身も心もほぐれる！全国の温泉を愉しめる名宿

日本は2万7000本以上の源泉を有する、世界屈指の“温泉大国”。温泉旅行へ行きたいけれど、選択肢のあまりの多さにどこへ行けばいいか分からない……。そんな人も多いのではないだろうか。そんな人には「宿」を中心とした旅を勧めたい。温泉に加えて、極上のもてなしや美食、絶景などを兼ね備えた名宿を紹介。寒い冬は湯に浸かりながら至福の時間を味わおう。

【東北】

歴史ある湯宿
宮崎「時音の宿 湯主一條」

室町時代に開湯され、古くから「奥羽の薬湯」として知られる宮城県の鎌先温泉。その開湯と時を同じくして創業し、600年近い歴史を誇る旅館が「時音の宿 湯主一條」だ。食事処として利用されている本館は国登録有形文化財に指定され、上質な空間で月替わりの会席料理をいただける。

みちのくの湯宿
東北「名月荘」

城下町でもある上山にある温泉旅館「名月荘」。ただ広さだけを自慢するのではなく、使い勝手を優先してしつらえられた客室には、露天風呂が備わっている。広々とした大浴場もいいが、誰に気兼ねすることなく、存分に湯を愉しめる部屋風呂が心地いい。目に青葉、そよ吹く風がほおをなでる。湯を肌に滑らせる。火照りを冷ますうち、やがて湯宿は宵闇に包まれる。

【関東】

那須連山のふもと
関東「那須別邸 回」

栃木県那須町にある温泉リゾート「那須別邸 回」は、御用邸に連なる約2500坪という広大な敷地に立つ隠れ宿。客室は、数寄屋造りの離れが1棟とスイートタイプの客室が8室のみ。聞こえるのはただ、窓の外のブナやコナラの木々の枝を揺らす風の音だけ。茶臼岳中腹に湧く湯は肌当たりが柔らかく、メタケイ酸が豊富で美肌効果もあるという。

主人手打ちの蕎麦に舌鼓
関東「旅館すぎもと」

信州は松本の奥座敷。美ヶ原温泉の宿「旅館すぎもと」。主人の花岡貞夫さん、通称「花ちゃん」は、客を出迎え、蕎麦を打ち、料理をつくる。ときにはロビーラウンジでお茶やコーヒーを淹れ、ワインやオーディオ談義に花を咲かせる。旅館すぎもとを訪ねるということは、すなわち花ちゃんに会いに行くことなのである。旅館すぎもとの中庭から湧出しているのは、奈良朝時代よりの名湯としてある束間の湯だ。大浴場は、地元木曽産の五木でつくられている。

小さな料理旅館
関東「オーベルジュ 花季」

旅館というよりも一軒の瀟洒な民家。シェフで女将の細やかな心遣いがうれしい「オーベルジュ 花季」。まるで田舎の実家に帰ってきたかのような心温まる滞在ができる。大浴場もなければ、客室露天風呂もない。こぢんまりしたふたつの客室には、温泉を引いた檜の内風呂がある。小さな湯船に身を沈めると、湯がざあざあとあふれ出す。これがなんとも心地いい。つい鼻歌などが出てしまうのは、自分だけの温泉だから。湯上がり、畳に大の字になって裸で寝転ぶ。この時間もまた、この小さな宿ならではのこと。誰を気遣うことなく、伸びやかなひとときを過ごせるのが、この宿の最大の魅力だ。

草津の湯をひとり占め
関東「つつじ亭」

古くから愛されてきた日本を代表する名湯、草津温泉。この湯を存分に楽しめる名宿が「つつじ亭」だ。申し込み制の貸切風呂「玉の湯」は、1時間を限度として、無料で借り切ることができる。これは本館に泊まった客だけの特典。貸切風呂といっても、ほかの宿なら大浴場付属の露天風呂ほどの大きさ。脱衣室も、洗い場も、無論湯船も広々としていて、深い濃い緑を眺めながら、「湯畑の湯」を思う存分愉しめる。いかにも効きそうな硫黄の香りは、いつまでも記憶に残る。また、本館の客室には、一人用の小さな湯船があり、そこにもと湯が滔々とあふれているから、こちらはいつでも好きなときに湯を愉しむことができる。

上質な空間で愉しむ伊香保の湯
関東「香雲館」

名湯として古くから知られる伊香保温泉。多くの温泉宿が建ち並ぶが、中でも随一の名宿が「香雲館」だ。日本の美だけでなく、各国の意匠を取り込んでいる。茶色の名湯に浸かり、心地いいもてなしに身を委ねたい。伊香保名物の「黄金の湯」を愉しめるのが、大浴場「あうるの湯」だ。“あうる”とはフクロウのこと。温泉の効能は、神経痛や筋肉痛など。古くから愛されてきた茶褐色の湯を、源泉掛け流しで堪能できる。

信州の郷土料理を愉しむ温泉宿
関東「村のホテル 住吉屋」

人々の暮らしに温泉が寄り添う野沢温泉。村の中心にある「麻釜」の横にあり、明治2年に創業したのが「村のホテル 住吉屋」だ。優しく凛としたこの宿で、郷土料理を味わい、掛け流しの湯に浸かれば、心身ともにリフレッシュできる。野沢温泉で愉しむべき第一は、湯である。“麻釜熱湯噴湯”が象徴するように、とにかく、滔々と湧き出る湯を身にまとうことが、最大の魅力である。そしてそれは、宿の内湯だけでなく、外湯めぐりも加えてのことと心得たい。本来、温泉宿に泊まるということは、その地の外湯と宿の内湯の両方を併せ愉しむことを本意としている。

