京都《SOWAKA》
料亭建築を次世代へとつなぐ、
配慮に満ちた空間
|日本の名建築、木の居住空間
時代とともに姿や用途を変えてきた「木」を用いた居住空間。伝統を受け継ぎつつ、近代化の流れにも呼応してきた名作建築の変遷を建築史家・倉方俊輔さんに伺った。今回は、京都府京都市にある「SOWAKA」をご紹介!
監修・文=倉方俊輔(くらかた しゅんすけ)
1971年、東京都生まれ。大阪公立大学大学院工学研究科都市系専攻 教授。専門は日本近現代の建築史。日本最大級の建築イベント「東京建築祭」の実行委員長も務める。『東京モダン建築さんぽ 増補改訂版』(エクスナレッジ)など著書多数。
料亭建築を次世代へとつなぐ、
配慮に満ちた空間
京都・祇園の南、八坂神社より下河原通を下がった地に、料亭「美濃幸」の建物を再生した宿泊施設「SOWAKA」は位置している。1920年から昭和初期に建てられた本館は、木造2階建ての数寄屋風建築で、かつて多くの客人をもてなした。2015年の営業終了後、その建物をどう生かすかが問われた中で、再生計画が始動した。

改修設計を担ったのは、京都を拠点に活動する建築家・魚谷繁礼さん。都市の文脈と建築の歴史を読み解くことに長け、京町家の改修でも知られる。このプロジェクトでは、既存の空間構成を尊重しつつ、宿泊施設としての機能を静かに組み込む方法が採られた。
建物の随所には、数寄屋の伝統的な意匠が丁寧に残る。庭に面した個室の多い料亭建築の平面を生かし、どの部屋からも庭や街への眺望が楽しめるように。改変は抑制的で、かつ、日本の伝統的在来工法で行うことで、技術自体も継承されるよう設計されている。

魚谷さんは、この料亭建築を宿泊施設に根本から変えてしまうのではなく、料亭建築に泊まれるような設計を心掛けたという。そうすることで、この建築が宿泊施設としての役割を終えた後、また料亭として、あるいはそのときに求められる別の用途でも、引き続き継承されるよう期待しているのである。
SOWAKAは単なる滞在先ではなく、先人が見出した数奇の心と知恵に触れる体験となるだろう。そして、建築がどのように再び時間との関係を取り結べるのかを問い掛けている。
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〈概要〉
京都・八坂の地で100年続いた老舗料亭「美濃幸」として親しまれた建物を、その基本構造や、欄間、小窓といったディテールは生かしつつ、大規模リノベーションしたスモールラグジュアリーホテル。数寄屋建築を生かした本館、侘び寂びを感じさせるモダンな新館で構成され、両施設とも、職人の高い技術力や日本の美を、次の世代へと伝える役割を担う。
〈図面から見るSOWAKA〉
料亭時代に繰り返し改装されていた厨房部分を改修し、新たにロビーとして整備した。本館に設けた11室は、当初の小間の区画を変更していないため、それぞれ異なった趣を楽しめる。
〈建築データ〉
住所|京都府京都市東山区下河原通八坂鳥居前下ル清井町480
設計|魚谷繁礼
敷地面積|781.69㎡
(本館)、42.14㎡(離れ)、546.75㎡(新館)
建築面積|503.37㎡(本館)、31.30㎡(離れ)、423.65㎡(新館)
延床面積|847.11㎡(本館)、43.67㎡(離れ)、1348.28㎡(新館)
構造|木造(本館・離れ)、RC造(新館)
施工|亀匠
用途|宿泊施設
竣工|2018年
〈施設データ〉
Tel|075-541-5323
IN|15:00
OUT|11:00
(フロント24時間対応)
定休日|なし
料金|1泊1室13万円〜
https://sowaka.com
01|臥龍山荘(愛媛)
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12|SOWAKA(京都)
text: 倉方俊輔 photo: SOWAKA
2025年9月号「木と生きる2025」

































