「松本十帖」nomaの系譜を受け継ぐシェフが奏でる信州発酵ガストロノミーとは?【前編】
昨年プレオープンし、2021年5月にいよいよグランドオープンを迎えた「松本十帖」。そこでは、発酵に着目した料理で話題となった東京・飯田橋のINUA出身のシェフが料理長に就任したという。松本を舞台にしたそのレストランの魅力とはなんなのでしょうか。前後編記事にてご紹介します。
食べるほどに味覚が刺激されていく
信州野菜の数々
東京から特急「あずさ」で北上すること約2時間40分、車窓からまだ雪が残る北アルプスの山々が見えてきた。心躍る今回のレストランは、長野県松本市で開湯1300年の浅間温泉エリアにある。浅間温泉は松本城から車で約10分の距離にあり、城下町松本の「奥座敷」として知られる名湯。周辺には日帰り温泉施設や旅館が点在し、レトロな風情を残す温泉街としても親しまれている。目指すはその一角に2020年7月にプレオープンした宿、松本十帖にある薪火のグリルダイニング「三六五+二(367)」だ。
松本十帖は新潟県の美食宿「里山十帖」、神奈川県・箱根にあり、本に囲まれた滞在ができる「箱根本箱」を運営する「自遊人」が、新たに浅間温泉街の老舗旅館をリノベーションして手掛けた宿。レストランは「ローカル・ガストロノミー」をコンセプトとし、店名の由来は信州の風土を365日で表現するだけでなく、文化と歴史(+2)も感じてもらいたいという思いと、長野県に流れる千曲川・信濃川の総延長367㎞から名づけられた。ディナーコースでは、その名の通り、八ヶ岳や北アルプスの源流から日本海までの距離の中から生まれる“自然の恵み”を料理で表現していく。
「総料理長に就任してから、さまざまな生産者さんと出会いました。一人ひとりとのコミュニケーションが取りやすくておもしろいし、毎日勉強になることばかりです」。そう語るのは「三六五+二(367)」の総料理長、クリストファー・ホートンさんだ。母国のアメリカで経験を積み、2014年に日本へ。「世界のベスト・レストラン50」で、世界一に4度も輝いたイノベーティブレストランのパイオニアデンマークの「noma(ノーマ)」のDNAを受け継いだ、東京・飯田橋の「INUA」のシェフとして活躍。その経験を生かした発酵料理がメインなのかと思いきや、そうではない。焼く、煮る、切るというシンプルな調理法と、地元食材を掛け合わせることで、見た目や食感から風景を連想させる、味わいから文化や歴史を学べるひと皿をつくり出しているのだ。
日々変わる信州の味を全9品で表現
信州ガストロノミー
中央に大きな薪のグリルを配した松本十帖のメインダイニング「三六五+二(367)」でいただく、ディナーコースをご紹介。
【前菜】
薪の上のアミューズ
木の子のブルスケッタ/有機古代米の五平餅/りんごのミニおやき
いずれもシェフが信州の食文化をアレンジしたもの。左の木の子のブルスケッタ、中央の五平餅には、松本市にある大久保醸造店の3年熟成味噌を使用。左から順に食べて味の違いを楽しんで。
南瓜のグリル
南瓜のバターソースとディルのオイル
薪でシンプルにグリルした松本産のカボチャに、同じカボチャを生クリームなどでクリーミーに仕立てたバターソースを合わせて、カボチャがもつ味の奥行きを表現。ディルオイルで爽やかさもプラス。
人参の低温ロースト
黒ニンニクのヴィネグレット
長野県山形村で採れたニンジンを使用。細くカットした下のニンジンは低温ローストして甘さを際立たせ、同様のニンジンをスライス、マリネしたものを上に。味だけでなく視覚的にも楽しめるひと品。
白菜の低温ロースト
青大根と昆布塩
この時期の旬だという、下から白菜、冬キャベツ、ホウレンソウはすべて松本産。キャベツのザワークラウトの上には、細かく刻んだ上田市産の青大根が入っており、ピリッとした辛さがアクセントに。
キウイの寒天胡桃パウダー
タイム風味
松本産のキウイを寒天で固めてさっぱりと。サーブとともに東御市産の胡桃を目の前で削る胡桃パウダーは、香ばしい胡桃と、爽やかなタイムの香りにふわっと包まれながらいただける。
本日のスープ
日替わりのスープメニュー。撮影時はカリフラワーのスープ。松本産カリフラワーをペースト状にし、生クリームでさらにクリーミーに。色味、香りづけには春を思わせるピンクペッパーをのせて。
薪火ダイニング「三六五+二(367)」
場所|松本本箱1F
営業時間|ランチ・カフェ12:00〜16:00
ディナー|17:30〜20:00(L.O.) ※予約制
松本十帖
住所|長野県松本市浅間温泉
Tel|0570-001-810(12:00〜17:00)
客室数|松本本箱24室、小柳14室
料金|1泊2食付2万4200円〜(税・サ込)
IN|15:00 OUT|11:00
https://matsumotojujo.com
text: Discover Japan photo: Kiyono Hattori
Discover Japan 2021年5月号「美味しいニッポントラベル」
《松本十帖/長野県・松本市》
1|発酵文化が根づく信州で“自然の恵み”のひと皿を【前編】
2|発酵文化が根づく信州で“自然の恵み”のひと皿を【後編】
3|自然に負担をかけない天然醸造・木桶づくりの味噌蔵へ。「大久保醸造店」
4|宿泊は北アルプスの景色が望める松本本箱へ。