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「あか吉」
愛媛・伯方島のすごい鮨【前編】

2022.2.16
「あか吉」<br>愛媛・伯方島のすごい鮨【前編】

広島県尾道市から愛媛県今治市を結ぶ「しまなみ海道」沿いの伯方島にある、知る人ぞ知る鮨の名店「あか吉」。瀬戸内海の豊かな自然が生んだ最高の魚に出合うため、食ジャーナリストのマッキー牧元さんが伯方島を訪ねます。

マッキー牧元さん
食ジャーナリスト。味の手帖 取締役編集顧問。年間国内外700外食をこなし、食情報を発信。虎ノ門横丁や食のECサイト「グッドイートクラブ」もプロデュース。HPはマッキー牧元公式サイト「おいしい日記」

さまざまな魚が豊富なプランクトンや小エビ、小魚を求めてやってくる瀬戸内海。温暖な気候で降水量が少なく、浅瀬が多い。潮の干満差が大きく、潮流が非常に強く美味しい魚が育つ条件が重なっている。400種を超える魚種がいるとされる

ここでしか食べることができない
「あか吉」の鮨

恋に落ちる魚が、ここにはある。伯方島の「あか吉」。最寄りの駅は今治である。しかし今治からタクシーでは8000円。田舎道にぽつねんと佇むこの店は連夜満席で、全国からお客がやってくる。マグロはない。コハダもない。イクラは置いているが、出すことはまれである。だがここの魚はすべてが、ここでしか食べることができない。

珍しい魚や、いつも食べている魚もあるが、どの魚を食べても、体に秘めた凛々しさと純真さに、そして放たれるさまざまな香りに酔い、惚れてしまう。ここの魚たちは、なんと純情なのだろう。切ない色気を醸すのだろう。心を焦らされ、食べ終わった瞬間からまた会いたくなる。まさに恋に落ちる魚たちである。

最初に驚かされたのは、サワラの漬け握りだった。サワラが本来の色気をじっとりと滲ませ、歯に優しく食い込んで、崩れながら、酢飯と舞う。妖艶という言葉は、この握りのためにある。心をほだす味は、いつまでも余韻として残る。魚と情を交わすとは、このことであると知った。

タイは、酢飯と出合うと、味わいに別の丸みが現れて、旨みが膨らんでいく。アカガイは、鉄分が豊かなのに苦みは一切感じさせず、きれいな甘みだけを感じさせる。浸透紙に包んで、冷蔵庫に出し入れを繰り返し、完璧な塩抜きをしたという。

キジハタの中華蒸しは、コラーゲンが唇に舌にのどに、口腔全体にしなだれ、甘えてくる。タチウオの塩焼きは、空気を含むかのように、口の中でふわりと崩れ、舞って、じんわりと澄んだ美しい甘みを広げていく。

もっちりした食感のヤイトガツオは、中トロのようななめらかな脂で魅了する、ふんわりとして白エビに似た甘みをもつテンジクダイ、小さな体から、甘みがどんどんわき出てくる。

オコゼ酒蒸しは、透明感のある味で、磯臭さはみじんもなく、純粋な甘さだけが天露のように滴る。

まさに驚きの連続である。それは、ご主人・赤瀬淳治さんが漁師・藤本純一さんと、20年間にわたって試行錯誤を続けてきた、結晶なのであった。

<目移り必至の海の幸>

本日の魚がずらりと並べられた姿は圧巻。ヒゲソリダイ、ベラなど寿司店には珍しい魚も並ぶが、中華の技も駆使して極上の料理となって登場する。

タイ
もっちりとした弾力のある身を噛むと、品のある甘みが穏やかに広がっていく。味に包容力があって、心がほぐれる。そして酢飯と出合うと甘みが膨らんでいく
スミイカ
噛むことを試すかのように、ググッと歯が入っていく。噛んでいくと、最後の最後に、気品ある甘みがじんわりと顔を出して、どきりとさせられる
オジサン
ヒメジの標準和名。淡い味で、爽やかな香りが最後に抜けていく。魚は甘ければいいというわけではないことを教えられ、「あっさり」という美しさがあることを学ぶ
キス
網に入ってきてしまうキスの赤ちゃんを、2枚重ねて厚みを出し、握る。しなやかな身から、ゆるゆると流れ出る繊細な甘みに、心が焦らされて、切なくなる
マナガツオ
脂がのっているのに品がある。旨みが濃いのに透明感がある。雑味がなく、脂の香りと旨みをだけが存在している。生命の神秘を感じ恋に落ちる、高貴な味わい
カマス
なんという味だろう。カマスという魚の概念が変わる。ねっとりとした甘みに脂の太さ。余韻の長さ。カマスとは、こんなにもふくよかな味だったのか。素晴らしい
カワハギ
サクッとした食感、雑味がみじんもない、澄みきった味わい。濃密な肝の味も、どこまでも美しい。そして肝の味の後から、身の甘みが追いかけ、広がっていく
アジ
アスリート! 軽やかなサクッとした食感、肉体を噛みしだくような歯応え。雑味なききれいな味で、爽やかな香りが鼻に抜け、最後に脂の甘みが流れて魅了される
エボダイ
あのあっさりとした味の奥には、こんなにもエレガントな香りと甘みが潜んでいたのか。飲み込む前に、味と香りが一気に爆発して引き込まれる
ナゴヤフグ
シコシコと噛んでいくうちに、ぐんぐんと旨みが膨らんでいく。甘みもえぐみも酸味も脂のコクもない、純粋な旨みだけが凝縮した味わいに酔う
気さくに話しつつ握る「あか吉」ご主人の赤瀬淳治さん
テンジクダイの握り。小さく握りづらいため「自分へのいじめです」と冗談も

あか吉
住所|愛媛県今治市伯方町北浦甲1203-8
Tel|0897-73-0627
営業時間|17:00〜22:00
定休日|火曜
※おまかせ1万5000円〜

 

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text:Mackey Makimoto photo: Kenta Yoshizawa
Discover Japan 2022年2月号「美味しい魚の基本」

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