「NIPPONIA 小菅源流の村」
原風景の一部になれる、村全体でもてなすホテル
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太古の昔、縄文時代から人の暮らしの営みがあり、美しい多摩川源流とありのままの原生林がいまも残る山梨県小菅村。その原風景の自然を堪能し、豊潤な食の恵みを味わい、暮らすように滞在できる宿『ニッポニア小菅源流の村』を訪れた──
約700名が住む、山梨・小菅村へ
“村民の一人”になれる旅のはじまり
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山梨県の東部、北都留郡に属する小菅村。人口約700人のこの村は、総面積の約3分の1が東京都の水源涵養林として100年以上前から保護され、ブナやミズナラなどの美しい原生林が奇跡的に手つかずの状態で残り、多摩川流域450万人の暮らしに清らかな水を届けている。日本の原風景のように自給自足で生活するこの村に、昨年、分散型古民家ホテル「NIPPONIA(ニッポニア)小菅 源流の村」が誕生した。
「従来のホテルは、ひとつのビルの中に客室やレストラン、ショップなどが入っていて建物の中で完結します。分散型ホテルは、村内の古民家を客室、温泉施設を大浴場、村人たちをホテルのキャストとして、村全体をひとつの宿に見立てるコンセプトです」と話してくれたのは、2年前に小菅村に移住し、宿の番頭を務める谷口峻哉さん。
その言葉は訪れると実感できる。村内を散策すると、すれ違う人たちは笑顔であいさつし、「今日はこの夏で一番暑いねぇ」と自然と会話がはじまる。澄んだ空気を感じながら、緑豊かな自然や水遊びに興じる子どもを見ていると、不思議とはじめて訪れたことを忘れなつかしい気持ちがわき上がってくる。
村人になるゲストを迎える場はふたつ。昨年誕生した「大家」は、村の人々から「大家さん」の愛称で親しまれてきた築150年の歴史的邸宅。そして、山と渓谷を見渡せる古民家をリバイバルした「崖の家」が2020年8月にオープンした。〝小菅村にしかない〟風土が体感できる魅力は次ページで紹介する。
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小菅村全体でもてなす、分散型ホテルとは?
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分散型ホテルは、地域全体を使い横に展開。ホテルの“廊下”である村の道が記載されたお散歩マップや“大浴場”の温泉施設「小菅の湯」の間伐材でつくったコースターチケットに心が躍る。
崖の家
人工物なし。自然をまとうマウンテンビュー
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築100年の廃屋をフルリノベーションした「崖の家」に入ると、大きな窓から望めるマウンテンビューに目を奪われる。その視界に人工物は一切ない。
「木の間を飛ぶ野猿や、雨が降って蒸発してもやになる過程が見えたり、自然の営みが目の当たりにできます。レイヤー状に彩る秋の紅葉や雪の銀世界は本当に美しい」と谷口さん。
自然をまとうようにソファーや扉、うつわなどインテリアのアクセントにはグリーンを配色。最新機器を設えた「立ちたくなる」アイランドキッチンで、収穫したての食材を使った自炊を楽しむ時間は、ほかでは味わえない。
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大家
高級ホテルと民宿のいいとこどり
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中組集落に建つ「大家」は、代々養蚕農家を営んでいた豪農の邸宅。重厚な梁や大黒柱、高い天井などを残し、極力手を加えず再生した空間には、150年を超える物語が紡がれている。
「先代は村の人たちに慕われていた校長先生で、昭和30年代には村に唯一あったテレビを観に皆が集っていたそうです。長い空き家期間を経て、宿の開業時に明かりが灯った時、涙を流した方もいて胸に響きました」と谷口さん。
その歴史性と和洋の名作家具が調和した設え、美しい日本庭園、そして趣の異なる4つの客室には、大人が寛げる特別なひとときを約束してくれる。
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自炊スタイルで楽しむ、小菅村の旬食材
「崖の家」は小菅村と、仲間とつながる料理の楽しさを通して食の喜びを分かち合う自炊スタイル。今回、シェフのレシピより定番料理をご紹介!
