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佐賀県・塩田町《MILKBREW COFFEE》
歴史的建築×酪農文化の乳(ニュー)カルチャー。

2022.1.10
佐賀県・塩田町《MILKBREW COFFEE》<br><small>歴史的建築×酪農文化の乳(ニュー)カルチャー。</small>
Photo by Hiroshi Mizusaki

国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され、白漆喰の町屋が立ち並ぶ、佐賀県嬉野市塩田町。この風情あるエリアに、搾りたての牛乳にコーヒー豆をつけ込んだ「ミルクブリュー(ミルク出しコーヒー)」が味わえる、カフェ「MILKBREW COFFEE」がある。店舗を手がけたのは建築・インテリアからプロダクトまで幅広い分野で活躍するデザイナー・二俣公一さんが主宰するケース・リアル。蔵の持つ独特の雰囲気を活かした歴史的な空間で、味わえる酪農家とロースターがつくる新しいコーヒーとは・・・・・・・。

歴史的建築も、酪農文化も、後世まで残す。

佐賀県嬉野市の「塩田津(しおたつ)」は江戸時代、長崎街道の宿場町として栄え、また有明海の干満の差を利用した川港「塩田津」が位置し、物資、そして文化が出入りする町だった。現在は国の重要伝統的建築物群保存地区に指定されて、一帯は外壁が白漆喰で覆われた町屋が立ち並ぶ歴史情緒の溢れた場所。

MILKBREW COFFEEを立ち上げたのは、福岡のロースタリー ROASTELY MANLY COFFEE・須永紀子さんと佐賀の酪農家・ナカシマファームの中島大貴さん。須永さんの水出しコーヒーバッグを、搾りたての牛乳につけて抽出したところ、水で抽出したときとは違った、まるでフルーツミルクのような味わいを感じ、ミルクブリューを追求し始めた。

これまでのカフェラテやコーヒー牛乳とは異なる、新しいコーヒーの抽出方法であるミルクブリューコーヒーは、コーヒーの果実味や香りがぐっと引き出され、牛乳の甘みや味わいが際立った濃厚さが魅力。この味をたくさんの人に発信すべく、「MILKBREW COFFEE」を2021年8月にオープン。

中島大貴(なかしま・ひろたか)
佐賀県嬉野市の酪農家三代目。 2012年にはチーズ工房NakashimaFarmを立ち上げる。 日本で初めてBROWN CHEESE(ブラウンチーズ)の製品化に成功し、JAPAN CHEESE AWARD2018金賞・部門最優秀賞受賞。WORLD CHEESE AWARDS 2019 銅賞受賞。 “GRASS TO CHEESE”を理念に、 堆肥を作り土を耕して牧草を作り、そして牛を育て、搾りたてのミルクからチーズを作っている。 関東に行き、もともとは建築家を目指していたが、より面白い未来を作りたいと家業の酪農にフィールドを移す。

須永紀子(すなが・のりこ)
福岡で自家焙煎店マンリーコーヒー を営む。今年開業13年目を迎える。 開業前はスターバックスコーヒーで勤務。2代目コーヒーアンバサダー。「エアロプレスの母」ともよばれており、エアロプレスを広めエアロプレスの大会Japan Aeropress Championshipを主催している。

Photo by Hiroshi Mizusaki

店舗の建物は、1855年に米蔵として建てられた。その後、有志の商人たちによって銀行として使われ管理され、今日まで残っている。

水運と陸運で栄え、文化の交わる場所としての歴史が、さまざまな背景を持つ人たちが集い、有機的に反応し合い、新しい酪農を通して新しい選択肢をつくること、そしてそれらを持続可能にすることによってまだ見ぬ文化をつくる、乳(NEW)カルチャーがリンクし、この場所を選んだ。

時代によって機能はかわっていくが、MILKBREW COFFEEの活動がまたこの建物を守り、次の世代に多くの選択肢を残せると考えている。

蔵と新たな機能とが統合されたハイブリッドな空間

Photo by Hiroshi Mizusaki

空間設計は二俣公一さん率いるケース・リアルによるもの。築165年を超える蔵のもつ素材を活かしながら、人工大理石やステンレスなどの新しい素材を組み込み、それぞれが独立しつつもしっかりと調和された空間。

