「旅館すぎもと」松本で主人手打ちの蕎麦に舌鼓、酒とJAZZに酔わされて。
宿のあの人に会いに行く。「旅館すぎもと」の主人“花ちゃん”は、まさにそんな気持ちにさせてくれる人。手打ち蕎麦とトーク、選りすぐりの酒と酒肴。“花ちゃん”ワールドに入ったらもう出られません。
個性のない宿ほどつまらないものはない。常々そう思っている。いま風にデザインされた館内や客室。料理までもが、どこも似たような見た目だ。きっと設計者やアドバイザー、コンサルタントが同じなのだろう。
部屋はともかく、料理が同じような組み立てなのはなぜなのだろうか。宿のホームページを見ると、どこも似たようなキャッチコピーをうたっている。“地産地消”、“もてなしの心”、“四季折々の”、“料理長自ら仕入れに出向き”。言葉だけ飾り立てても、料理写真を見れば一目瞭然。いわゆる京会席ふうの料理にしか見えない。
僕の宿選びの基準のひとつに、ホームページの料理写真をひと目見ただけで、どこの宿だかすぐわかること、がある。信州は松本の奥座敷。美ヶ原温泉の宿「旅館すぎもと」。ここの料理なら、ひと目でそれとわかる。長野県の玄関口である松本の駅から車で20分ほどの便利な場所にある。
大小取り混ぜて10軒ほどの宿がある中で、美食三昧で知られるのが旅館すぎもと。この宿の顔は主人の花岡貞夫さん。通称「花ちゃん」である。
客を出迎え、蕎麦を打ち、料理をつくる。ときにはロビーラウンジでお茶やコーヒーを淹れ、ワインやオーディオ談義に花を咲かせる。まさに八面六臂の大活躍。旅館すぎもとを訪ねるということは、すなわち花ちゃんに会いに行くことなのである。
基本的には民藝風のつくりなのだが、部屋によってはアールデコっぽいインテリアだったり、猫足のバスタブが置いてあったりする。これも、いろいろな雰囲気を楽しんでほしいという花ちゃんの願いから出来たもの。
部屋でひと息ついたら、ぜひ見ておきたいものがある。それが、花ちゃんが蕎麦を打つ様子を間近にできる、そば打ち見学。普段は温和な花ちゃんも、このときばかりは真剣な表情で、額に玉の汗を浮かべながら蕎麦と格闘する。夕食の〆にこの蕎麦を手繰ることができるのもうれしい。
その夕食もまた、花ちゃんの個性がにじみ出た独特の献立だ。別棟にしつらえられた食事処は地下通路からたどる。このアプローチもまたスリリングな妖しい空気をたたえ、異空間へと誘ってくれる。宴がはじまるやいなや、こよなく酒を愛する花ちゃんならではの、酒飲みのための料理が怒涛のように押し寄せる。
「信州三昧」、「馬刺しのタルタル」、「岩魚のなめろう」など、酒徒垂涎の料理が続く。お腹をりながら、なんとか蕎麦までたどり着きたい。食事の後には「バーひびき」が待っている。
住所:長野県松本市里山辺451-7
Tel:0263-32-3379
Fax:0263-33-5830
E-mail:sugimoto@po.mcci.or.jp
客室数:17室
料金:1泊2食付1万5900円〜(税込)
カード:AMEX、DC、JCB、MASTER、UC、VISA、銀聯ほか
IN:15:00 OUT:10:00
夕食:会席料理(食事処) 朝食:和食(食事処)
温泉:美ケ原温泉(アルカリ性単純泉/源泉掛け流し/加温なし/加水なし/神経痛、リュウマチ、病後回復、ストレス解消、運動機能障害、五十肩、神経痛、冷え性など)
風呂:大浴場・露天風呂男女別各1(温泉)、貸切檜風呂1(無料、温泉)、貸切露天寝湯1(30分2000円、温泉)、貸切露天ジャグジースパ1(無料、温泉ではない)
アクセス:車/中央自動車道松本ICから約25分 電車/JR松本駅からタクシーで15分
館内施設:バー、宴会場、大広間100畳舞台付、中広間50畳椅子付き
Wi-Fi:あり
http://ryokan-sugimoto.com
文=森 聖加 写真=山平敦史
Discover Japan_TRAVEL「味わいの名宿」