TRADITION

「香木(こうぼく)」
お香のもととなる伝統的な素材
|日本の香りの素材

2025.5.8
「香木(こうぼく)」<br>お香のもととなる伝統的な素材<br><small>|日本の香りの素材</small>

日本古来の香りであるお香には、線香や塗香、薫物などさまざまある。その芳香は、地球が長い時間をかけて育んだ香木や、生薬としても使われる草根木皮をはじめとする自然の恵みから生まれる。今回は、お香のもととなる伝統的な素材の「香木」をご紹介。

天然由来の素材から生まれる
日本の伝統的な香り

伝統的な日本のお香の香りは香木に由来する。香木は、その名の通り「香りのする木」のことで、一般には沈香と白檀を意味する。いずれも産地が限られている上、香木となるまでに数十年から数百年かかる大変貴重なもの。特に白檀びゃくだんは、栽培が難しく、生育に時間がかかるため、世界的に入手困難な状態となっている。

香道では、香木(主に沈香じんこう)を「六国五味りっこくごみ」として分類し、香りの繊細な違いを鑑賞する。香りの品質によって分類する六国は「木所きどころ」ともいい、「伽羅きゃら」を除いてその名称は産地に由来しているが、実際のところはその香木の香りの特徴によって分類されている。五味は香りの特徴を5つの味覚(酸・苦・甘・辛・かん)で表現するもの。ひとつの香木が必ずしもひとつの「味」ではなく、複数の味を備えるものもある。また流派によっても解釈が異なる。

〈香木の原料の基本〉

白檀びゃくだん

葉や樹皮ではなく幹や根の芯材部分に含まれる精油に芳香がある。木肌は灰白色でなめらか。柔らかで甘いウッディ調の香り。産地により香りの特徴が異なる。

沈香じんこう

樹木が傷ついたときに出す樹液が長い年月をかけて変質・熟成してはじめて香木となる。名前は、比重が大きく、水に沈むことに由来する。香木ごとに特有の香りがある。

香道御家流における、
香りの品質による分類「六国」

真那賀まなか

マレーシアのマラッカという地名が語源とされる。気品のある柔らかな香りの沈香。五味をすべて混ぜ合わせたような香りという意味で「無味」と表されることがある。

 

羅国らこく

武士の香りとも表現される、繊細で上品な香りの沈香。五味では「甘」などで表される。名称は、タイのかつての国名である暹羅(シャム)に由来するといわれる。

 

伽羅きゃら

香りの特長を表す五味をバランスよく感じられる沈香の最高峰。木肌の色や香質ごとに緑油、黒油、紫油、黄油に分けられる。語源は梵語のカラ(黒)、アグル(木)からと伝わる。

 

寸聞多羅すもたら

インドネシアのスマトラ島が語源といわれる。特徴的な香気は、五味では「酸」などで表される。佐曽羅と同様に、香道の流派によって沈香以外の香木を用いることがある。

 

佐曽羅さそら

語源はインドのサッソールという地名といわれる。香道の流派によって沈香以外の香木を用いることがある。写真は白檀。五味では「酸」、「辛」などで表される。

 

真南蛮まなばん

「酸」を感じる落ち着いた香りの沈香。極上品は伽羅に通じるともいわれる。語源は、インドのマナバルという地名であるという説と、南蛮に由来するという説がある。

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日本の香りの素材
01|香木
02|和香木
03|香原料

text: Miyu Narita photo: Maiko Fukui
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