木の家がもたらす“やさしい快適”
|ヒートショック・紫外線・ダニから暮らしを守る
木の空間やインテリアから感じられる、温かさや寛ぎ、癒し……。その感覚についての科学的な検証が進んでいる。環境負荷の軽減や森林保護にもつながる“木のある暮らし”は、自然だけでなく人間にも優しい生活をもたらしてくれる。快適な空間づくりをかなえるひそかなパワーも持っている。今回は、木の空間の魅力について、森林総合研究所の杉山真樹さん解説のもとご紹介する。
杉山真樹(すぎやま まさき)
森林総合研究所 木材研究部門 木材加工・特性研究領域チーム長。三重大学大学院生物資源学研究科連携准教授も兼務。木材と木質空間の快適性や、国産早生樹の利用に関する研究を行う。
快適な空間づくりをかなえる
ひそかなパワーも
〈ヒートショック から守ってくれる!〉

※『季刊 森林総研 68号 暮らしの中の木の魅力再発見』 (国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所)より転載
出典:Tsunetsugu, Sugiyama「Journal of Wood Science」(2021)
木材は中空の管が束になったハニカム構造で空気を多く含むため、熱伝導率が低く、触れた際に体温を奪われにくい。室温24℃の環境でさまざまな素材の手すりに触れた際の生理反応を測定した実験では、金属やプラスチックに触れると血圧が大きく上がるのに対し、木材では身体の熱の奪われ方が少なく、血圧の変化も小さいことが示された(上図)。このように、木材は身体への負担が少なく、ヒートショックの発生リスクを抑える効果も期待できる。
〈有害な紫外線も吸収〉

出典:日本木材備蓄機構 (現・日本木材総合情報センター) 「木を生かす」
目に有害な紫外線をはじめ、紫から青色にかけての短波長の光を吸収する特性のある木材。実際に材料はコンクリートやアルミニウムに比べ、光に含まれる紫外線、紫・藍・青色光の比率が低いことが示されている(上図)。木材空間は、電球色に似た安らぎを感じやすい環境になっているのだという。木材は目にやさしい素材であり、最近注目されるブルーライトによる目への負担の軽減にも貢献しているのだ。
〈防虫作用でダニ来なくなる〉

※『建物の内装木質化のすすめ』(日本住宅・木材技術センター) より転載
出典:高岡ほか「日本衛生学雑誌」(1987)、Hiramatsu, Miyazaki「Journal of Wood Science」(2001)
木の成分には防虫効果があるものも。特にダニに対しては、複数の研究でその効果が報告されている。たとえば鉄筋コンクリート造の集合住宅の床を、畳やじゅうたんから木に改装したところ、ダニの数が減少した(上図)。別の研究では、檜やヒバ、クスノキのチップ上で、ダニの活動が抑えられたという結果も得られている。木質化空間によって、ダニによるアレルギー性疾患の予防も期待できる。
〈生活臭を軽減。抗菌作用も〉

※『建物の内装木質化のすすめ』(日本住宅・木材技術センター)より転載
出典:Nakagawaほか「Journal of Wood Chemistry and Technology」(2016)
活性炭の消臭効果は有名だが、木の枝葉や木材チップもアンモニアなどの悪臭成分を吸着し、消臭効果があることが判明している(上図)。木材の成分には抗菌作用があるものも確認されており、杉の精油やその抽出物には食中毒などの原因となる黄色ブドウ球菌に対して強い抗菌活性があるという報告も。さらにトドマツ葉精油による二酸化窒素の除去効果についても報告があり、この効果を活用した空気清浄剤も商品化されている。
line
text: Miyo Yoshinaga illustration: Teppei Nakao
2025年9月号「木と生きる2025」



































