TRADITION

《平安貴族の食文化》
平安時代の貴族はどんな食事をしていた?【前編】

2024.12.11
《平安貴族の食文化》<br>平安時代の貴族はどんな食事をしていた?【前編】

貴族と庶民で大きく食生活が異なっていた平安時代。権力を握り、豊かな荘園や国を治めていた平安貴族はどのようなものを食べていたのか?京都ノートルダム女子大学名誉教授である鳥居本幸代さんの監修のもと、実際に食べていた食材や調味料など、王朝文学から彼らの食文化をひも解いていきます。

鳥居本幸代(とりいもと ゆきよ)
1953年生まれ。京都女子大学大学院修了、家政学修士。京都ノートルダム女子大学名誉教授。著書に『平安朝のファッション文化』、『京都人のたしなみ』、『千年の都 平安京のくらし』など

 

王朝料理の材料や調理方法とは?

京都の老舗料亭「六盛」の創作平安王朝料理

源順(みなもとのしたごう)が編纂した日本最初の漢和辞典である『倭名類聚抄(わみょうるいじゅうしょう)』(934年頃成立)によると、平安貴族の食卓を彩る食材は200種類以上に上り、調理法も多彩であったと記されている。

主食となる穀類は、米(うるちのよね)【うるち米】、糯(もちのよね)【もち米】のほか、大麦・小麦・蕎麦・大豆などの稲穀類があり、今日と同じく蒸す、煮る、乾すの3種の調理法がなされた。副食品としては葍(おおね)【大根】などアジアやヨーロッパから伝来した野菜類が豊富で、生食もされたが、蒸す、ゆでるなど加熱するほか、今日の漬け物にあたる菹(にらき)も存在した。

創作平安王朝料理の源 『類聚雑要抄』
平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて編纂されたとされる、日本の食文化や儀礼に関する貴重な文献。『類聚雑要抄』/ColBase

海の恵みともいえる海藻類は豊かであったが、昆布(ひろめ)(コンブ)は魚介類などと並んで朝廷への貴重な貢物とされていた。

鳥獣魚介類に関しては、雉(きじ)・鳩・鶉(うずら)・鴨・雁(かり)・鴎(かもめ)などのほか、鰹魚(かつお)・鮫・鯛・鮪・鯉・鮒(ふな)・鮎・鱸(すずき)・蛸魚(たこ)・鰒(あわび)などが食用とされた。生肉を細かく切った膾(なます)のほか、炰(つつみやき)、鮨(酢や塩・米飯で魚を漬け込み、自然発酵させた馴鮨(なれずし))、臇(いりもの)【煮凝り】、醢(ししびしお)、など多彩に調理されていた。魚介類は乾燥させることが多く楚割(すわやり)【薄切り】、腊(きたい)【丸干し】と称した。

このほか、石榴(ざくろ)・梨子(なし)・栗子(くり)・杏子(からもも)・林檎(りうごう)・棗(なつめ)・梅・柿などの果実は木菓子(きがし)と称された。

平安貴族が使っていた調味料

貴族社会のさまざまな儀式や行事、料理のスタイルについて記され、一種一器の様式や料理をこんもり盛りつけた様子が見て取れる。『類聚雑要抄』/ColBase

平安貴族の食卓を彩った食材は、多彩な調理や加工が施されたのにもかかわらず、調理の過程で調味されることはなかった。当時、中国伝来の醤(ひしお)【醤油の原型】のほか、塩・酢・酒・堅魚煎汁(かつおのいろり)【鰹、または大豆を煎じた煮出し汁】などの調味料があった。

調味料の使用法については『類聚雑要抄(るいじゅうぞうようしょう)』に残された1115年7月2日、関白右大臣藤原忠実(ふじわらのただざね)が東三条殿へ転居した際の饗宴の献立の記録から理解できる。

食事は八つの台(膳) に分けて供された。一の台には、醤・酒・酢・塩の4種の調味料と箸と匙(かい)【スプーン】が置かれ、メインディッシュである魚介料理に調味料をかけたり、塗ったり、各人の好みに合わせて味つけして賞味したのである。

関白右大臣藤原忠実が東三条殿へ転居した際の饗宴の献立の記録。塩と酢、酒、醤の4つの調味料が中央の台に。『類聚雑要抄-4巻』部分(京都大学附属図書館所蔵)

饗宴に際しては蒲鉾(かまぼこ)【魚のすり身を竹の棒を芯にして、ガマの穂のように固めて焼いたもの。今日の竹輪に相当】などの魚介類がメインディッシュとなり、数日前から準備に取りかかった。台盤と呼ぶ長テーブルを用い、料理を盛りつけた数多くのうつわを並べ、数人が台盤(だいばん)を囲んで食した。

平安時代の食事は朝夕二度で、巳(み)の刻(午前10時)と申(さる)の刻(午後4時)と定められ、天皇は定刻になると清涼殿において、宮内省内膳司(ないぜんし)が調理、試食した「大床子(だいしょうじ)の御膳(おもの)」を公卿などの陪膳(ばいぜん)【給仕役】によって食した。

食事時間は厳守され、『枕草子』では宮仕えの日が浅い清少納言が、天皇の御膳を運ぶ様子など、目慣れぬ宮廷の食事作法の奥ゆかしさに感嘆している。

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監修・文=鳥居本幸代
Discover Japan 2024年11月号「京都」

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