鰹節と昆布、和食の味付けの基本となる出汁の話
築地「鰹節 伏高」
和食にとって欠かせない存在である出汁。中でも本流をなす鰹節と昆布は、どちらも四方を海に囲まれた日本ならではの出汁素材だ。つくる手間と時間がかかる分、その香りと旨みは世界に類を見ない。そんな優秀な出汁素材である鰹節と昆布について、出汁の達人である「鰹節 伏高」の3代目店主中野さんに話を伺った。
「鰹節 伏高」 中野克彦さん
3代目店主。それぞれの産地の職人が良質な原料でつくる「真っ当な食材」を、築地から多くの人へ届けている。店では毎朝、温度や時間などの抽出条件を同じにできるコーヒーメーカーを使い、削り節の品質チェック(利き出汁)をしている
東京・築地に一流の料理人から一目置かれている店がある。大正7年から続く「鰹節 伏高」だ。3代目店主の中野克彦さんが、出汁の歴史から現状までをわかりやすく話してくれた。
鰹節づくりは、生の鰹を三枚におろし、まずは煮て腐敗を止め、3週間ほど燻製する。鰹に付いた煙の成分が天然の酸化防止剤となり、鰹節が保存食としての地位を得る。この状態の鰹節を「荒節」と呼ぶ。
江戸時代になると、荒節の黒い部分を削った裸節が流通する。ところが生産地の鹿児島や四国から船で大阪や江戸に運ぶ間にカビが付き、質が落ちる。ただしカビの中に優良カビがあることを発見すると、製造過程で優良カビを付ける方法が生まれる。明治に入り、カビのよい効果が科学的に立証され、何度かカビを付ける現在の「本枯節」の製造法が確立。戦後は最高級の鰹節として流通した。
「いま、本枯節を削って出汁を取る飲食店はほんのひと握り。ほとんどの店では荒節の削り節を使っています」と中野さん。「本枯節はカビ付けをした分、味も香りも深くまろやかな印象です。これを物足りないと言う人もいます。一方の荒節は味も香りも鮮烈ですが、生臭いと感じる人もいる。どちらがよい悪いではなく、味や香りの好みで使い分けてほしいですね」。
昆布の生産地は北海道が9割を占める。いまでこそさまざまな産地が知られるが、いち早く人々の食卓に上ったのは真昆布だ。かつて蝦夷地に赴いた松前藩が、函館の海で生産したのが真昆布。蝦夷と本州を結ぶ交易船「北前船」は、14世紀頃には最初の寄港地である福井・敦賀に昆布を下ろした。
そこから陸路と琵琶湖の水運を利用して京都、大阪へ運ばれた。17世紀後半になると北前船は下関を通り、大坂へ向かう西廻り航路が確立。庶民にとっても昆布が身近な食材となっていく。
現在、伏高で扱う昆布は真昆布、羅臼昆布、利尻昆布、日高昆布の4種類。産地によって出汁の味や香り、適する料理が異なるのがおもしろい。
大正7年に水産仲卸として創業した後、鰹節専門店に。高品質の鰹節を中心に、現在は昆布や煮干しなども扱う。店頭には量り売りの削り節を5種類用意。用途に合わせて選べる
住所:東京都中央区築地6-27-2
Tel:03-3541-0918
営業時間:6:30〜14:30
定休日:日曜、祝日、市場休業日
www.fushitaka.com
文=増本幸恵 写真=野中弥真人