和紙作家 川原隆邦が魅せる、虎ノ門グローバルスクエアと伝統工芸「蛭谷和紙」の新たな表現
再開発が進む虎ノ門に、7月1日新たなオフィスビルが誕生した。そのエントランスを彩るのは富山の蛭谷和紙。虎ノ門の顔に選ばれた理由とは・・・。
蛭谷和紙職人 川原隆邦
1981年、富山県生まれ。蛭谷和紙職人・米丘寅吉に師事。2009年川原製作所設立。ルーヴル宮パリ装飾美術館展示参加など内外で活躍
蛭谷和紙とは?
約400年前に滋賀県東近江市の蛭谷から富山県朝日町に移住した人々が伝えた伝統技術。原料の楮(こうぞ)を育てる山づくりから自ら行う。川原さんが唯一の継承者で、現在は富山県立山町にて制作している。
虎ノ門ヒルズ駅が2020年6月に開業したことも記憶に新しい東京・虎ノ門エリアは、国際都市として発展を遂げている。7月1日にお披露目されたオフィスビル「東京虎ノ門グローバルスクエア」では、エントランスを和紙作品が飾る。
「ここまで大規模な和紙作品を恒久設置したのは、日本初、つまり世界初なんじゃないでしょうか」
そう語るのは、作品を手掛けた富山の蛭谷和紙職人・川原隆邦さんだ。
川原さんはこれまで、富山市ガラス美術館の内装やパリ装飾美術館での展示など国内外で活躍してきた。今回は設計を担当した日本設計からの声掛けにより参画。虎ノ門との場所を表現したいという要望を、和紙アーティストの堀木エリ子さんの監修で、ふたつの作品でかなえた。
メインエントランスの受付にかかるのが、虎ノ門エリアの等高線を12色の色糸で漉き込んだ作品(メイン写真)。繊細な模様は、何枚かの紙で分けると湿度で紙が伸縮したときにずれが生じてしまう。そのため川原さんは今回、特製の型枠でもって縦3・5m×横10mの巨大な一枚紙をつくり上げた。
もうひとつの作品は、ビルの特徴でもある銀座線虎ノ門駅から直結のエスカレーター口に設置される。光を透過する和紙の特性を生かし、合わせガラスを加工した和紙から、中の明かりがあんどんのように柔らかく灯る。
川原さんの作品はすべてがオーダーメイド。設計サイドでは、プロジェクトを作家個人に依存するリスクの指摘もあった。しかし富山の工房で担当者と打ち合わせと試作を重ねる中で信頼関係ができた。
「伝統工芸がもつ地域に根ざすストーリーは大切です。でもそれだけを大切にしているのでは“地産地消”で終わってしまう。今回の虎ノ門のプロジェクトで、地元だけでなく東京や他地域でも選ばれるものをつくれれば、伝統工芸にまだまだチャンスがあると実感しました」
伝統の技術に加え、ニーズに合わせた挑戦を惜しまないことが、蛭谷和紙を世界に羽ばたかせる。
text: Hazuki Nakamori photo: Teruaki Tsukui
2020年9月号 特集「この夏、毎日お取り寄せ。」