カウンターや壁面ディスプレイなどは真っ白なミルクからインスピレーションを受けた白い人工大理石で製作し、ジョイント部をスムージングして滑らかな質感の塊になるよう仕上げた。また、天井の屋根組の迫力が圧巻だったことから、カフェスペースの上部のみ屋根裏の床板を撤去し、蔵の持つ強さを最大限感じられる。

Photo by Hiroshi Mizusaki

乳製品のためのラボ機能は、既存の壁からセットバックした位置に新たに壁を設け、既存の土壁や板壁に手を加えることなく、蔵の中に独立した空間を箱として作った。そしてカフェスペースの背景となる壁はガラス張りとし、カフェ側からもラボスペースのライブ感を感じられるとともに、蔵と新たな機能とが統合されたハイブリッドな空間へ。

Photo by Hiroshi Mizusaki

さらにメインの蔵の入り口には、既存の木製引戸の内側に新たに自動ドアを設置。一見すると元々ある蔵の外観でありながらも、通りに新たな空気感が滲み出る。

ケース・リアル
二俣公一(ふたつまた・こういち)
空間・プロダクトデザイナー。大学で建築を学び、卒業後すぐに自身の活動を開始。現在は、福岡と東京を拠点に空間設計を軸とする「ケース・ リアル(CASE-REAL)」とプロダクトデザインに特化する「二俣スタジオ(KOICHI FUTATSUMATA STUDIO)」両主宰。国内外でインテリア・建築から家具・プロダクトに至るまで多岐に渡るデザインを手がける。

コーヒーの新しい抽出方法
MILKBREW/ミルクブリュー

店舗では、ミルクブリューコーヒーをメインにソフトクリームやチーズなどのメニューを用意している。鼻に抜けるやさしい甘みと後口のキレが特徴で、MILKBREW COFFEEの原点である酪農家だからこそできる、フレッシュなミルクを味わえる。

600円

MILKBREW
水出しコーヒーならぬ「ミルク出しコーヒー」という新しいコーヒーのかたち。フレッシュなミルクの甘みと香り、エチオピア産コーヒーのもつフルーティさ、フローラルさ、そのようなフレーバーをミルクがしっかりと引き立てあう。

500円

スチームミルク
過度の熱を加えると香りや甘みがとんでしまうため、ミルクを連続的に出しながらそこにスチーム(蒸気)を当てていく仕組みでミルクを必要最低限の熱で均一に温めることができるカリマリ社の全自動マシンを導入。搾りたてミルクの優しい甘みと後口のキレ、そしてミルクフォームの滑らかな口当たりがとけあうスペシャルな一杯に。

塩田川の水運と長崎街道の陸路が交差する歴史と文化のまち、塩田津から生まれる新たなカフェ「MILKBREW COFFEE」。ここでしか味わえない、ミルクブリューコーヒーを求めて足を運んでみてはいかが。

MILKBREW COFFEE
住所|佐賀県嬉野市塩田町大字馬場下甲727
Tel|080-3221-0871
営業時間|水~金 10:00〜18:00(水曜日のみ12:00〜)
(年末年始:12月31日 16:00まで営業、1月5日 10:00〜それ以降通常営業)
定休日|月・火
https://www.milkbrew.co.jp/
https://www.instagram.com/milkbrew_coffee/

SDGs視点で読み解く、
豊かな食料に恵まれた佐賀県

2021年8月現在
解説協力:サステナブル・ラボ株式会社

人間、地球及び繁栄のための行動計画として、持続可能な開発目標として国際的に採択されたSDGs。17の目標のうちゴール2の「飢餓をゼロに」に注目すると、佐賀県は「カロリーベースの食料自給率」が全国7位、「生産額ベースの食料自給率」でも全国9位と、豊かな食料に恵まれた県であることがわかります。その一方で「農業の6次産業化を行う(農業生産と、農業生産関連事業を行う)事業体」の順位は全国45位とまだまだ成長の余地がある様子。「6次産業化」とは、農業者(1次産業)が、2次産業(製造・加工)、3次産業(サービス・販売業)なども手掛けることで、農産物が持つ価値をさらに高める取組のことです。

本記事で紹介された「MILKBREW COFFEE」の取組はまさに6次産業化の好事例。佐賀県では先進的で注目度が高いのではないでしょうか。MILK BREWという新たな価値の創出は、美味しさや目新しさでお客様を楽しませるだけでなく、佐賀県の酪農の未来も照らしているようですね。

詳しいデータはこちら

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