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農水苑・虹の珊瑚黒糖
南方写真師・垂見健吾厳選の
沖縄スイーツ案内|Part 1

2022.8.5
農水苑・虹の珊瑚黒糖<br><small>南方写真師・垂見健吾厳選の<br>沖縄スイーツ案内|Part 1</small>

写真師歴44年、沖縄在住33年のタルケンおじぃこと垂見健吾さんが、これまで撮影で訪ね歩いた先で出合ったすてきなスイーツを紹介。スイーツ天国沖縄へめんしぇーびり(いらっしゃい)!

南方写真師・垂見健吾(たるみ けんご)さん
1948年、長野県生まれ。’73年から沖縄で撮影を行い、島人と島の風土を撮り続ける「南方写真師」。池澤夏樹、椎名誠との共著をはじめ、JTA機内誌『Coralway』での撮影など、作品多数。「タルケンおじぃ」の愛称で親しまれる

沖縄の自然の恵みを生かし土づくりから
はじめた食べて薬になる黒糖

泥と石、漆喰で塗り固めた自家製窯に、直径約1mの鉄鍋が3つ。薪でおこした火を使い、サトウキビの搾り汁を約5時間煮詰めて黒糖をつくる。約400年前に中国・福建省から伝わった製糖法で、儀間真常(ぎましんじょう)という偉人が沖縄に広めたとされる

沖縄には、「命薬(ぬちぐすい)」という言葉がある。薬になるほど滋養のある食べ物、心と身体を元気にしてくれる美味しいもの。主にそうした意味で使われるが、「農水苑・虹」の前田英章(ひであき)さんがつくる「珊瑚黒糖」は、まさにぬちぐすいだ。

前田さんは約10年前、沖縄で診療所を営んでいた大伴正総(おおともまさのぶ)医師との出会いを機に、本格的に黒糖づくりをはじめた。「当時、食事療法を指導されていた大伴大先生は、黒糖とショウガを入れた紅茶が身体にいいと言って、患者さんに黒糖を処方していたんです。だけど、あるとき『最近はいい黒糖がない』と困っておられて。僕は農業をはじめてかれこれ30年。そこで思い切って、自分に任せてください、と」

薬になる黒糖をつくりたい。その想いを胸に、サトウキビの畑づくりと、黒糖のつくり方を研究する日々がはじまった。拠点となった農水苑・虹は、前田さんが生まれ育った沖縄本島の南部・糸満市にある。この一帯は、かつて黒糖農家が多く、サトウキビを搾るためのサーター車(砂糖車)と車を引く牛の姿といった沖縄の原風景が広がっていたという。

「僕が子どもの頃は、畑ごとにサトウキビの味が違ってね、一番いい味が採れる畑は『石粉敷畑(いしぐぅしちばる)』と呼ばれていたんです。土の下に石の粉、つまり琉球石灰岩の層がある畑のこと。僕はこの知恵をいただいて、サンゴの粉を混ぜた土づくりに取り組みました。サンゴはミネラル豊富なだけでなく、邪気を払う清めの作用があるといわれている。サンゴの恵みでできた美味しい黒糖。『珊瑚黒糖』の名の由来は、この土壌にあります」

2000坪のサトウキビ畑で春と夏に植え付け、1月から4月に収穫を行う。刈り取った後の株は再生して育つため、3~4年はそのまま栽培できる

黒糖づくりにあたって、大伴医師が大切だと教えてくれたのは、黒糖が人の口に入るまでのプロセス。製作工程で余計なものは加えず、つくり手が愛情をもち、いいエネルギーの連続で届けられてこそ、はじめて薬となる。だから、農水苑・虹の畑に農薬や化学肥料は一切使われない。サトウキビは一本一本手作業で収穫し、搾り汁は、薪でおこした火を使い鉄鍋で約5時間煮詰める。400年以上前から伝わる、3つの窯を使った伝統的な製糖技法。吹きこぼれないよう焦げないよう、火加減を調整してひたすら混ぜ続ける。その間、風味や固さを調整するための水飴などを添加することもない。出来上がるのは、原材料がサトウキビのみの、手仕事だけで生まれた純黒糖だ。

タルケンおじぃは、珊瑚黒糖との出合いをこう語る。「おじぃは黒糖が大好きなので、沖縄にある8つの島の製糖工場を回り、たくさん美味しい黒糖をいただいてきたのですが、最後にたどり着いたのがここでした。はじめて口にしたとき、まるで黒糖ってこうだよね! って教えてもらった感じ。本当にいいものに出合えたという感動が、舌から脳に伝わってきて、それからすっかり虜になっています」

かじったときはサクッとした食感ながら、口に含むと舌の上でなめらかに溶けていく。その過程で感じる奥行きのある甘みと旨みは、沖縄の自然の豊かさを物語るかのようだ。

約5時間手作業で混ぜ続け、煮詰めた後は、きらきら輝く美しい黄金色に。型に流し込み、固まるまで冷やす
沖縄の自然の恵みをそのまま詰め込んだ豊かな香り、コク深い甘さ。前田さんの愛情たっぷりな珊瑚黒糖の出来上がり

農水苑・虹はサトウキビのほかに、野菜や果物などの栽培、鶏の平飼いを行い、循環型農法を実施している。サトウキビを絞った後のきび殻は畑で発酵させ鶏の餌に、鶏糞はサトウキビ畑の肥料に。畑と鶏と人間がぐるぐると循環して助け合うかたちの地球環境にやさしい農法だ。誰でも参加できる農作業や黒糖づくりの体験会を開催しているのも特徴。前田さんは、自身の農園を「自給自足をテーマに掲げた体験ファーム」と言う。

「自然に触れることで自分の内側の『こうなりたい』という気持ちに素直になれるんですよね。楽しい、うれしい、美味しい! 理屈でなく、感性でそう感じられる体験をするには畑が一番。畑は、本当の自分とめぐり合えて、魂を肯定できる場だと思います。僕もいつも畑に入ると気持ちが落ち着いて、自分に戻れる感じがする。農水苑・虹では、そんな大切な体験を、皆さんにも味わっていただきたいと思っています」

現在、前田さんは珊瑚黒糖の伝承にも注力している。「つくり方はシンプルだから、誰でもすぐできるはず。でもどういう味になるかは、その人の心が出てくる。一番の肥料は愛情かな。未来でつくられる珊瑚黒糖の味が楽しみです」

写真奥の珊瑚黒糖150g(800円)を中心に、右前のサトウキビシロップ(1500円)、左前のサトウキビジャム(900円)などを販売

<タルケンおじぃのおすすめポイント>
ここまで凝ってつくっていることを現場ではじめて知り、よいものをつくって次世代に伝えるという前田さんの信念に頭が下がりました! そういうバックグラウンドも含めて感じる格別な美味しさ。ぬちぐすいやっさ~!

農水苑・虹
住所|沖縄県糸満市新垣527
Tel|080-6490-1858
営業時間|10:00~16:00
定休日|不定休

 

呉屋てんぷら屋の
サーターアンダギー

 
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《南方写真師・垂見健吾厳選の沖縄スイーツ案内》
Part 1|珊瑚黒糖
Part 2|サーターアンダギー
Part 3|冬瓜漬&アイスぜんざい
Part 4|うむくじ天ぷら&田芋シュー
Part 5|タピオカ黒糖豆花&ハチミツ
Part 6|ドーナツ&くるみあんぱん

text: Norie Okabe photo: Kengo Tarumi
Discover Japan 2022年7月号「沖縄にときめく/約450年続いた琉球王国の秘密」

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