【中部】

飛騨古川の老舗宿
中部「八ツ三館」

飛騨古川にある160年以上の歴史がある宿「八ツ三館」。ちょっと風変わりな宿の名は、越中八尾から飛騨の地に移り住んだ創業者の名を由来としている。21ある客室は、すべて趣が異なる。国登録有形文化財にも指定されている、伝統建築の「招月楼」をはじめ、半露天風呂付きの「光月楼 池月」まで、よく手入れの行き届いた部屋が揃う。何より温泉があるのもうれしい。露天風呂の脇には、日本酒のサービスがある。露天風呂のほか、内風呂（温泉）、酒粕風呂など男女合わせて8つの風呂がある。野趣あふれる露天風呂で、旅の疲れを癒やしたい。

魯山人も愛した加賀の名湯宿
中部「あらや滔々庵」

北陸を代表する温泉地・山代温泉にある宿「あらや滔々庵」。江戸時代には、前田家歴代藩主に愛され、明治に入ってからは皇族も訪れたり、伝統と格式のある旅館だ。北大路魯山人も愛した宿で、ゆかりの作品が残る。山代温泉が発見されたのは725年というから、平城京に都が置かれてしばらく経ってからのこと。すなわちこの湯は1300年近くの間、滔々と湧き出ているのだ。

【関西】

日本一の湖の絶景を愉しむ
関西「旅館 紅鮎」

パワースポットとして知られる竹生島を望む琵琶湖のほとりに、絶景を独り占めできる「旅館 紅鮎」がある。露天風呂が付いている部屋もあるが、せっかくだから大浴場に足を運びたいもの。内湯も露天風呂も絶景温泉だ。「尾上温泉」と呼ばれる湯は、極めて肌触りがいい。皮膚をなめらかに滑る、ぬるりとした温泉だ。

“海の京都”で松葉ガニを堪能
関西「茶六 別館」

「茶六別館」は、宮津湾の中にあって、穏やかな水面を望む海の畔に建つ。宮津には良質の温泉が湧き出ていて、無論のこと、この宿の大浴場にも温泉が引かれている。四国青石を使った岩風呂風の露天風呂は格別の心地よさで、旅の疲れを芯から癒してくれる。この宿の真骨頂は食。一年を通じて、旨いものには事欠かない宿だが、冬には食通垂涎の海の幸が食卓を華やかに彩る。捕れ立ての松葉ガニを味わえるのだから贅沢の極みだ。

厳選ワインと丹後の味覚のマリアージュ
関西「ワインとお宿 千歳 chitose」

世界のワイン好き垂涎のワインを所有する、日本三景・天橋立のほとりにある宿「ワインとお宿 千歳 chitose」。オーナーの目利きで厳選されたワインと、丹後の美味のマリアージュを愉しむ至福の時が過ごせる。温泉があるのも魅力のひとつ。部屋数が少ないから、空いているのがうれしい。男女別にしつらえられた温泉には、露天風呂もあって、ぬるりと肌にまとわる湯を、心ゆくまで満喫できる。

【中国】

宮島に佇む温故知新の旅館
中国「岩惣」

日本三景のひとつ、世界遺産にも指定されている宮島。「岩惣」はそんな宮島を代表する旅館だ。離れの「秋錦亭」は、昭和3年に建てられた伝統的な建築の部屋だ。障子格子、欄間、火灯窓など精緻な細工が目を引く。部屋で寛いだら、温泉へ。若宮温泉と名づけられた透明な湯だ。温泉を愉しめる「日の出湯」「月の湯」と名づけられた大浴場には、それぞれに露天風呂がつく。露天風呂は鹿の通り道に面しているため、入浴中に鹿と出合うこともあるとか。

日本庭園が主役の日本旅館
中国「庭園の宿 石亭」

広島県宮浜温泉は、日本三景のひとつである宮島の対岸にある温泉だ。その宮浜温泉に「庭園の宿 石亭」がある。この宿はその名の通り、日本庭園が主役になっていて、この庭と一体になって楽しむことを要諦としているのだ。庭を中心に据え、その周りを囲むようにして客室をしつらえている。無防備な姿をさらす風呂となれば、さすがにこの庭の中で、というわけにはいかないが、それでも宿の名に恥じない庭園を備えた温泉があり、ここもまた開放感に身を委ねる至福の時間が味わえる。

温泉街の足元から湧く名湯
中国「名泉鍵湯 奥津荘」

岡山県北部、かつて「美作国（みまさかのくに）」と呼ばれた地にある奥津温泉。古くは津山藩主専用の湯であった。奥津荘は昭和2年創業。棟方志巧に愛され、その作品が残る宿だ。この宿において、川と湯は一体であって、それを強く実感できるのは、地下の「鍵湯」だ。深い湯船の底から湧き出る湯は、あぶくを立てて湯を揺らす。ごつごつとした石が、自然の恵みであることを、足裏から感じさせてくれる。心地よく、浸り続けたくなる湯には、谷崎の『鍵』にも相通じる、濃密な空気が漂っている。

今回紹介した温泉宿は、どれも日本の魅力を愉しめる宿ばかり。温泉だけではなく、地元の名物や心豊かなもてなしを堪能し、自分へのご褒美としてみてはいかがだろう。

Discover Japan_TRAVEL「味わいの名宿」