TOEDA<トエダ 軽井沢>
世界一を目指すシェフが信州素材にこだわるフレンチレストラン
犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン
思いがけないところに、思ってもみなかったいい店がある。日本のレストラン文化はこんなに奥深い!と感激する店を探してきました!今回は、ボキューズ・ドール国際コンクール本戦出場に向けて注目を集める戸枝忠孝シェフが軽井沢で営む、信州素材にこだわったフレンチレストラン「TOEDA(トエダ)」を紹介します。
犬養裕美子(いぬかい・ゆみこ)
東京を中心に世界のレストラン、食文化を取材。最近は日本の地方に注目。郷土料理を守るだけでなく、その土地の生産者とともに新しいレストラン様式に挑戦するシェフを取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員
日本人でも、地方でも、
個人経営の店でも、世界一になれる!
信州から発信するミライのフランス料理
いつも通っている近所のフレンチレストランで「明日は軽井沢に取材」と言ったら「いま話題の戸枝シェフですか?」とうらやましそうな顔をされた。ボキューズ・ドール国際コンクール予選で優勝し、本選出場予定の戸枝シェフのへの注目度は、料理人の間でますますアップしているようだ。
戸枝忠孝シェフが軽井沢に店を出したのは2011年。場所は国道18号線から離れた静かな場所。店の脇には湯川が流れている。2018年に改築した部分は道側が白い壁で店には見えない。回り込んで中に入ってようやくレストランだとわかる。ゆったりしたダイニングは3卓のみ。シェフとマダムの繭子さんの二人が余裕をもって、もてなせる数だ。
オープン当時はそれほど信州素材にこだわってはいなかったが、料理人仲間から生産者を紹介されたのを機会に、信州素材に魅了されるようになる。信州サーモン、信州大王イワナ、信州豚、信州牛、信州リンゴ、キノコなど。いまでは9割以上が信州産素材。
信州産スペシャリテが、信州サーモン、野沢菜、有明産海苔のひと皿。鮭、野沢菜、海苔の3アイテムは朝食のイメージだが、野沢菜の煮汁を使ってサーモンを減圧調理することで酸味を含ませるのがポイント。サーモンと海苔で飾り巻き寿司風のビジュアルが印象的だ。
戸枝シェフがボキューズ・ドールに注目したのは2013年1月。浜田統之シェフが世界3位に入賞したとき。軽井沢からでも世界に出られる! と刺激を受け、2016年国内予選に初出場。結果は2位。本選にはチームジャパンの一員として参加し、世界の舞台を体験した。
「ここでやめたら後悔する。もう一度、挑戦しよう」。
個人店でコンクールに参加するのは資金的に難しいといわれてきた。しかし戸枝シェフは店を1カ月休み、準備を重ねた。その努力のかいあって2019年の国内予選では優勝を果たし、日本代表となった。(本選はコロナのため2021年6月に延期)。
暗いニュースが多い中、戸枝シェフの活躍には大きな期待が寄せられている。頑張れ戸枝シェフ! 信州素材とともに、目差せ、世界の頂点!
料理界のオリンピック
「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」
1987年に創設されたフランス料理コンクールの最高峰。創設者は現代フランス料理の父といわれる、故ポール・ボキューズ氏。まず国内大会、大陸予選を経て本選24カ国が参戦。2年に1度、フランス・リヨンで本選が行われる。2021年の本選はコロナの影響を受け、1月開催が6月に変更して行われる予定。コンクール会場は一般客にもオープン。熱狂的な応援合戦も見どころ。
ある日のディナーコース
日頃の仕事がコンクールのための特訓に。
世界に向けて常に新しい素材の組み合わせを発信する
戸枝シェフは現在、料理1人、サービス1人、つまり夫婦最小ユニットで営業している。しかし、以下のようなひと皿に手間のかかるプレゼンテーションも問題なくこなせるのは「毎日の仕事がコンクールのための練習だと思って取り組んでいる」からだ。毎日届く新鮮な素材を、即座に「どんなものと組み合わせるかを考え、試してみる。たとえばニンジンやビーツはさまざまな肉と相性がいい。信州豚、ほろほろ鳥などにちょっとだけアレンジを加えて仕上げる。そのアレンジが新しいメニューのヒントになる。
いまでは90%信州素材を使うようになった戸枝シェフ。軽井沢だからこ創造力をかき立てられたのだろう。毎日が真剣勝負の戸枝シェフの料理を目指しgo to軽井沢!
