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熊本・南小国町《Foreque/喫茶 竹の熊》
小国杉を未来につなぐまち・ひとづくり。
|九州観光まちづくりAWARD2024 大賞

2024.10.2
熊本・南小国町《Foreque/喫茶 竹の熊》<br><small>小国杉を未来につなぐまち・ひとづくり。<br>|九州観光まちづくりAWARD2024 大賞</small>

2024年、2回目を迎えた、JR九州が主催する「九州観光まちづくりAWARD」。食・ものづくり・賑わいなど、風土と人を生かしたさまざまな取り組みに触れることは、心震わせる感動の連続! 今回、2024年度の「九州観光まちづくりAWARD」の大賞を受賞したのは、「Foreque/喫茶 竹の熊」。熊本の山の中、小さな南小国町で生まれたプロダクトや建築が、いま国内外から注目を集め、人を呼んでいる。魅力あふれるその取り組みとは。

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南小国の伝統を楽しむ
文化観光の最新事例がここに!

穴井俊輔さん、里奈さん夫妻。二人三脚でForequeを創業。FILや喫茶 竹の熊をはじめ、さまざまなプロジェクトを進め、地域を元気にしている

熊本県の阿蘇外輪山のふもとに広がる南小国町。深い緑に抱かれ、黒川温泉郷の観光業、そして林業と農業を営む人口約4000人の小さな農村だ。

この地に、2023年突如あらわれた田園風景と溶け合うような「喫茶 竹の熊」が大きな話題になっている。

手掛けるのは、林業会社の3代目で、林業をベースにプロダクトを展開する「Foreque」の代表·穴井俊輔さんだ。「かつて東北で大飢饉が起こり、日本中が苦しい状況の中、林業の視察地に南小国が選ばれたそうです。いまも受け継がれている豊かな風景を、これからも護り続けていきたいと願い、喫茶 竹の熊をつくりました」と穴井さん。

その地ならではの季節、陰翳礼讃を体感
照明を客席に一切入れていない喫茶 竹の熊。時間によって変化する風景や、季節の移ろいを肌で感じることができる。「晴れの日だけがすべてではない、雨や寒さの中に現れる光の様子も楽しんでもらいたいです」

建築材に使っているのは九州のブランド杉のひとつ、小国杉だ。油分が高く、しなやかでしっとりとした手触り。中心部は明るくほんのり桜色をしており、徐々に飴色のように経年していく。建築材としては隠れた部分ではなく、部屋の魅せる部分に使用されることも多い、美点が多い木材だ。

大きな窓から日本の原風景を堪能。水田にはつがいで鴨がやってきたり、メジロやカワセミも飛んでくるという。喫茶内のテーブルは大径の小国杉を使用。建築家・下川徹氏の初プロダクトとなる椅子は店舗で購入も可能

しかし、東京で働いた後、穴井さんが家業に就いた当初、地元の林業は低迷しており、小国杉の認知向上と普及のために妻の里奈さんと試行錯誤をはじめた。そこで、伐採時に放置される小国杉の葉を集めて蒸留したエッセンシャルオイルをつくり、地元のビジネスプランコンテストで最優秀賞を受賞。希望の光が見えはじめたと思ったときに、熊本地震が襲う。市場の大きな部分だと確信していた黒川温泉も観光客が激減する、つらい状況が続いたという。

FILの家具ラインで展開している「MASS Series」は、小国杉の無垢材を贅沢に使用。杉の重量感と軽やかな印象を与えるフレームの対比が美しい。20万6800円〜

しかし、こんなときこそ地域を元気にしたいと穴井さんは奮起。その思いに共鳴するクリエイターと一緒に、人と自然とのかかわりや満たされる暮らしについて問う、インテリアライフスタイルブランド「FIL」を立ち上げた。

パリで活躍する「Miya Shinma PARFUMS」とのコラボレーションで生まれた、阿蘇山の溶岩石に小国杉のフレグランスをまとわせたポプリ。「Pot-Pourri Susa no 素戔嗚」2万5080円

阿蘇の草原のように風通しのいい風景をイメージした家具や、オリジナルのフレグランスなどが完成するが、内心不安の中でローンチ。しかし蓋を開けてみると、確かなものづくりや小国杉の魅力、南小国町の豊かな自然など、ブランドが語るストーリーに、まずはイタリアやイギリスなどのメディアが反応。その勢いで国内外40ほどのメディアに広がり、国内の旅館やホテルでも導入され、世界三大デザイン賞のひとつ、iFデザインアワードも受賞。

喫茶 竹の熊では、新穀の恵みを神に捧げ感謝する収穫祭「新嘗祭」を開催(2024年は11月23日を予定)。地域の無形文化財である神楽も奉納される
地元保育園の卒園遠足先になることも。伝統や文化を守りながら、地域の人々や子どもたちが思い出を残す場にもなっている

「世界的な宝飾ブランドから撮影のために家具を使用したい、と連絡がきたときはだまされていると思いました」と穴井さんは笑顔をこぼす。そしていまは熊本の肥後銀行の子飼橋支店を手掛けるなど、地元でも彼の活動は注目を集める。さらに穴井さんは、地元の役場・保育園や小中学校と協力し、各学年の木育授業をForequeで担っている。南小国町は高校がないため、中学校を卒業すると子どもは町を出ていってしまう。しかし、地域資源に触れることで情緒的な感動を伝え、子どもを送り出し、やがて戻ってきたときの受け皿になりたいと考えているのだ。

木を使いきり、地域を元気にする仕組みづくり
森を育てる林業をベースに木工所や喫茶などの雇用。間伐材を生かした精油抽出やプロダクトの製造。小国杉を使った子どもの教育や居場所づくりなど、木を軸に穴井さんの活動は大きく循環している

「建築、空間づくりの素晴らしさに驚きました。海外に発信するグローバルな目線と、新嘗祭や子どもたちへのローカルな目線の両方のバランスがよく、これからの地域が目指す理想的な姿です」と建築家・永山祐子さん。「“真善美”がこれだけ揃うところはそうそうない。小さな町で見事なプロジェクトに取り組む穴井さんに、勇気をもらう人がたくさんいると思います」と伝統技術ディレクター·立川裕大さん。審査員の絶賛を受けた穴井さんの今後の活躍に、世界が注目している。

 

福岡・みやま市
筒井時正玩具花火製造所

 
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喫茶 竹の熊
住所|熊本県阿蘇郡南小国町赤馬場2041
Tel|0967-42-1010
営業時間|11:00~16:00(L.O.15:30)
定休日|木・金曜
https://takenokuma.jp

text: Nozomi Kage photo: Hiromasa Otsuka
Discover Japan 2024年10月号「自然とアートの旅。/九州」

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