歩くたびご利益に出合う、
空海ゆかりの聖地《弥山》
建築×自然でめぐる神宿る島・宮島
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広島にある日本三景のひとつ「安芸の宮島」。G7広島サミットの際、各国首脳が訪れたことであらためて注目されたここは、古来「神を斎き奉る島」として、篤く信仰されてきた聖地である。
宮島の霊峰・弥山は弘法大師空海が修行し、その護摩行の火がいまも守られる地。宮島最古の寺院・大聖院から山をめぐってみよう。
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神の島は平安時代以降、仏教や山岳信仰とも密接な関係を結んだ。その大きなきっかけは真言宗の祖・弘法大師空海による開山だ。唐への留学から帰国した空海は、京に戻る途上で対岸から宮島を望んだ。雲の上にそびえる峰の姿が、願望をかなえる玉の「如意宝珠」に似ていたことから、その山頂近くにお堂を建てて修行。この霊峰を仏教の宇宙観に説かれる「須弥山」になぞらえ「弥山」と名づけ、806(大同元)年に大聖院を開いた。
大聖院は神仏習合の時代、嚴島神社の別当寺として、平清盛がはじめた管絃祭などの行事を采配。皇族とのゆかりも深く、戦国時代には豊臣秀吉をはじめ武将が続々と、嚴島神社とともに大聖院を参拝した。
大聖院の主要な4つの堂をめぐると、その多様な信仰のありようが見えてくる。まず空海を祀る「大師堂」、嚴島神社の本地仏である十一面観世音菩薩を祀る「観音堂」、豊臣秀吉の念持仏・波切不動明王を祀る「勅願堂」、そして弥山の守護神・三鬼大権現を祀る「摩尼殿」だ。三鬼大権現は福徳をつかさどる大日如来、降伏の徳をつかさどる不動明王、知恵の徳をつかさどる虚空蔵菩薩、それぞれの化身とされる鬼神で、空海が守護神として勧請したもの。いまも「三鬼さん」と地元の人々に親しまれている。ほかにも明治時代の神仏分離令により廃された島内の寺院から託された数多の仏像も祀られ、境内で出合うご利益は数え切れない。
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修験道の祖・役行者も訪れて修行した弥山は、標高535m。人の手が長く入らなかった霊峰には、貴重な生態系が残り、弥山原始林は嚴島神社と併せて世界文化遺産に登録されている。山頂へはロープウエーもあるが、大聖院から1時間半程度かけて登ることもできる。道中には多くのお地蔵さまが祀られ、空海の護摩行の火を護る「霊火堂」など祈りの場が点在。三鬼大権現を篤く信仰した初代内閣総理大臣・伊藤博文も、たびたびこの弥山を訪れ、「日本三景の一の真価は頂上の眺めにあり」と称賛したそうだ。
山頂には、少年の頃から毎正月、弥山のご来光を拝んできたという建築家・三分一博志さんの設計による展望台が建つ。屋根は、嚴島神社回廊の床板からヒントを得たという隙間を設けた構造で、心地よく風が通り抜ける。古代、神が降臨したという巨石群の「磐座」、そして瀬戸内の穏やかな海を遥かに見渡す絶景。青い空の下、穏やかな波間に浮かぶ大小の島影を眺めていると、心がすっと晴れていく。
弥山のふもとで、どのご利益にあやかりたい?
大師堂の地下にある「遍照窟(へんじょうくつ)」は、四国八十八ヶ所霊場の本尊と砂が安置されており、一つひとつめぐれば四国遍路と同じご利益が得られるという(*1)。キリッとした表情を見せる大師像は、室町時代の造立と伝えられる(*2)
大聖院
住所|広島県廿日市市宮島町210
Tel|0829-44-0111
拝観時間|8:00〜17:00
拝観料|無料
https://daisho-in.com
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祈りの場が続く登山道
空海が護摩行を行った火を、絶やさず1200年以上護り継ぐ「きえずの火」。広島平和記念公園の「平和の灯」の元火にもなった。その火を使い大茶釜で炊いた霊水は万病に効くとされる
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名建築から聖地を眺める
建築家・三分一(さんぶいち)博志さんが設計した弥山展望台。3層のすっきりとした建物が、風景にそっと溶け込む。屋根の透き間から光と風が抜けて心地よい。2階では縁側のような床に座り、ゆったりと瀬戸内海を望むことができる
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<弥山山頂までのアクセス>
[ロープウエーの場合]
宮島桟橋から紅葉谷公園入り口まで徒歩で約20分。紅葉谷公園入り口から宮島ロープウエー・紅葉谷駅まで無料送迎バスで約3分。紅葉谷駅から榧谷駅で乗り換え、獅子岩駅までロープウエーで約20分。獅子岩駅から山頂まで徒歩で約35分。
※ほか3種類の登山ルートあり
自然を取り込む宿《Simose Art Garden Villa》
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1|海に浮かぶかのように建つ広島《嚴島神社》前編
2|海に浮かぶかのように建つ広島《嚴島神社》後編
3|歩くたびご利益に出合う、空海ゆかりの聖地《弥山》
4|建築家・坂 茂が手掛けた自然を取り込む宿《Simose Art Garden Villa》前編
5|建築家・坂 茂が手掛けた自然を取り込む宿《Simose Art Garden Villa》後編
text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Yuta Togo
Discover Japan 2023年8月号「夏の聖地めぐり。」