル シエーヌ」として、美術と美食を楽しむ場となっている
暗いホールとは対照的に明るく、天井や壁には美しい植物模様のレリーフ、豪華なシャンデリアなど、優雅なしつらいは建築当時のまま
当時喫煙スペースとして使われていた本館2階の喫煙の間。入口扉は当時のままステンドグラス、入口上には伊藤博文直筆の扁額が飾られた中国風の部屋。床はイスラム風の幾何学模様のタイル、螺細(らでん)の椅子は象嵌
美術の間。建築当時はシックなインテリアの空間には数々のコレクションが展示されていた。紫陽花の絵は画家・中村白玲のもの。現在はカフェやイベント会場として集いの場となっている

東山の緑に囲まれ街中にいることを忘れさせる「長楽館」。かつて日本の名立たる偉人や各国の皇族・大使などが華やかなひと時を過ごした空間は、時代背景が変わっても、華麗なる歴史の面影は今も残り、当時と変わらぬ唯一無二の体験を味わせてくれるだろう。

読了ライン

長楽館
住所|京都府京都市東山区八坂鳥居前東入円山町 604
Tel|075-561-0001
客室数|6室
料金|1泊1名朝食付4万2千円~(税・サ込)
カード|AMEX、DC、JCB、Master、UC、VISAほか
IN|15:00 OUT|11:00
アクセス|JR京都駅より車で約15分、阪急京都河原町駅から徒歩約15分、京阪祇園四条駅から徒歩約10分
施設|レストラン、カフェ、ブティック、バーなど

 

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参考文献=藤井善三郎「祖先文化へのまなざしー永遠の美」便利堂

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