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那須をめぐりゆるりとリゾート滞在
「那須別邸 回 」「山水閣」

2泊3日以上がこれからの日本旅館の愉しみ方

2020.3.21
<b>那須をめぐりゆるりとリゾート滞在<br class=“none” />「那須別邸 回 」「山水閣」</b><br>2泊3日以上がこれからの日本旅館の愉しみ方
別邸 回の離れに付く贅沢な露天風呂

日本ならではの宿泊スタイルである日本旅館こそ、数泊することでその魅力が愉しめる。《2泊3日以上がこれからの日本旅館の愉しみ方》では、それぞれの宿に2泊3日滞在した場合の愉しみ方を提案。第2回は那須御用邸のほど近く、木々の合間に建つ宿。スタイリッシュな空間の「那須別邸 回」と、昭和初期の木造建築がベースの「山水閣」を紹介する。

日本を代表する別荘地
那須の温泉旅館へ

ブナとカエデの木々に囲まれた那須別邸 回の玄関へのアプローチ

那須といえば御用邸という言葉がすぐ頭に浮かぶ。やんごとなき方々の別荘をいい、現存するのは那須、葉山、須崎の3カ所だが、最もよく耳にするのが那須。避暑、避寒などの静養を目的として訪れになる場所だから、快適性はお墨付きといえるだろう。

その那須御用邸から、わずか1㎞ほどの距離にあるのが「那須別邸 回」。気分は御用邸だ。東京からなら、新幹線で那須塩原駅までは1時間と少し。そこからタクシーだと30分。2時間とかからず宿までたどり着けるのもありがたい。

部屋・其の四のリビングとソファーエリア。夕食・朝食ともにこちらで

別邸と名づけられているように、この宿には本館的存在の「山水閣」という旅館があって、那須別邸 回に宿泊すれば、両方の施設を使うことができ、連泊する愉しみが倍加するのも、この宿の大きな魅力である。

とりわけ、新設された山水閣の「サロン」は、明るく伸びやかな空間が、スタイリッシュに展開されていて、連泊中の憩いの場として恰好のスペースになっている。加えて山水閣には広々とした温泉大浴場も備わっていて、那須別邸 回に泊まっても利用できるから言うことなしだ。

2019年5月にオープンした山水閣のサロン。那須別邸 回に宿泊の人も利用可能。湯上りにシャンパーニュのオーダーも可能

御用邸を擁する高原リゾートでありながら、那須はまた湯処としても名高い。余談になるが、寺田寅彦のエッセイを読んでいて、阿蘇と浅間と那須の語源が同じだと書いてあって、驚いたことがある。この3つは、火山を表す言葉から派生した地名だとあった。火山があればその近くに温泉が湧き出るのは、当然の理、那須に名湯が湧出するのは、昨日今日のことではないのである。

地名はもちろんのこと、宿の名もただの記号ではない。山水閣の名は、森閑とした山と、せせらぎの水を表し、その地に建てられた、見晴らしのいい楼閣を宿としていることがわかる。

山水閣の風呂付の客室「朱雀」の和室

そしてもうひとつの回は、僕の推測に過ぎないが、おそらくは回帰という意だろうと思う。遠い昔、日本旅館がつくられたときの原点に回帰する。あるいは、一度泊まったお客が、めぐりめぐって帰ってくる。そんな期待も込めて名づけられたかもしれない。

宿へと向かう道すがら、そんなことに思いをめぐらすのも、旅の愉しみのひとつである。人と同じく、宿にも個性があり、それを見極めないとミスマッチになる。一泊ならまだしも、連泊するなら、まずはそれを確かめてから宿を決めたい。

ふたつの宿を行き交い
思い思いの滞在を

別邸 回の「Lounge206」にはオーナーのコレクションの国内外の名作椅子が。壁は大谷石のスタイリッシュな空間

那須別邸 回にせよ、山水閣にせよ、至れり尽くせり。殿さまお姫さま気分を味わいたいお客には不向きな宿である。ふたつの宿ともに、あるべき施設が備わり、美しく整えられてはいるが、それを決してお客に押し付けたりはしない。自由にそれらを使いこなすことを、さりげなく勧めている。

その、さりげなさは、ハード部分のみならず、ソフト面でも同様で、宿のスタッフは、付かず離れずで、もてなしてくれる。一泊旅でも無論のこと、連泊するとなれば、この、さりげないおもてなしは極めて重要な要素となる。

