《琉球料理 美榮》が受け継ぐ
琉球王国のおもてなし
後編|手間を惜しまない美榮の料理の数々
琉球王国は、中国や日本など外国からの賓客を料理でもてなしてきた。そこで発展した宮廷料理をいまに受け継ぐのが、那覇の料理店「琉球料理 美榮」だ。艶やかな漆器に盛られた数々の料理は、沖縄の食の原点を語っている。
後編では、手間と時間を惜しまない美榮の料理の数々を紹介する。
琉球料理を生きがいとする気持ちで励む
沖縄に生まれ、京都で日本料理を学び、琉球料理伝承人を志すようになった平川さん。美榮の厨房に入ることになった際、女将だった德子さんに「琉球料理を生きがいとする気持ちで励むように」と言われたそうだ。「仕込みにここまで手間をかけていることに驚き、簡略化できないかと試してみましたが、手抜きした分だけ味で返ってきてしまう。だから創業時のレシピを変えようがないのです」と平川さん。
上質な素材を用い、どれだけ仕込みに手間と時間をかけていることか。たとえば料理のベースになる出汁は豚と鰹の合わせ出汁。豚は、一般的には豚骨を使うが、美榮では「ぐーやー」と呼ばれる前脚上部の赤身肉を贅沢に用いる。スープに浮かぶ脂を丁寧に取りながら、朝から丸一日かけて取った出汁は澄んだ琥珀色で、旨みが凝縮している。厚削りの本枯節で取る鰹出汁に、この豚出汁を少量合わせ、料理によりその配合を変えて使っている。
保存が利き、祝い料理に欠かせないかまぼこに使う魚はグルクン、ウメイロ、アカマチなどで、近くの泊漁港で自ら仕入れ、三枚に下ろす。血合いや小骨を丁寧に取り除き、スプーンで身をこそぎ取り、みじん切りを裏漉ししてすり身にし鉢に入れ、粘りが出るまでよくすり、調味料を加える。
真っ黒く仕上がるので「くるじし(黒肉)」とも呼ばれる「みぬだる」は、黒ゴマ自体の油がにじむまですりつぶすこと3〜4時間。そこに醤油、泡盛、砂糖、みりんを加え、塊から薄く切り分けた上等な豚ロースを漬け込み、3〜4日置いてよく味をなじませ、お客に出す直前に蒸し上げる。
「らふてぇ」は、皮付きの豚三枚肉を下ゆでし、ゆで汁は再び出汁と調味料を調合し、とろ火で2日ほどかけてゆっくりと煮ていくのが美榮流。一度湯に出た豚の美味しさが再び身に戻り、箸で難なく切れるほど軟らかくなった頃には十分に味が染みている。酒は泡盛を使うことで豚の臭みが取れ、味が締まるという。一般家庭で食べられるらふてぇが品格をまとい、料理店の料理の顔つきに。
お通しからひと皿ずつ供される料理は、まさかそれほど手間がかけられているとは思いもしないほど簡素だ。でもその中に奥深い味わいと美しさがあり、沖縄の食材への感謝と食べ手への思いがにじみ出ている。
<手間を惜しまない美榮の料理の数々>
豆腐よう
王族や上流貴族の家で、その製法が門外不出の秘伝とされた珍味。島豆腐を泡盛入りの紅麹に長時間漬け込み、発酵・熟成させたもの。泡盛のアテに最高で、つまようじの先で米粒大に削いで舌先にのせ、少しずつ味わう。
苦菜島豆腐和え
苦菜や、次々と葉が絶えることなく出てくるために不断草と呼ばれる「んすなばー」を用いた白和え。ゴマではなくピーナッツのペーストに白味噌と豆腐を合わせて風味豊かに。しっかりとした島豆腐の食感が心地よい。
地豆(じーまーみ)豆腐
土の中に豆ができることから、沖縄では落花生を地豆と呼ぶ。地豆をすりつぶして布巾で濾し、くずを加え、とろ火で時間をかけて練り上げ、豆腐のように真っ白く口当たりよく仕上げる。すっきりとしたたれで。
中身吸物
中身とは豚の胃と腸のこと。何度も水洗いして脂身を除き、アクを取り、ショウガなどと煮て臭いを消し……。柔らかくなった中身を短冊に刻み、豚と鰹節の合わせ出汁で吸い物に。ヒハツ(ピパーチ)の香りを添えて。
昆布いりちー
水洗いした昆布を細いせん切りにし、さらに洗ってぬめりを取り、豚三枚肉、シイタケ、かまぼこと炒め合わせて少量の醤油と出汁で調理する。「いりちー」とは炒め煮の意味。家庭のおかずが繊細な仕事で料理店の一品に。
芋くずあんだぎぃ
サツマイモから取ったでんぷん(芋くず)を水で溶き、耳たぶの柔らかさに練り、指で平たく押し広げてさっと揚げた家庭のおやつ。美榮では生の紅芋を蒸してつぶしたのを混ぜるといった工夫で、洗練された料理となった。
みぬだる、田芋唐揚、島大根の黒糖漬
みぬだるは、豚ロースの薄切りを、よくすったゴマと調味料を合わせたものに漬け込み、しっかり味を馴染ませてから蒸し上げたもの。田芋は素揚げして砂糖醤油にからませている。長期間漬けた島大根の黒糖漬を添えて。
どぅるわかし
子孫繁栄を意味する田芋(たーんむ)とその茎を豚出汁で煮ながらつぶし、豚肉、かまぼこ、シイタケなどを混ぜ合わせた一品。調理中の鍋が泥を沸かしているような見た目からの名だが、素材が一体となる滋味深い味わい。
耳皮さしみ
沖縄では酢の物を「さしみ」と呼ぶ。豚の耳とほほのコリコリした部分を炭火で焼き、雑物をこそぎ取って水炊きにし、薄切りにして塩漬けに。それを塩抜きし、キュウリとともに酢、ピーナッツペーストで和えた一品。
らふてぃ、うじら豆腐、ゴーヤー炒め
家庭料理でもあるらふてぃを、美榮では皮付きの豚三枚肉を下ゆでしてからじっくり煮込む。プルプルの皮、とろけるコラーゲン、軟らかな肉の三位一体の美味しさ。うじら豆腐は沖縄風がんもどき。口直しにゴーヤーを。
豚飯(とんふぁん)、青パパイヤぬか漬
小さく切ったシイタケ、ニンジン、カステラかまぼこを炊き込んだご飯に、豚と鰹の上品な出汁をかけてサラサラといただく。青パパイヤは沖縄で欠かせない野菜のひとつ。ぬか漬は豚飯との相性抜群。
黒糖寒天
琉球王国時代、黒糖は「ぬちぐすい(命の薬)」と呼ばれ、大切にされてきた。黒糖寒天は、黒糖と寒天だけでつくる究極の甘味。つるりとのど越しよく、黒糖の風味が広がる。さんぴん茶とともに。
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琉球料理 美榮
住所|沖縄県那覇市久茂地1-8-8
Tel|098-867-1356
営業時間|18:00〜22:00(L.O.20:00)
定休日|日曜
梯梧コース1万5000円 ※要予約。12歳以下の入店不可
text: Yukie Masumoto photo: Wataru Oshiro
Discover Japan 2024年7月号「沖縄」