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《山梨県立美術館》メタバースプロジェクトが始動!新たな価値を生み出す美術館へ

2023.2.8
《山梨県立美術館》メタバースプロジェクトが始動!新たな価値を生み出す美術館へ

「ミレーの美術館」としても親しまれている山梨県立美術館。同館では、その活動拡大を目指したメタバースプロジェクトをスタート。2023年2月末の本格始動に向けたプレオープンとして、仮想展示空間にて現代美術作家・たかくらかずきさんの展覧会が開催中だ。この新たな試みの背景や同展の見どころを紹介しよう。

ミュージアムの可能性を拡げる

山梨・甲府の芸術の森公園内に建つ山梨県立美術館。豊かな緑に包まれたこの同館は、『種をまく人』や『落ち穂拾い、夏』など農民の姿を中心に描き続け、19世紀フランス絵画の中でもバルビゾン派の代表的な画家として知られるジャン=フランソワ・ミレーの作品を数多く所蔵していることから1978(昭和53)年の開館以来、「ミレー美術館」として親しまれている。

同館では、成熟した日本社会において文化の役割が重要であるという見解のもと、あらゆる年代の人々が気軽にアートに触れ、日常とは違う刺激や印象をもつことで生活の幅を拡げ、生活の質を深めることができるよう、より豊かな文化的環境を提供するための施策を検討していた。
そうして昨年、2028(令和10)年度に50周年を迎えるにあたり新たなビジョンの策定に着手することを発表。本来の美術館としての活動をさらに充実させながら、先進的な取り組みを実施し、誰もが豊かさを体験できる、新たな価値を創造する場として機能を付加することを目指している。
これに関連し、メタバースを活用し、ミュージアム活動の拡大を模索するメタバースプロジェクトが始動。本格始動は2023年2月末を予定しており、館内の美術図書室にVRゴーグルを設置し、メタバース空間を気軽に体験できる場づくりや、作家とコラボレーションしたイベントの実施などを計画している。

「フィジカルな空間である美術館が仮想空間を活用することを考える際、その両者をどのように結びつけるかが重要だと認識しています」と語るのは、学芸員の小坂井玲さん。
「私自身もそうでしたが、メタバースという言葉は知っていても、VRゴーグルはまだ使ったことがないという人が多いのではないでしょうか。美術という切り口を意識しながら、新しい視覚体験の入り口を幅広い世代の利用者へ提供することができればと考えています」

仮想空間でアート鑑賞!
たかくらかずき『大BUDDHA VERSE 』展

たかくら かずき
1987年生まれ、山梨県出身。東京造形大学大学院修士課程修了。京都芸術大学非常勤講師。3DCGやピクセルアニメーション、 3D プリント、 VR 、 NFT などのテクノロジーを用いて 、 東洋思想、特に近年は日本仏教に取材した作品を制作。現代美術、並びに、デジタルデータの新たな価値追求をテーマとしている。NFTマーケットプレイス OpenSea において NFT シリーズ『 BUDDHA VERSE 』を展開中。演劇集団『範宙遊泳』アートディレクター。山梨県市川三郷町ふるさと大使。

プレオープンとして昨年11月末より開催される『大BUDDHA VERSE』展を手がけたのは、山梨県出身の現代美術作家たかくらかずきさん。日本で古くから信じられてきた妖怪や仏といった存在を「キャラクター文化」の一種として、また、触れることの出来ない「デジタル上の存在に極めて近いもの」として捉え、作品として表現している。また、ブロックチェーンにひも付くデジタルデータの証明技術であるNFTを活用することで、自身のうみだす作品がバーチャル上にアーカイブされ続け、永く続く仏像や妖怪のn次創作の系譜に連なることを企図している。
また本展では、作品のみならず、仮想空間上の展覧会場自体も作家の制作によるもの。自然豊かな山梨県を想起させる山々に囲まれた湖の上に、西洋のミュージアムと日本の寺院を混交させた建築物が立ち現われ、訪れた人を仮想現実の世界へといざなう。

たかくらかずきさんの『NFT BUDDHA』シリーズ。現実に存在するさまざまな仏像をモチーフに、ドット絵のキャラクターとして表現。仏像を現代の姿へと作り直した

「美術館は面白い場所であって欲しい」

小坂井さんは「最近、ある作家さんと話していた時に『美術館は面白い場所であるべきだよね』と口にされたのが心に残っています」と話す。
「観光や産業、地域づくりへの貢献など、美術館に求められる機能は拡大してきています。また、誰もが創作活動を気軽に行える時代において、美術館が提供すべきラーニングプログラムは変化していくでしょう。自然豊かな地方の象徴としての収蔵作品を核に活動を積み上げてきた美術館としての特色を強化するとともに、利用者とコミュニケーションを図りながら新しい分野に取り組むことで、もっと“面白い”美術館の実現を模索していければと考えています」

本プロジェクトは多様化するニーズに応えるための実験的な試みであり、他県の美術館からも注目を集めている。今後の美術展示の一翼を担い、先駆者として新たな可能性を切り拓く山梨県立美術館の挑戦に注目していきたい。

読了ライン

たかくらかずき『大 BUDDHA VERSE展』
会期|2022年11月30日(水)~2023年2月27日(月)
会場|オンライン
料金|無料
www.art-museum.pref.yamanashi.jp/exhibition

山梨県立美術館
住所|山梨県甲府市貢川1-4-27
時間|9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日|月曜日(祝日の場合はその翌日)祝日の翌日(日曜日の場合は開館)年末年始、その他臨時開館・休館あり
Tel|055-228-3322
www.art-museum.pref.yamanashi.jp

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