北海道《札幌市資料館》
司法のための建築から“伝える”空間へ
|体験できる近現代名建築
既存の建築を生かしつつ、用途を変化させて活用する「コンバージョン」。育まれてきた歴史と現在の営みが重なる空間に滞在することで、その地域の風土に出合う。そんな建築の再生・活用事例を建築史家の倉方俊輔さん監修のもとご紹介。今回は、北海道にある「札幌市資料館」を紐解いていく。
文=倉方俊輔
大阪公立大学大学院工学研究科教授。日本近現代の建築史の研究と並行して、建築イベント「東京建築祭」の実行委員長を務めるなど、建築の価値を社会に伝える活動を行う。『建築を楽しむ教科書』(ナツメ社)など著書多数。
左右対称の札幌軟石建築

札幌軟石と煉瓦を用いた外観、鉄筋コンクリート造の2階床など、当時の新旧の構造技術が用いられた。刑事裁判が行われていた刑事法廷には、“真実を映し出す”という意味が込められた「八咫の鏡(やたのかがみ)」も
「札幌市資料館」は、北海道札幌市の大通公園の西の端に面して建っている。さっぽろ雪まつりの会場として知られる長い公園は、ここでひと区切りを迎える。1926(大正15)年に「札幌控訴院」として建てられたこの建築は、公園の終点を左右対称の構成で受け止めてきた。
外壁に近づくと、まず色の違いに気づく。落ち着いたグレーを基調に、場所によって青みや赤みが混じる。さらに目を凝らすと、白い斑点のような粒が浮かび上がる。壁は均一ではない。素材は「札幌軟石」である。市内で産出され、約4万年前の支笏火山の噴火による火砕流が固まって生まれた石だ。

札幌軟石は、明治から昭和初期にかけて、札幌や小樽周辺の建築で広く用いられた。加工しやすく、耐火性や保温性にも優れることから、寒冷地の都市を支える素材として選ばれてきた。札幌市資料館は、現存する札幌軟石建築の中でも最大級の規模をもつ。壁を軟石で覆う構成が、建物全体に確かな量感を与えている。
正面中央の車寄せの上部には、目隠しをした法の女神が配されている。天秤と剣を携えた姿は、司法の理念を象徴するモチーフだ。その下には「札幌控訴院」の文字が刻まれている。右から左へ読まれる5文字は、それぞれ円の中に収められ、大正期のグラフィックを思わせる軽やかさを備えている。
大正モダニズムが随所に宿る

大正期のモダンさは、館内にも見出せる。玄関内部には、石の質感を生かしたアーチがあり、幾何学的な装飾が組み合わされている。玄関の先には、裁判所の威厳を示すかのように古代ローマ風の柱が2本立ち、奥に2階へ続く階段が設けられている。カーブの途中に配されたステンドグラスも、直線的にかたちづくられた幾何学的な図柄だ。色数を抑えた構成が、空間に明確なリズムを与えている。

控訴院から資料館へ
1973年、裁判所の移転を機に、この建物は「札幌市資料館」として使われるようになった。2006年には、控訴院時代の法廷を復元した「刑事法廷展示室」も設置。現在は、札幌の歴史を紹介する展示に加え、ギャラリーや貸室としても活用されている。展示を見る人、イベントに参加する人、建物そのものを目当てに訪れる人。使い方は重なり合い、都市の中に組み込まれている。

裁判所の移転に伴い、1973年に、札幌オリンピックや札幌にゆかりのある文学などを展示する資料館に生まれ変わった。2006年には控訴院時代の法廷を復元した「刑事法廷展示室」も設置され、その歴史をいまに伝える
大通公園を見守るように建つ札幌市資料館は、土地の素材と近代の制度が結び付いて生まれた建築だ。公園を歩き、建築を味わい、展示に向き合う。その過程を通して、この街が近代にどのような公共空間を必要とし、どんな未来に向かおうとしているのかがわかってくる。
札幌軟石の風合いを楽しめる建築として、ほかに旧石山郵便局をカフェやショップに再生させた「ぽすとかん」なども市内にある。
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〈概要〉
1926年に「札幌控訴院」として建てられた建物。札幌軟石を使用した、デザイン・構造ともに貴重な建築として、2020年には国の重要文化財に指定された。
〈建築データ〉
竣工年|1926年
開館年|1973年
設計|浜野三郎(司法省会計課)
改修|札幌市
構造形式|組積造(煉瓦、軟石)、鉄筋コンクリート造2階建
〈施設データ〉
住所|北海道札幌市中央区大通西13
Tel|011-251-0731
開館時間|9:00~19:00
休館日|月曜(祝日の場合は翌平日休)、年末年始
料金|無料
www.s-shiryokan.jp
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text: katakura shunsuke
2026年3月号「訪ねる建築 暮らす建築」



