1. フィンガープレート
竹墨のパンに佐久市にあるチーズ店「ボスケソ・チーズラボ」のチーズ「ミケ」を乗せて焼いたもの(右)。ハーブの香りのタルトレット。柿のマリネ、生ハムのエスプーマ(中)。定番の信州産リンゴ酢を加えた酸味のあるチュイル=焼き菓子(左奥)。
2. チーズのブランマンジェ
ブランマンジェは白い食べ物の意味。一般的にはアーモンドと牛乳を混ぜ、ゼラチンで固めた甘い菓子を指すが、戸枝シェフはボスケソ・チーズラボの白カビチーズを使用して前菜に。セロリのスプラウト、プチトマトの皮、ローストした蕎麦の実が食感を演出する。
3. 信州サーモンと海苔、野沢菜のテリーヌ
日本の朝食から連想した、信州サーモンと野沢菜、海苔の組み合わせ。野沢菜を水で煮た「出汁」で減圧調理によってサーモンに酸味と旨みを浸透させる。その身を海苔で巻いて飾り巻き寿司のように成形。味とデザインにニッポンを感じる、個性的なひと皿。
4. 信州産キノコのフラン
信州はキノコの宝庫、生産量日本一。ハナビラ茸、ナメコ、エノキ茸、香茸がそれぞれ香り、味、食感の個性を競う。粉末にした「国産木の子えのき」を出汁に加え、洋風茶碗蒸し仕立てに。木の子えのきは地元企業の「丸金」が開発した。戸枝シェフの支援企業だ。
国際大会で生まれた
深紅の美しいひと皿がコースを彩る
5. 信州牛のリエット
ボキューズ・ドール国内大会で出されたテーマに対する料理の付け合わせを改良。リエットを生地で包んで焼く(おやきのイメージ)、表面はビーツのジュレで覆ってある。添えてあるオレンジ風味のマスタードソースと一緒に味わう、甘くてさっぱりしたリエット。
6. 足赤海老と白土芋のニョッキ
白土芋は長野県小諸の御牧原の白土で育つ男爵芋。ほくほくした食感と白い色が特徴で、価格が普通のジャガイモの2倍はするブランド野菜。これを使ったニョッキと、足赤海老の頭で取った出汁、アメリケーヌソースの組み合わせは、甘くて旨みたっぷり。
7. タラとニンニクソース
タラは低温調理で旨みを逃さず、じっくり火を通す。緑のソースはニンニク風味のネギ油ソース。小さなラビオリは、薄くスライスしたカブでユズのピューレを包んだもの。相性のいい素材だけを組み合わせ、その中でアクセントとしてユズのピューレと皮をプラス。
8. 信州豚と人参
信州豚のロースとヒレをひと皿で。イタリアでいうTボーンのように2種類の肉を味わえる。ロースの回りにヒレを巻き、真空調理でじっくり火を入れていく。ニンジンは棒状に抜いて鰹、昆布など出汁で煮含める。ニンジンを付け合わせに使うときに施す含め煮。
信州に降る雪を思わせるリンゴのスイーツ
9. 信州リンゴのソルベ
信州リンゴといっても品種は多い。その中でシェフがソルベに選んだのは「ふじ」。ふじは生で食べるのが美味しい品種。できるだけ火を入れずにガリっとかぶりついたときの食感を残してある。周りに散らしたのはバニラのジュレの上にリンゴのスライス。
10. 栗のデセール
栗のムースの中に砕いた渋皮煮が入っている。かたちからして「栗」そのもの。栗は信州産ではなく、シェフの奥さまの実家・広島から。栗のムースにココアでグラサージュ、表面にはゴマのチュイルを散らしてある。
11. ミニアルディーズ
小菓子は焼き菓子のバリエーションを楽しむ。サブレ生地のきな粉入りプレーン、ピンクはイチゴ、抹茶、ココナッツの4種類。飲み物はコーヒー、紅茶、ハーブティーのどれかを選ぶ。
ボスケソ・チーズラボも楽しんで!
長野県にはチーズ店が数多くあるが、戸枝シェフは佐久市春日にある「ボスケソ」がお気に入り。オーナーの是本健介氏はHONDA F1チームのエンジニアから転身。「地元の素材、環境を守ることからチーズづくりを考えているところにも共感を覚えます」と戸枝シェフ。
オーナーシェフ 戸枝忠孝(とえだ・ただたか)さん
1976年、神奈川県生まれ、滋賀県の育ち。高校、調理師学校卒業後1999年渡仏。2001年帰国。琵琶湖でカフェを開業。2年でやめて、ひらまつグループ入社。4年後、’07年ミクニグループに移り、シェフとして4年。’11年、独立オープン
TOEDA(トエダ)
住所|長野県北佐久郡軽井沢町長倉1877-1
Tel|0267-45-7038
営業時間|11:30〜13:00(L.O.)、17:30〜20:00(L.O.)
定休日|不定休
※1月以降2021年6月まで休業。営業再開は7月からの予定。
料金|ランチ6000円、ディナー1万円(税・サ別)
http://toeda-karuizawa.com
text:Yumiko Inukai photo: Muneaki Maeda
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