兵庫・西宮《旧山本家住宅》
木の質感を生かし、
和と洋を懸け渡す
｜日本の名建築、木の居住空間

時代とともに姿や用途を変えてきた「木」を用いた居住空間。伝統を受け継ぎつつ、近代化の流れにも呼応してきた名作建築の変遷を建築史家・倉方俊輔さんに伺った。今回は、兵庫県西宮市にある「旧山本家住宅やまもとけじゅうたく」をご紹介！

監修・文＝倉方俊輔（くらかた しゅんすけ）
1971年、東京都生まれ。大阪公立大学大学院工学研究科都市系専攻 教授。専門は日本近現代の建築史。日本最大級の建築イベント「東京建築祭」の実行委員長も務める。『東京モダン建築さんぽ 増補改訂版』（エクスナレッジ）など著書多数。

木が織りなす和と洋の融合

明治時代以降、大阪と神戸の間に位置する阪神間は、鉄道の開通を契機に、郊外住宅地として発展した。夙川沿いに建つ「旧山本家住宅」もその一例。鉄山経営者の本邸として1938年に完成した。5代目の所有者が住宅を財団に寄贈したことで一般公開が実現し、木が織りなす和と洋の融合を通じて、豊かな住文化の存在を伝えている。

外観は、木材が壁面に露出し、その表面は手仕事で削ったように粗く仕上げられている。西洋の木造建築に由来するハーフティンバー・スタイル※が取り入れられ、健やかな郊外住宅にふさわしい佇まいを見せている。

※外部に露出した梁や柱の間を、れんがや漆喰などで埋める木造建築の構造

木の温もりは内部にも息づく。玄関を入るとまず目に入る階段の手すりや、ステンドグラス越しに位置する応接室の床など、木の質感を生かした工芸的な意匠が施されている。空間は明確に区切られることなくゆるやかに連続し、近代的な感覚を宿しつつ、和の住まいの趣も感じさせる。

設計を手掛けたのは、京都大学で武田五一に師事した建築家・岡田孝男。茶室研究でも知られるだけに、その造詣は随所に。ただし、それは銘木や見立てに依存するのではなく、スパニッシュやアール・デコといった昭和初期の流行を取り入れた洋室とも調和する、より近代的なアプローチである。

1階和室の床の間や欄間は、気品ある意匠でまとめられ、中庭の風情を室内へと取り込む。2階洋室の大きな窓からは光と風が注ぎ、木の造作が健やかさをいっそう引き立てている。

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〈概要〉
鉄道の開通や鉄道会社による土地開発などが進み、多くの文化人が移り住んだことで発展した阪神間エリア。その兵庫・夙川（しゅくがわ）沿いに広がる郊外住宅街に、1938年、鉱山実業家・近藤壽一郎の自邸として建てられた。その後、実業家・山本清が5代目の所有者となり、現在は一般財団法人「山本清記念財団」が管理。書道や日本画、古典文学などの文化教室や茶会も定期的に開催している。

〈図面から見る旧山本家住宅〉
玄関から応接室、客間、書斎と洋室が連なり、その奥には畳敷きの部屋が配されている。庭に独立した茶室を構え、北側には女中の間や台所、蔵といった実用的な機能が集約されている。

〈建築データ〉
住所｜兵庫県西宮市結善町1-24
設計｜岡田孝男
敷地面積｜1266.11㎡
建築面積｜−
延床面積｜−
構造｜木造2階建一部RC造
施工｜笠谷工務店
用途｜住宅
竣工｜1938年

〈施設データ〉
Tel｜0798-73-6677
開館時間｜10:30〜15:30（最終入館15:00）
休館日｜日・月曜、祝日（盆、年末年始）
料金｜300円　※見学は前日までに要予約
www.yamakiyo.jp

text: 倉方俊輔　photo: Mariko Taya
2025年9月号「木と生きる2025」