メグスリノキのお茶でひと息
栃木や長野に自生するメグスリノキのお茶と、オリジナルの黒豆と抹茶のパウンドケーキ

飽かず緑を眺めたり、ライブラリーの書物を読みふけったり、お茶を愉しんだり、ときにはまどろんだり。充実したパブリックスペースで、そんな時間を過ごすのも、連泊の大きな愉しみなのだ。

もちろん客室も極めて居心地がよく、部屋の中で過ごすのもいいのだが、この宿では部屋を出てもあちこちで愉しめるので、つい部屋の外へ出てしまう。

まずは大浴場で温泉を愉しむ
大浴場の湯船は、昭和初期の創業当時の面影を残す。湯はほとんど無色透明の優しい湯。美肌や冷え性、神経痛、疲労回復などにいい

そんな宿の魅力はやはり“湯”と“食”だ。僕は基本的には泉質にはこだわらないほうで、それよりも清潔さや開放感に重きを置いている。どんなに泉質がよくても、手入れが行き届いていなかったり、眺めが悪かったりすると落胆してしまう。

そこへいくとこの宿の“湯”は、泉質のみならず、心地よい空間として際立っているので、滞在中に何度も湯浴みをすることになる。

A5那須黒毛和牛と三元豚のしゃぶしゃぶ。自家製ユズコショウで

“食”も然り。料理そのものも無論だいじだが、うつわ遣いや趣向がなおざりだと、味気ない食事になってしまう。何もそれは稀少なうつわを使うだけでなく、派手な盛つけをするのでもない。那須という土地らしさを表し、お客の心を和ませるものであるから、穏やかに食事を愉しめるという寸法なのだ。

海のものも多少はあっても、基本は山や川のものである。特別なものなどほとんどない。古より、日本人が普通に食べてきた食事をベースとしているのが好ましい。土地の力、旬の力を最大限に引き出す料理は、連泊するとその実力をつぶさにできる。

ライブ感あふれる「ラトリエ・ムッシュー」
「その日の料理や盛りつけは気分次第」と、数々の名ホテル、名宿の料理長を務めた宮崎泰典さん。写真はランチの前菜。鰹の瞬間スモークをはじめ、賑やかなこの皿にはぜひワインを合わせたい。2月末まではジビエも。ランチコースは3000円と6000円の2種

客室の中、宿の中で連泊の時間を過ごすことも十分できるが、宿の外に出ても多くを愉しめるのが、那須という地の魅力。宿を出てのランチタイムにも、恰好のお店が何軒もある。

つとに名高いカフェで、薫り高いコーヒーに目を細める。森に囲まれたフレンチで、見目麗しいひと皿に舌鼓を打つ。山の恵みである山菜やキノコをふんだんに使った山里料理を愉しむ。選択肢がいくつもあるのがありがたい。

那須高原をさまよい、日暮れて宿に戻れば、「おかえりなさい」と迎えられる。これこそが連泊の醍醐味である。

那須別邸 回/山水閣
住所:栃木県那須郡那須町湯本206
Tel:0287-76-3180
客室数:回9室(離れ含む)、山水閣14室
料金:1泊2食付回3万5000円〜、山水閣1万8000円〜、部屋風呂付2万9000円〜(サ込、税別)
カード:AMEX、Diners、DC、JCB、VISAなど
IN:15:00 OUT:11:00 夕食:回(部屋)、山水閣(食事処) 朝食:回(部屋)、山水閣(食事処)
アクセス:車/東北自動車道那須ICから約15分 電車/JR那須塩原駅からバスで40分、山水閣入口下車
施設:大浴場、貸切風呂、サロン、ラウンジ、バー、ギャラリー
山水閣(https://sansuikaku.com)、那須別邸 回(www.bettei-kai.jp

文=柏井 壽 写真=宮地 工

2020年2月号 特集「世界に愛されるニッポンのホテル&名旅館」

 《2泊3日以上がこれからの日本旅館の愉しみ方》
1|唐津焼の世界を満喫できる宿「洋々閣」
2|那須をめぐりゆるりとリゾート滞在「那須別邸 回 」「山水閣」
3|「ただいま」と言いたくなる心安らぐ湖北の宿「紅鮎」