FOOD

《レストラン ナズ》
軽井沢の若き俊英による新時代の一皿|後編
犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン

2022.9.22
《レストラン ナズ》<br>軽井沢の若き俊英による新時代の一皿|後編<br><small>犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン</small>

思いがけないところに、思ってもみなかったいい店がある。日本のレストラン文化はこんなに奥深い!と感激する店を探してきました!今回訪れたのは、オープンからわずか1年で予約が取れないレストランとなった軽井沢の「Restaurant Naz(レストラン ナズ)」。北欧ガストロノミー界の最高峰で研修を重ねた鈴木夏暉シェフによる独創的な料理の数々を前後編で紹介します。

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犬養裕美子(いぬかい・ゆみこ)
東京を中心に世界のレストラン、食文化を取材。特に日本の地方に注目。郷土料理を守るだけでなく、その土地の生産者とともに新しいレストラン様式に挑戦するシェフを取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員

発酵や熟成のひと手間によって
凝縮した素材が次元の違う
美味しさを生み出す

メニューは昼も夜も同じ10皿で1万6500円のコースのみ。料理に合わせたドリンクのペアリングは全7杯。アルコールが1万6500円〜、ノンアルコールが9900円〜。(すべてサービス料10%別)。コースはアミューズ2品、畑の一皿、リゾット、魚料理2品、肉料理、パスタ、デザート、小菓子。季節ごとに年4回替わる。

取材当日はちょうど夏のメニューに切り替わるときでリゾットだけ撮影に間に合わなかった。ちなみにその後に完成したリゾットは、お茶漬けスタイル。素材自体が変化するので、料理も変化していく。その違いを楽しみに、シェフの説明も聞き逃さず記録する熱心なファンも少くない。鈴木シェフの熱の入った解説がさらに味わいを増す。

ある日のディナーコース

アミューズ1|ザリガニと軽井沢トマトのキッシュ
シェフが研修で訪れた北欧で、夏の食の楽しみといえばゆでたザリガニをバケツいっぱい食べること。シェフはそのイメージと軽井沢トマトを組み合わせ、キッシュに仕立てた。極薄の生地はホロホロ!セミドライトマトの旨みと粉末の発酵ラズベリーが爽やか

アミューズ2|発酵ナスと熟成アオリイカの大門そうめん
ナスは発酵させると鮮やかな紫色が美しい。アオリイカは軽く炙って香りを出す。焼きナス、そうめん、キャビアを和えて味わえば、青シソオイルが和の風味を奏でる。味、食感、香りなどさまざまな要素が夏の夜空の花火のように口の中で広がる

畑の一皿|ズッキーニの再構築
野菜が主役の畑の一皿。ズッキーニをうつわに見立て、下に脱水したズッキーニのムースを敷き、その上に丸ごと焼いて焦がしたズッキーニと紅玉のジュースのジュレでまとめた一品。ウニが調味料の役割を担い、ジュレの下に隠し味として忍ばせてある

魚料理1|鮎の春巻
万願寺とうがらしを揚げて、鮎の肝、ショウガと和えて鮎の身で挟み、春巻の皮で包んで揚げる。これだけでも十分美味しいが、ピリ辛のスイカソースが夏らしい。実はこれ、イタリアのカラブリアのソース。和、中華、イタリアンでまとめた大胆な発想

魚料理2|八千穂漁業の熟成信州サーモン
20日熟成のサーモンを燻製・低温調理後、身をほぐす。周りを発酵カブのスライスで囲み、花のピクルスを飾る。仕上げは発酵トマトとザクロ、イチジクの葉のソース。別皿で表面の塩味の強い皮とキンカンの皮、生サーモンと奈良漬け、ルバーブ

肉|ダボス牧場の短黒和牛
熟成を経て食べ頃が近づくと、鈴木シェフの元に肉が届く。その後最もいい状態になってから調理する。この日はカイノミという超稀少部位。ソースは肉から出たジュのみを使う。1週間熟成したサツマイモのロースト、ソテーしたリンゴも存在感のある脇役だ

パスタ|タリアテッレ
食事の最後はパスタで締めるのがNaz流。パスタは手打ち、それも極薄でローズマリーの香りを練り込んである。ゆで時間はほんの2秒! さっと湯にくぐらせる程度。そこに赤身(ダボス牧場の短黒和牛)のミートソースを合わせる。ローズマリーの香りでスッキリ!

デザート|カシスの一生
カシスをはじめスイーツに使うフルーツ専門の生産者「カシスの杜」のカシスを使い、カシスの一生を表現したデザート。カシスの葉を煮出して香りを移してつくったアイスクリームに、赤ワインで煮た果実、カシスの木のオイル、カシスの葉のチュイル

小菓子|ヘーゼルナッツの焼菓子
小麦粉を使わず、ローストしたヘーゼルナッツのパウダーと卵とバターでまとめたお菓子。じっくりと火を入れた焼き菓子だが非常にデリケートな生地なので時間が経つと崩れてしまう。開店以来、変わらない定番

※通常は10品で、コースにはリゾットが含まれます。

ワインもパンも|鈴木シェフならではのひとひねり
ワインペアリングも鈴木シェフがセレクト。「ジョージア」(グルジア)のような難しいワインをサラリと料理に合わせて出してくる!

焼きたてで登場するローズマリーのフォカッチャ。実は南イタリアでピッツァの生地に使うゼロゼロを使用。表面パリパリ中はモッチモチ

中央が鈴木シェフ。左隣はサービスのお母さま・智恵さん。右端がスーシェフの寺内稜さん

シェフ
鈴木夏暉(すずき・なつき)さん

1994年、長野県佐久市生まれ。食堂を営む祖父の影響で飲食の道に進む。16歳からピザ店で修業、21歳で本格的に料理をはじめる。北欧で研修をはじめるもコロナでロックダウン。帰国後2020年、26歳で独立。「ゴ・エ・ミヨジャポン2022」で「期待の若手シェフ賞」

Restaurant Naz
住所|長野県北佐久郡軽井沢町大字追分134-3 GREEN SEED内
Tel|0267-46-8840
営業時間|11:30〜15:00(L.O.14:00)、18:30〜23:00(L.O.21:00)
定休日|水曜、第3木曜
http://naz-karuizawa.jp/

text:Yumiko Inukai photo:Muneaki Maeda
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