吹きガラス職人《安土草多》
優しい佇まいのうつわができるまで|後編

真っ赤なガラスの玉に息を吹き込み、重力を味方につけて手に馴染むグラスや美しいランプシェードをつくる安土草多さん。2025年6月21日(土)~29日(日)にかけて東京・渋谷パルコのDiscover Japan Lab.での個展が決定!飛騨高山にある工房で、うつわができるまでのの工夫を見せてもらった。アンティークのように優しい佇まいになる理由とは?
アンティークのように
優しい佇まいのうつわ

草多さんの工房はとても機能的だ。彼が立つ位置を中心に、ガラスの原料を溶かす溶融炉、作業の途中で熱を加える成形炉、かたちを整え余分な熱を取るための鉄輪、作業台、徐冷庫などがほぼ円状に配置され、最小限の動線ですべての作業ができるようになっている。夏でも体力が奪われないよう、送風や冷房の設備も抜かりない。

底に厚みをもたせた安定感と、手に馴染むサイズ感が抜群。ウイスキーや梅酒をロックでゆっくり飲む時間がいとおしくなる。右(緑透き被せ)4400円、左3850円
1300℃超えの炉のるつぼの中でドロドロに溶けたガラスは流体で、力に満ちている。それを吹いてうつわとする。冷えたグラスに原初のガラスの力が残っているかどうか。それが父の教えだ。吹き竿にからめ取ったガラスの赤い球が、吹き込む息と重力により、伸びたり流れたりしながらあるかたちになる。

心地よい厚みとガラス表面の揺らぎ、丸みのあるステムがアンティークグラスのよう。リムがわずかに広がって口当たりがよく、ワインが気持ちよく流れ込む。7700円
どこで息を止めるか、どこで手を止めるかの判断は一瞬で、ゆえに身体性が大事になる。なるべく手をかけずにガラスの力を生かし、数を多くつくることで見えてくるものがあるのでは。草多さんのうつわが、優しさの中に芯がある理由がわかった気がした。

脚があるコンポート皿は、テーブルに置くだけで思わず目が向くような華やぎを生むうつわ。フルーツやコーヒーの小菓子、ハーブや薬味を盛ってもすてき。8250円
食卓にガラスが1点でも入ると、場が一気に柔らかくなるものだ。「ガラスは周りの色を映し込みますからね。空気が少し軽くなる」。それが吹きガラスならなおのこと。暮らしに心地よい空気をもたらしてくれる。

植物の茎や、水と空気の境界線まで美しく見せてくれるガラスの花器。一輪投げ入れるだけでもさまになり、揺らめくガラスを通して広がる光や影も絵になる。4950円
“揺らぐ”うつわができるまで
①下玉をつくる
3日ほどかけて溶融炉のるつぼの温度を1300℃以上に上げ、その中でひと晩かけて溶かしたガラスを、吹き竿の先にからめ取る。

②息を吹き込み膨らませる
鉄輪でかたちを整え、扱いやすい温度にした後、竿を回しながら息を吹き込んで膨らませ、ガラスの中に空洞をつくる。

③再びガラスを巻き取る
小さな球に巻き付けるかたちでさらに溶けたガラスを取る。作品の大きさに合わせ、この段階でガラスの量を決める。

④型に入れて整形する
再度鉄輪でかたちと温度を整え、金型に入れて息を吹き込む。型に触れたガラスの表面が冷やされて縮み、模様が浮き上がる。

⑤底面を整える
型から外し、片手で竿を回しながらコテを当てて底面を整える。ガラスが重力で垂れないよう、竿は常に回転させておく。

⑥支えのポンテ竿を付ける
グラスの口を整えるため、底面にごく少量のガラスの玉を付けて、支えのためのポンテ竿を付ける。吹き竿は切り離す。

⑦かたちを整える作業の繰り返し
ポンテ竿で支えて成形炉に入れ、ガラスを再度柔らかくする。竿を振ってガラスを伸ばすなどし、かたちを整える。

⑧グラスの口を整える
グラスの口のほうをハサミできれいに切り落とす。成形炉に入れて柔らかくし、グラスの口の幅を広げるなどかたちを整える。

⑨徐冷庫で温度を下げる
470℃の徐冷庫に入れ、ポンテ竿をコンとたたいて外す。ガラスのひずみを取りながらひと晩かけてゆっくり温度を下げる。

安土さんのうつわを愛用する料理人
安土さんのうつわを日常的に使っているからこそわかる、その魅力とは?

Ăn Đi シェフ 鈴木康哉さん
ベトナム料理をコース仕立てで提供する「Ăn Đi」では、安土さんのグラスを水と日本酒、焼酎を提供する際に使用している。「温かみのある見た目や手にしたときの心地よさ、口当たりの優しさが魅力です。酒を料理とのペアリングで紹介するときも、美味しさをより引き出してもらっています」とシェフの鈴木さん。

Ăn Đi
住所|東京都渋谷区神宮前3-42-12 1F
Tel|03-6447-5447
営業時間|12:00~13:30(土・日曜のみ)、18:00~23:00
定休日|月曜
http://andivietnamese.com
「Discover Japan Lab.」で
安土草多さんの企画展を開催!
開催期間|2025年6月21日(土)~29日(日)
※詳細はInstagram(@discoverjapan_lab)をチェック!
line
公式オンラインショップ
text: Yukie Masumoto photo: Atsushi Yamahira
2025年1月号「ニッポンのいいもの美味いもの」