アートで日本茶の魅力を再発信。
羽田未来総合研究所とともに羽田空港の未来を考える連載《HANEDAの未来》。今回は静岡県掛川市で、アートという新しい切り口で日本茶の魅力を発信している活動を紹介する。
掛川市
文化振興課 湯澤智美さん
2017年よりかけがわ茶エンナーレ実行委員会事務局に所属。同年開催の茶エンナーレの運営に携わり、茶エンナーレ2020の開催に向けて活動中。
グリーンディスプレイ
事業推進室 大塚淳一さん
大学卒業後、渡英しNGOで森の再生活動に従事。帰国後、掛川で植物園の園長を担当。現職では植物による都市と里山の新たな互恵関係を構築中。
羽田未来総合研究所
地方創生事業推進部 中橋辰也さん
ウェディングプロデューサー職などを経て、現職。地方が抱える課題解決のために、羽田空港が果たす役割や新たな価値の創造に取り組む。
羽田未来総合研究所
地方創生事業推進部 古藤大毅さん
羽田空港ターミナル管理会社にて店舗管理などに携わり2018年より現職。空港という場を生かして地方の魅力を「食」を切り口で発信すべく活動中。
中橋 今回、羽田空港でお茶の木から人と自然のつながりを見つめ直す「オチャノキプロジェクト」や掛川市のアート活動「かけがわ茶エンナーレ」を紹介させていただきましたが、その背景となった現代における日本茶の課題をお聞かせください。
湯澤 一番大きいのはお茶の需要の減少です。昔はのどを潤すにはお茶が主でしたが、いまは嗜好が多様化し、自動販売機やコンビニもあふれるようになって「お茶を淹れて飲む」機会が著しく減りました。そうなると必然的に生産者のお茶が売れなくなり、農家の跡継ぎもいなくなるという悪循環に陥っていきます。
中橋 結果、休耕地が増えてきているのですね。「オチャノキプロジェクト」がはじまったきっかけはなんだったのですか?
大塚 掛川の植物園に勤めていた頃は、身近な存在過ぎて、お茶の木を意識したことがありませんでした。いまの会社に入り、4年前に日本の文化と関連深い植物を考えたときにお茶の木を思い出して市の方に写真を見せてもらったところ、枝や幹の美しいうねりに驚きました。それと同時に休耕地問題も知り、お茶の木の埋もれている魅力を発信したい、と思ったのがきっかけです。
中橋 大塚さんの熱い思いからはじまったのですね。
大塚 ちょうど社内でも「モノがあふれている現代で、物語のある〝コト〟ってなんだろう?」と探していたのもあります。
中橋 その活動の中で、おもしろい取り組みを教えてください。
大塚 一番印象的なのは「ap bank fes ’18」です。著名なアーティストが主体となって自然エネルギーをはじめとしたさまざまな環境プロジェクトの支援や推進を行う非営利組織のフェスが昨年、掛川で開催されたのですが、100以上の会場のサイン(標識)をお茶の木で制作したり、お子さんや若い人にも知っていただこうと、花冠のレイのワークショップを開催しました。あと、たとえば渋谷発のアパレルブランド「HARE.jp」さんの店内ディスプレイをしたり、都市部でも発信しています。
古藤 羽田空港の「エクセルホテル東急」でもお茶の木を展示していたことがあり、好評だったとうかがっています。欧米の空港ではアート展示が身近ですが、日本ではまだまだ根づいてはいないので、我々も日本の空の玄関口として日本独自のアートを発信していきたいと思っています。
中橋 その中で、掛川市の「かけがわ茶エンナーレ」とコラボした演出もありました。
湯澤 「かけがわ茶エンナーレ」は、お茶とアートを融合させて文化振興を行う地域芸術祭で、2017年に30日間にわたって市内の各地をお茶のアート作品で演出しました。その一環で、2019年4月からグリーンディスプレイさんから寄贈いただいたオチャノキアートで市役所前を演出したり、令和になった5月1日に、婚姻届けを出した方にお茶の花言葉「純愛」にあやかって願い事を書いて飾っていただく等、さまざまなイベントでご一緒しています。
中橋 「かけがわ茶エンナーレ」がはじまって、市民の方に変化はありましたか?
湯澤 自信や誇りをもてた、という声が多かったですね。これまで風景だったものをアートという切り口にすることで日本茶の魅力を再発見していただくきっかけになったと思います。その〝茶縁〟を今後もつなげていきたいです。
大塚 我々としても、まず日本の文化だからこそ生まれた必然の美として日本茶の魅力を再認識していただくこと、そして、空間デザインとしての再利用で生み出した利益を、休耕地や里山でお茶に関する新しい活動をしている人に再投資して、最終的には地域循環や活性化につなげていきたいです。
監修:羽田未来総合研究所ディレクター・石黒浩也
文=藤谷良介 写真=林 和也 イラスト=yune