東京《港区立伝統文化交流館》
かつての姿を匠の技で残し、
区民の憩いの場へ
|日本の名建築、木の居住空間
時代とともに姿や用途を変えてきた「木」を用いた居住空間。伝統を受け継ぎつつ、近代化の流れにも呼応してきた名作建築の変遷を建築史家・倉方俊輔さんに伺った。今回は、東京都にある「港区立伝統文化交流館」をご紹介!
監修・文=倉方俊輔(くらかた しゅんすけ)
1971年、東京都生まれ。大阪公立大学大学院工学研究科都市系専攻 教授。専門は日本近現代の建築史。日本最大級の建築イベント「東京建築祭」の実行委員長も務める。『東京モダン建築さんぽ 増補改訂版』(エクスナレッジ)など著書多数。
かつての姿を匠の技で残し、
区民の憩いの場へ

大きな唐破風を正面に構える2階建ての建築は、1936年に芝浦花柳界の見番として建てられたもので、東京都内に現存する唯一の木造見番建築である。見番とは、置屋・料亭・待合の三業を取りまとめ、芸者の取り次ぎや稽古の管理、遊興費の清算などを担う施設で、本建物は戦前の芝浦における花柳界の繁栄をいまに伝える。戦後は港湾労働者の宿泊所として使用されたが、2000年に閉鎖。その後、地域住民などからの保存要望を受けて、港区が活用を決定。2019年に2年にわたる改修を経て、「港区立伝統文化交流館」として再生した。

改修設計を担当したのは、建築の再生で定評のある「青木茂建築工房」。木造の架構を保存しつつ、現行の耐震基準などに対応し、バリアフリーにも配慮した空間へと更新。既存建物を約8m西側に、解体せずに移動させる曳家という方法で動かし、エレベーターなどを収めた増築棟が設けられた。
内部は、芝浦地区の歴史を紹介する展示室をはじめ、地域情報の発信スペース、気軽に利用できる福祉喫茶「憩いの間」、そして交流の間などで構成されている。かつての百畳敷の稽古場を生かした2階の交流の間は、落語、邦楽、舞踊などの伝統芸能の発表の場として利用されており、講座やワークショップなども随時開催されている。
豊富な改修設計の経験に基づく高度な技術と意匠上の工夫を通じて、かつての姿をそのままに、現代的な木造公共施設が誕生した。
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〈概要〉
東京都港区、芝浦地区に存在した花街(かがい)「芝浦花柳界」の、芸者の取次や遊興費を清算する見番として建築された、都内に現存する最古級の木造見番建造物。2000年までは「旧協働会館」として使用され、その後老朽化のため閉鎖されていたが、保存を望む地域の声を受け、保存整備工事を実施。2020年に、新しく伝統文化や歴史を次世代へと継承する「伝統文化交流館」として開館した。
〈図面から見る港区立伝統文化交流館〉
2階の広い稽古場など、既存建物の間取りを生かしながら、各種機能が配置されている。新たに必要となったエレベーターやトイレは、既存建物の東側に新設された増築棟に収められている。
〈建築データ〉
住所|東京都港区芝浦1-11-15
設計|青木 茂さん
敷地面積|642.93㎡
建築面積|295.79㎡
延床面積|550.35㎡
構造|鉄筋コンクリート造 一部木造 地上2階建
施工|青木茂建築工房
用途|見番、公共施設
竣工|1936年
〈施設データ〉
Tel|03-3455-8451
開館時間|10:00~21:00
休館日|12月29日~1月3日(ほか臨時休館あり)
料金|無料
https://minato-denbun.jp
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10|護松園(福井)
11|港区立伝統文化交流館(東京)
12|SOWAKA(京都)
text: 倉方俊輔 photo: 傍島利浩
2025年9月号「木と生きる2025」



































