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佐川岳彦さんの伸びやかな「竹のうつわ」
高橋みどりの食卓の匂い

2021.4.22
佐川岳彦さんの伸びやかな「竹のうつわ」<br><small>高橋みどりの食卓の匂い</small>

スタイリストであり、いち生活者でもある高橋みどりがうつわを通して感じる「食」のこと。五感を敏感に、どんな小さな美味しさ、楽しさも逃さない毎日の食卓を、その空気感とともに伝えます。

高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。近著に『おいしい時間』(アノニマ・スタジオ)など

何年か前、2拠点生活の地、栃木県・黒磯の店に作品を携えて現れた、隣町に住む竹工芸作家の佐川岳彦さん。

せっかくの栃木暮らし、拠点を生かしたことにも目を向けたいと思っていたので、地元の竹工芸とあればと、早速工房を訪ねたのでした。のどかな山間の中に佐川さんのご自宅、隣接して工房があります。工房では、佐川さんの直接の師である工芸作家の父、素峯さんが制作をされており、そのかたわらで岳彦さんも作業をしています。素峯さんは別府の職業訓練所にて竹細工を学び、その後、竹工芸の指導でフィリピンに渡る。その地で大田原の竹工芸家・八木澤啓造に出会い師事され、茶道具や伝統工芸の世界へ進まれたそう。工房には、素峯さんの作品である雅な花籠などが並びますが、その横には、やはり竹工芸のクラフト作家であった母の力強い作品の数々も。

そんな環境の中、岳彦さんが建築を学び、海外を旅して思ったのは、日本の手技を残したいということ。間近で父の作品をあらためて見て、その緻密で繊細な造形美に感動し、竹工芸を継ぐことを決心したのだといいます。

こんな出会いがあり、岳彦さんに毎日使う平ざるを、野菜の水切りにも使え、パンやおむすびも盛れるものをつくっていただいたのがその当時。美しく丁寧なつくりの平ざるは、魅力的ではありましたが、私の日常には少々繊細過ぎると感じたのでした。しかし使い続けていると、見た目の竹の細さ、繊細さ、しなやかなその存在に癒されていると気づきました。

久々にデパートでのさまざまなつくり手たちの手仕事展へ出向き、そこで見たのは、伸びやかな楕円の麻の葉の籠。気持ちよい作風に思わず取り上げてみると、その丁寧な仕事には見覚えがある。そう、岳彦さんの新作でした。

すっと伸びたほどよい長さの楕円の籠は、繊細ながらもバランスのいい太さの竹幅。きれいなカーブを描いた立ち上がりに張りがあって美しい。ガシガシと使いたくなる健康的な美しさを備えています。早速制作にあたっての過程をお聞きしました。

素材は真竹。均等に力のかかる丸型とは違い、楕円型だと端部に力がかるので、その材料の選別や取り方にも気を遣う。まずは縁にあたる楕円をつくるのだが、アール部分をきれいな形状にし、維持するためには節を避ける必要がある。そのため、通常より長めの節間のものを選んで、成形する。楕円に平たく編んだものを押し込みながら立体的にかたちづくる。網み目は麻の葉模様とし「麻の葉編み押し込み籠」と命名した。

「待ってました!」と言わんばかりの籠に仕上がった。

父の工芸的な美しさと、母のクラフト的な日常感の美を掛け合わせたものをと、日々制作している。そして土地柄、竹工芸の東の拠点として、文化的な意味合いも大切にし、つないでゆきたいという思いがあると言います。

成長するうつわをずっと見守り、使い続けたいと思います。

佐川岳彦さんの「麻の葉編み押し込み籠」。約W410 ×D195×H65㎜(大)1万7600円、約W285×D123×H50㎜(小)1万3200円。焼きたてのバゲットを盛るによし、野菜や果物によし。今日はグリーンピースご飯のおむすびに、厚焼き卵をたっぷり盛った。桜咲く公園にでも繰り出したくなる

タミゼクロイソ
Mail|mail@tamiser.com

text&styling : Midori Takahashi photo : Atsushi Kondo
Discover Japan 2021年5月号「美味しいニッポントラベル」


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