TRADITION

「仏の音を生む男」おりん職人 島谷好徳
世界で活躍するサムライ

2020.10.1
「仏の音を生む男」おりん職人 島谷好徳 <br><small>世界で活躍するサムライ</small>
金属を鍛える鍛金だけでなく、おりんにとって最も重要なのは調音。心地よさと緊張感が一体となった音のゆらぎを捉えることができるか、それがおりんの成否となる。

何百年と受け継いできた技術を生かし、進化を続ける職人。人間国宝といった道を究めた偉大な職人……日本には世界に誇る「もの」をつくる職人たちがいる。

伝統に携わる道を究めた職人の仕事や生き方を知ると、背筋が伸びる。素晴らしい「もの」をつくる技術だけでなく、想いの継承あっての職人技。中でも、100年以上後のことまで考えて作り出す宮大工や伝統工芸は、自信が歴史の一部となる、生き方が哲学と一体となった仕事だ。そう、日本には本物の「職人」がいる。

島谷好徳(しまたに・よしのり)
1973年、富山県高岡市生まれ。23歳のときに家業であるシマタニ昇龍工房で修業をはじめる。手打ち鍛造による調音で寺院で使われる「おりん」の製作に携わる一方で、新ブランド「syouryu」を立ち上げ、人気商品「すずがみ」を発表。匠の技を生かしつつ、新しいものづくりの可能性を追う。2020年曹洞宗大本山永平寺にも承陽殿大磬子(大きいおりん)を献納。

職人FILE
職人になったきっかけ|ボランティア活動している女性と話したことがきっかけで、家業について客観的に見ることができ、はじめてやりたいと思った。
師匠|祖父、父
職人歴|25年目
座右の銘|面白き事もなき世を面白く

独自の“うねり”を生む
伝統工芸の技。

寺院で僧侶が読誦や礼拝を行う際に区切りの合図として鳴らす。一般的に「おりん」と呼ばれる仏具の製造を行っているのが、富山県高岡市にあるシマタニ昇龍工房の島谷好徳だ。

「おりんには“うねり”と呼ばれる独特の音の波長があります。僕たちおりん職人は、金属をたたいて伸ばしながら、そのうねりの調子を整えていくのが仕事です。調音というのは本当に繊細な作業で、自分自身の心が穏やかな状態でないと、本当に心地の良い音というのは捉えられないんです。だから、仕上げの調音は心が落ち着いている早朝に行います。でも何より大切なのは、普段から心が乱れないように人格的な部分も磨いていかなかればいけません。」

おりん職人はかたちづくることよりも、「甲・乙・聞(カン・オツ・モン)」という3つの音から成り立つうねりをいかに調音するかが腕の見せどころだ。

シマタニ昇龍工房は、島谷の曽祖父が1909年に創業したおりん専門の工房。一子相伝で仏教伝来の技術を守り続けてきた。しかし、島谷自身は若い頃、決められた人生を歩むのを嫌い、東京へ。一時は料理人になることを夢見ていた。

しかし、清掃のボランティアをしている女性から「仏さまの道具をつくる家業に生まれるなんて、とてもまれで素晴らしいこと」と言われ、我に返った。

自分では当たり前過ぎてつまらないと思っていたことが、視点を変えるとかけがえのないことになる。一度自分の運命と向き合ってみようと考えた島谷は、23歳で帰郷し、祖父に弟子入り。以来ずっとおりんづくりに従事する日々を送っている。

「金属は生き物なので、一定の製造を続けることは至難の技。それは癖のある子どもを一人前の大人に育て上げるような感覚に似ています。何年経験を重ねても試行錯誤の繰り返し。職人だからこそ一定以上のものはつくっているという自負がありますが、いつも納品するときはいまだにドキドキします。」

完璧な音色をつくり出そうと模索しているうちに、嫌っていたはずの家業にいつしか没頭していた島谷。キャリア20年を超えたいまでも、鋭敏な感覚でおりんの音を聞き分けるために毎朝、調音作業を欠かさないという。

島谷好徳の仕事に密着!
製作工程

「すずがみ」を生んだのは、富山県高岡市で寺院用のおりんを専門に製造する「シマタ昇龍工房」。世界が注目するすずがみは、伝統的なおりんの製造技術から生まれたものだった

原材料
「すずがみ」の原料となるのは、その名の通り、固形の錫。錫は金属の中でも融点が低く、柔らかいため、加工に向いている

錫を溶かす
固形の錫を液状になるまで溶かしていく。なんと、一般的なガスコンロと料理鍋を使用

型をつくる
文庫本サイズの型に液状の錫を流し込み冷ます。その後、専用の機械で紙状の型をつくる

錫をたたく
紙状になった錫に、柄の施された金槌で一定のリズムを刻みながら模様をつけていく

完成
錫の特性を存分に生かし、すずがみは生まれる。美しい模様は、熟練の職人技の証だ

たたき続けて導き出した
新しいうつわのかたち

錦の柔らかさを生かし、金鎚で叩く技術でつくられる「すずがみ」。鍛金により施される模様が印象的。食卓でも安心して使える。(上・下)さみだれ、(中)かざはな(いずれも2700円/13×13cm)

おりんづくりの基本は、金槌で金属を叩きながら、均一に伸ばしていくことだ。
「一定のペースと力でたたき続けなければいけません。最初の頃は、朝は元気よくたたいているのに、午後になると力がなくなってきてしまうということもありました(笑)」

おりんひとつが完成するまでにおよそ3ヵ月。たたき続けることで、当たった瞬間の感覚を手の先に記憶していったという。

しかしながら、仏事と現代人との距離が離れていくにつれ、おりんの製作依頼も減少傾向に。そこで島谷は、自身がもち得る技術を別のものづくりへと転用。そうして生まれたのが自由に成形できる薄さ0・75㎜の錫のうつわ「すずがみ」だった。

すずがみに使われているのは、純度100%の錫。錫はとても柔らかい金属なので、普通に曲げ伸ばしをしたらすぐに切れてしまう。そこで島谷は、おりんづくりの技を生かして、鍛造により錫を強化。何度でもかたちを変えて使える不思議なうつわを完成させた。

これまでにないタイプのうつわの登場は話題を呼び、メディアでも大きく取り上げられ、いまではおりんづくりと同等の売り上げを記録するほどに成長。さらに、若手の職人が島谷に弟子入りを希望するなど、老舗のおりん工房に、明るい兆しが見えはじめている。

すずがみをつくるのは、
おりんの伝統を守るため

仕事道具 右)柄ごとに使い分ける、すずがみづくり専用の金槌。左)おりんづくりには大小さまざまな形状の金槌と木槌、撥(ばち)を使用。道具を観れば、本物の職人を知ることができる。

「パリでおりんの音を聴いて、涙を流してくれたフランス人のご婦人がいました。そのときの気持ちは言葉にできません。」

おりんづくりだけでは先が危うい現実の中で、職人はすずがみを生んだ。そして、すずがみによって、おりんの技術を紡いでいくことができる。伝統を守ることは、伝統をあきらめない姿勢を続けることなのかもしれない。

シマタニ昇龍工房
住所|富山県高岡市千石町4-2
Tel|0766-22-4727
www.syouryu.co.jp

photo : Kazuma Takigawa, Koichi Masukawa
2017年9月号「職人という生き方」※一部追記


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