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縄文の次は、蓑虫ブーム到来!?
幕末の絵師「蓑虫山人」はどう生きたか

2020.12.5
縄文の次は、蓑虫ブーム到来!?<br>幕末の絵師「蓑虫山人」はどう生きたか
秋田県立博物館に所蔵されている土偶と、蓑虫山人が写し描いた絵日記。記録と絵画的な魅力が同居している

縄文好きなら、一番有名な土偶「遮光器土偶」はご存じのはず。では、それを発掘したとされる人物「蓑虫山人(みのむし・さんじん)」は知っていますか? 実はいま、岐阜・安八町歴史民俗資料館(~2020年12月24日「蓑虫山人展」開催)をはじめ、全国のゆかりの地で企画展が開催されるなど、蓑虫山人がブームの兆し。ウィズコロナの時代のヒントにもなりえる、蓑虫山人の生き方含めて注目が集まっています。小誌『Discover Japan』では、2019年5月号から2020年4月号までの期間、「蓑虫山人のオン・ザ・ロード」として連載で紹介してきました。本記事では、蓑虫山人の魅力にあらためて迫ります。

蓑虫山人(みのむし・さんじん)
本名、土岐源吾(とき・げんご)。1836年、美濃の国(現在の岐阜県)安八郡結村に生まれる。幕末から明治にかけての激動の時代に日本60余州を絵筆とともにめぐり、風景から縄文土器の写生など、多くの作品を残した絵師。日本中の珍物を集めた博物館「六十六庵」設立を生涯の夢としていたが、果たせぬまま1900年に他界。享年65歳

蓑虫山人とは、いったい何者か?

蓑虫山人が東北を訪れた際に描いた、亀ヶ岡遺跡を発掘するの図。右端の人物は蓑虫本人。明治17年11月の光景

「折り畳みの家を背負って旅をしたアドレスホッパーだった」
「幕末に西郷隆盛を助けた」
「勝海舟、山岡鉄舟とも知り合いだった」
「青森・亀ヶ岡で、あの遮光器土偶を発掘した」
「日本ではじめて縄文展を開いた」
「明治時代のインフルエンサーだった」
「クラウドファンディングで竹の庵を建てた」
「熱田神宮の境内に私設博物館をつくろうとした」

これらはすべて、蓑虫山人にまつわるエピソード(とされている)。実は、誰もが知っている史実の裏側に、蓑虫山人の姿がある。

美濃の国(現在の岐阜県安八町)で名家の妾腹として生まれた蓑虫山人(本名・土岐源吾1836~1900)は、母の死をきっかけに14歳で家を出て、以来、全国各地で絵や書を描きながら自由な放浪生活を送った。
はじめは九州地方、その後、中国・近畿・東海・関東を経て、1877年には東北(北奥羽地方)へ。蓑虫山人にとって、北奥羽の風土は居心地のいいものであったようで、放浪の旅を終える1896年まで毎年のように来遊し、多くの地域民と交流した。

北奥羽での印象的なエピソードに、冒頭でも紹介した亀ヶ岡遺跡にまつわる一件がある。
蓑虫山人は、考古遺物に深い関心を抱き、1887年には青森・亀ヶ岡遺跡の発掘調査を手掛けた。この調査の様子を記した書簡は当時『人類学雑誌』に掲載され、亀ヶ岡遺跡の名を全国区にしたといわれている。

ちなみに「蓑虫」の名は、バックパッカーのように生活用具一式を背負い、時には折り畳み自在の寝幌に一夜を過ごす旅のスタイルから、蓑虫山人自身が名付けたもの。奇想天外で独立独歩、そしてユーモアの達人。その人柄は多くの人々から愛され、各地にはいまも蓑虫山人が描き残した絵日記が残っている。絵日記には、幕末から明治という、ウィズコロナ時代のいまよりもさらに激動の時代を、愉快に生きた蓑虫山人と人々の暮らしが生き生きと描かれている。絵日記を眺めていると、自然と心が和み、また、蓑虫山人は人生を愉しくする天才だったと思えてくる。

世間的には必ずしも有名とはいえない人物だが、2016年にはNHK『日曜美術館』で取り上げられ、その朴訥でユニークな絵とともに、何者にも縛られない生き方が反響を呼んだ。

閉塞的な世情にも響くものがあり、2020年のいま、あらためて蓑虫山人への注目が集まっている。

連載「蓑虫山人のオン・ザ・ロード」全記事

【第1回】1849年、源吾の家出 蓑虫山人になる前の物語
 

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【第2回】九州、幕末 蓑虫山人は西郷隆盛を救ったか?前編
 

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【第3回】九州、幕末 蓑虫山人は西郷隆盛を救ったか?後編
 

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【第4回】蓑虫山人の東北漫遊日記「蓑虫、縄文にハマる」
 

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【第5回】蓑虫山人の東北漫遊日記
「蓑虫山人のすべらない話」

 

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【第6回】蓑虫山人の東北漫遊日記「蓑虫山人に出会う」
 

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【最終回】岐阜-名古屋 蓑虫山人のサウダーヂ
 

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蓑虫山人を深く知る『蓑虫放浪』発売中

著者|望月昭秀(『縄文ZINE編集長』)
写真|田附 勝
体裁|A5判変形並製 口絵16頁+本文266頁(カラー頁多数)
発行|国書刊行会
本体価格|2600円

文=望月昭秀(もちづき・あきひで)
『縄文ZINE』編集長にしてニルソンデザイン事務所代表。道南縄文応援大使。2015年夏に創刊した、縄文時代をテーマにしたフリーペーパー『縄文ZINE』で、新しい縄文ファンを発掘中。著書に『縄文人に相談だ』(国書刊行会)、『縄文力で生き残れ』(創元社)、『縄文ZINE(土)』(ニルソンデザイン事務所)がある

写真=田附 勝(たつき・まさる)
1995年よりフリーランスの写真家として活動。2006年より東北地方に通い、撮影を続ける。2011年、写真集『東北』(リトルモア)を刊行、同作で第37回木村伊兵衛写真賞を受賞。写真集『KAKERA』(T&M Project)が3月リリース。好評発売中

text:Discover Japan

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