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「てんぷら成生」素材を知れば知るほど、天ぷらは進化する【前編】
犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン

2020.6.28
「てんぷら成生」素材を知れば知るほど、天ぷらは進化する【前編】<br><small>犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン</small>

いまはまだスタートをしたばかり、それほど有名ではないけれど、私イチオシの“期待の星”を探して、ニッポンをめぐります!今回は、静岡県静岡市にある「てんぷら成生(てんぷらなるせ)」を前後編記事でご紹介。

犬養 裕美子(いぬかい・ゆみこ)
東京を中心に世界のレストラン事情を最前線で取材する。新しい店はもちろん、実力派シェフたちの世界での活躍もレポート。また、日本国内各地にアンテナを張り、料理や食文化を取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員

志村 剛生(しむら・たけお)
1975年、神奈川県川崎市生まれ。大阪の調理師学校を卒業後、関東、関西のホテルを経て、34歳でスペインへ。バスク地方の「ムガリツ」の料理に感激し、半年研修。’08年、奈良・富雄に大正時代の変電所を改造したレストランをオープン。建物の老朽化のため、昨年12月奈良・水門町に移転オープン

てんぷら革命、とでも呼ぶべき
新世界とは?

志村さんは野菜も地元産にこだわる。高高農園のミネラル分たっぷりの野菜を使用。土がついたまま仕入れ、揚げる直前に土を落とし、皮を剥き、カットする。太いグリーンアスパラガス、玉ネギ、タケノコ、人参、安寧芋など、素材によってカットの仕方も違う

この2、3年、料理人の間で合言葉のようにささやかれたのが「静岡のてんぷら屋、行った?」。日本全国へとそのメッセージは広まり、たった7つしかないプレミアムシートは昼も夜も満席といううわさ。たかがてんぷらに? いやいや、そうやって軽く見ていた人ほど、「“成生”のてんぷらを食べて、いままでのてんぷらは何だったのか?と驚いた」という。いったい何が、どう違うのか?

そもそもてんぷらは、16世紀に南蛮料理として長崎から入ってきたといわれ、魚のすり身や野菜などに味をつけて油で揚げたものだった。西日本では薩摩揚げやじゃこ天などと呼ばれる郷土料理としてその頃の姿のまま残っている。

一般的なてんぷらは、蕎麦、寿司と並んで、大衆料理として江戸時代に発展した。当時は冷蔵庫など保存方法がないため、魚の生臭さを消すためにゴマ油が使われていた。ただ、現代のてんぷらが求めるのは、美味しさ。「成生」の店主・志村さんは、これも魚へのこだわりで有名な焼津の鮮魚店・前田氏のもとで熟成を経た魚を仕入れている。「うちでは鮮度よりもコンディションを重視します」。このひと言だけでも、「成生」のてんぷらはほかとは違う視点で成り立っていることがわかる。

てんぷら 成生のコース紹介

おまかせコースは先付、お造りを楽しんでから、てんぷらが揚げられる。基本的に7〜8種出て、サラダで口直し、さらに7〜8種。お食事(天丼、天バラ、天茶のうち1品)水菓子、煎茶で1万5000円(税・サ別)。

先付

お造り(サワラ)

関西でポピュラーなサワラ。静岡産はしっとりした身質と甘みが特徴。6月頃まで。

てんぷら

1.太刀魚

江戸前ではエビからはじまる店が多いが、志村さんは太刀魚でいきなりカウンターパンチ。

2.アスパラガス(穂先)

太くてジューシーなグリーンアスパラガス。先に出てくる穂先で、まずその香りを味わう。

3.タケノコ(手渡し)

アツアツを手渡しで。ホクホクした食感に香ばしい香り。てんぷらを手で食べる?

4.アオリイカ

5日間熟成をかけて、ねっとりした旨みが加わったアオリイカ。最も美味しい状態。

5.鯵(断面)

皮には厚めに、身には薄めに衣をつけて。皮側から揚げ、部位ごとの個性を引き立てる。

6.アスパラガス(軸)

時間差で出てくる、「2」の根本、軸の部分。口の中に含むと、甘いジュースが広がる

7.人参(手で)

実は誰もが驚くのが、人参の美味しさ。縦にカットすると身がねっとりと柔らかくなる。

8.アサリ

殻から外して、串に刺して揚げる。旨みを閉じ込めた貝は口の中でスープが広がる。

9.メゴチ

てんぷら以外では、あまり見かけないメゴチ。高温で仕上げると身がふんわり、香りが立つ。

10.豆鯵

小さいけれど、味はいい。豆鯵はスナックのように軽く揚がるので、いくらでも食べられる。

 

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てんぷら成生
住所|静岡県静岡市葵区鷹匠2-5-12
Tel|054‐273‐0703
営業時間|昼は水曜・日曜の12:00~のみ。夜は火曜~日曜17:00~18:00、
19:30~20:00の二部制で一斉スタート
席数|カウンター7席
料金|コース1万5000円のみ ※予約は現在かなり先まで満席。営業時間外に問い合わせを。

text:Yumiko Inukai,photo:Muneaki Maeda
Discover Japan 2018年6月号『おいしい日本茶が飲みたい。』


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