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福井・小浜市《護松園》
江戸時代の商家を、地域を
つなぐ“場”にアップデート
|日本の名建築、木の居住空間

2025.11.2
福井・小浜市《護松園》<br>江戸時代の商家を、地域を<br>つなぐ“場”にアップデート<br><small>|日本の名建築、木の居住空間</small>

時代とともに姿や用途を変えてきた「木」を用いた居住空間。伝統を受け継ぎつつ、近代化の流れにも呼応してきた名作建築の変遷を建築史家・倉方俊輔さんに伺った。今回は、福井県小浜市にある「護松園ごしょうえん」をご紹介!

監修・文=倉方俊輔(くらかた しゅんすけ)
1971年、東京都生まれ。大阪公立大学大学院工学研究科都市系専攻 教授。専門は日本近現代の建築史。日本最大級の建築イベント「東京建築祭」の実行委員長も務める。『東京モダン建築さんぽ 増補改訂版』(エクスナレッジ)など著書多数。

江戸時代の商家を、
地域を つなぐ“場”にアップデート

北前船の寄港地として栄えた福井県小浜市。その地で江戸時代に繁栄した商家・古河屋の5代目嘉太夫が、藩主や高貴な来賓を迎える迎賓館として建てたのが「護松園」である。1815年に完成した木造建築は、格式ある構えの中に繊細な意匠を宿し、地域の豊かな文化水準を伝える存在として、福井県指定有形文化財に指定される。しかし近年は空き家同然となり、存続が危ぶまれていた。

富を得た古河屋が建設した建物とあり、その建材には、秋田杉をはじめ、全国各地 の銘木が使用された

この歴史的建築の再生に乗り出したのが、小浜市に本社を構える老舗の塗箸メーカー。創業100年を超える企業が、地域に根ざした文化の再興を志し、護松園を「みんなの別邸」としてよみがえらせるプロジェクトを始動。国や県の支援も受けながら改修工事が進められ、2022年に完了。現在は複合施設「GOSHOEN」として、さまざまな人々が交差する場となっている。

「控ノ間」として使用されていた和室は「みんなの図書館」として、土蔵を改装した2階のエリアは「みんなのスペース」として、多様な活用ができる場となっている

改修設計を手掛けたのは、竹原義二さん率いる「無有建築工房」。かつて土蔵だった空間は、床の高さを調整し、新たな床材を設けて、地場産業の魅力を伝えるミュージアムに。奥ノ間や台所だった部分は、若狭塗箸のショップとコーヒースタンドへと生まれ変わり、通し貫による耐震壁によってゆるやかに仕切られている。現代の木造建築の第一人者である設計者は、伝統的な架構を丁寧に補強しつつ、時間の蓄積を感じさせる空間に現代の感性を重ねる。

柔軟な使い方が可能な木の空間は、多様な機能をつなげ、コミュニティの活性化に貢献するのである。

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〈概要〉
北前船で活躍した商人「古河屋」が、小浜藩(現在の福井県)の藩主や賓客をもてなすために建てた「古河屋別邸」。県指定有形文化財にも指定され、常時公開されていなかった施設を、小浜の老舗箸店「マツ勘」がリノベーション。コワーキングスペースやコーヒースタンド、ミュージアムを併設した施設に改装し、地域の人々が気軽に集える場所となっている。

〈図面から見る護松園〉
庭園を望む書院は「みんなのリビング」、隣接する和室は「みんなの図書館」として活用。奥ノ間は若狭塗箸のショップ、台所はコーヒースタンド、土蔵はミュージアムへと転用。

〈建築データ〉
住所|福井県小浜市北塩屋17-4-1
設計・施主|古河屋嘉太夫
敷地面積|831.39㎡
建築面積|292.89㎡
延床面積|355.97㎡
構造|木造2階+2階建土蔵
施工|杉谷建設有限会社
杉谷将典(改修)
用途|迎賓館
竣工|1815年

〈施設データ〉
Tel|0770-64-5403
営業時間|10:00~17:00(L.O.16:30)
定休日|水・木曜
料金|無料
https://matsukan.com/goshoen

text: 倉方俊輔 photo: GOSHOEN
2025年9月号「木と生きる2025」

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