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海に浮かぶかのように建つ
広島《嚴島神社》
建築×自然でめぐる神宿る島・宮島【後編】

2023.9.6
海に浮かぶかのように建つ<br>広島《嚴島神社》<br><small>建築×自然でめぐる神宿る島・宮島【後編】</small>

広島にある日本三景のひとつ「安芸の宮島」。G7広島サミットの際、各国首脳が訪れたことであらためて注目されたここは、古来「神を斎き奉る島」として、篤く信仰されてきた聖地である。
 
大鳥居と洗練された寝殿造の社殿が、海に浮かぶかのように建つ「嚴島神社」。誰もが魅了される神秘的な姿だがそもそも、なぜ海の中に建てられたのだろう。

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随所にあふれる自然への敬意

本土との間の狭い海峡・大野瀬戸を背に立つ大鳥居。1875(明治8)年に再建されたもので、2019年からの令和の大改修では、根継をはじめ補修が慎重に施された

海上交通が盛んであった江戸時代頃までは、海そのものが嚴島神社の参道であり、多くの船が大鳥居をくぐって社殿に向かっていた。
 
平安時代頃のものを初代とすると、現在の大鳥居は9代目。たび重なる台風や自然災害で壊れるも、その都度再建されてきた。高さ16.6mの大鳥居を支える柱は、驚くことに地中には埋め込まれていないという。数百本の松の杭を海中の砂地に打ち込み、地面を固めた上に平らな石を置き、その上に主柱と袖柱を据えるという構造で、約60tの鳥居自体の重みで絶妙なバランスを保っている。
 
大鳥居から陸を振り返ると、北西の丘の上に見えるのが「豊国神社」と「五重塔」。豊臣秀吉が1587(天正15)年からはじめた大経堂(現・豊国神社)の建設は、秀吉の死で中断、未完成のまま、いまに至る。畳1000枚ほど敷ける広さから「千畳閣」とも呼ばれるここに、壁は一切ない。内と外との境がない空間には風が通り抜け、宮島の自然が身体いっぱいに感じられる。
 
豊国神社よりさらに180年前の1407(応永14)年建立という五重塔は、厳島の神仏習合の歴史を示す。朱塗りの塔が映える眺めは、この島の祈りのかたちが自然と溶け合うさまだ。

大鳥居
 
自立型で海の中も傷つけない構造
上部の笠木と島木の中は空洞で小石がぎっしり詰めてあり、全重量は約60t。クスノキの主柱2本の前後に、それぞれ袖柱2本を備えた「両部鳥居」構造の6本柱で、その重さを支えている

豊国神社
 
未完成だから生まれた絶景
四方に壁も建具も一切ないため周囲の緑がパノラマで望め、抜ける風がなんとも心地よい。回廊の大虹梁の下には階段が架けられる予定だったとか(写真上)。本瓦葺きの入母屋造で、金箔が押された軒瓦の紋様などに桃山文化らしさを感じる(写真下)。

五重塔
 
海風に耐える“しなる”建築
1407(応永14)年建立。高さは約29m。反った軒や軒裏の精緻な木組みなどは禅宗様、板扉などは和様と融合したスタイルだ。心柱は2層目までで止まり地に据え付けられていないため、強い海風を受けても、しなって耐えられる構造

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嚴島神社
住所|広島県廿日市市宮島町1-1
Tel|0829-44-2020(社務所)
拝観時間|6:30〜18:00 ※季節により変動あり
拝観料|[嚴島神社]一般300円、高校生200円、中小生100円
[豊国神社]一般100円、中小生50円
※五重塔の中には入れません
www.itsukushimajinja.jp

 

歩くたびご利益に出合う、
空海ゆかりの聖地《弥山》

 
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text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Yuta Togo
Discover Japan 2023年8月号「夏の聖地めぐり。」

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