季節のお野菜をそのままで
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小菅村の味わいが濃厚な新鮮野菜はそのままカットしてタマネギの甘みが利いた自家製ドレッシングをかけるだけでごちそうになる。ソテーしたキノコを添えれば食感と風味がより豊かに。
岩魚と甲斐サーモンのカルパッチョ
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小菅村は民間で日本一早くヤマメの人工孵化に成功した、川魚の宝庫。苦手な人でも生で美味しく食べられるほど上質なので、レモンと塩、オリーブオイルでシンプルにいただきたい。
甲州地どりのグリル
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山梨県が美味しさにこだわって独自開発し、一般的な鶏の倍以上時間をかけ平飼いで育てる甲州地どりは、驚くほど旨みが強い。塩コショウし、皮目をパリッとオーブンで仕上げたい。
甲斐サーモンの炊き込みご飯
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甲斐サーモンは大型ニジマスを餌で色づけした山梨の名物。県産の武川米とキノコ、出汁を合わせ土鍋でふっくら炊き上げ、刻んだワサビの茎を散らせば箸が止まらなくなる滋味深さに。
ワインももちろん山梨産!
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ワインは甲州市勝沼町の名ワイナリー「勝沼醸造」から、和にも合うフレッシュなアルガーノの赤と白、ノンアルコールも2種揃う。
村在住シェフのレシピで調理!
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取材時は夏野菜やヒマラヤヒラタケ、ビーツ、本ワサビなど約15種類が用意。調味料から一番出汁まで揃い、iPadには24種類のレシピを用意。持ち込み、食材の持ち帰りも可。希望があれば出張シェフも(1人1万円)。
連泊したらぜひつくってみよう!
夏野菜とトウモロコシのムース
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自然のやさしい甘みにあふれるトウモロコシは、なめらかなムース仕立てで。オクラとゆでたミニトマト、ししとうの食べられる花を添えてお出汁でいただけば魅惑の前菜に。
四季折々を体感できるアクティビティも用意!
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朝食はホテルスタッフが用意
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一般的な一棟貸しコテージは、持ち寄り食材が定番だが「崖の家」は、地元の食材を使用し、収穫から楽しめる新しい自炊スタイルだ。その食材は、小菅村の小さな生産者が大事に育て、土から出したばかりの季節野菜や朝まで泳いでいた川魚、県産の甲州地どりなど、すべて風土に息づいた地場のもの。それだけでなく、ミシュラン二つ星の料亭やホテルで研鑽を積み、村の食材を熟知したシェフによる、料理ビギナーでもつくれるレシピや、プロ目線でセレクトした使い勝手のいいキッチンツール、山梨県産のナチュールワインまでオールインクルーシブで用意。手ぶらで訪れ、気軽に料理の楽しさを満喫しながら、大地とつながった食の豊かさを感じられるのがうれしい。
さらに、村の人が案内する散策や川魚フィッシング、清流の滝へのトレッキングなど四季折々の小菅村を体感できるアクティビティも充実。
東京から約2時間、地方の村をまるごと五感で体験する〝なつかしくて新しい〟ステイケーションを堪能してみてはいかがだろうか。
「崖の家」のアメニティ、全紹介!
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タオルは宿のコンセプトカラーのひとつであるグレー。綿100%で世界中の7つ星ホテルでも使用されている最高級品(左上)。
ルームウェアもグレーにオレンジのボタンをアクセントに。快適な着心地とスタイリッシュなデザインが◎(左上)
有機オリーブ果実油を配合した乳液と、角質層に浸透しながら肌表面にもしっとりとした潤いを保つ化粧水がうれしい(右上)。
松山油脂のレモングラスのバスソルト。天日塩と清浄作用のある重曹がベースで、汗をかきたい半身浴用にもおすすめ(右上)。
環境面と安全性、有用性を満たすものづくりにこだわる松山油脂のシャンプーとコンディショナー、ボディソープは身体にもやさしい(下)。
NIPPONIA 小菅 源流の村
住所|山梨県北都留郡小菅村3155-1
Tel|0428-87-9210(9:00〜18:00)
Fax|0428-87-9211
客室数|崖の家/2棟、大家/4室
料金|1泊2食付2万9700円〜(税・サ込)
カード|AMEX、DINERS、DC、JCB、UC、VISAなど
IN|15:00
OUT|11:00
夕食|崖の家/自炊スタイル、大家/和食(レストラン)
朝食|崖の家/和食(自室)、大家/和食(レストラン)
アクセス|車/大月ICから国道20号、139号を経て約30分 電車/新宿駅(JR中央本線特急かいじ・あずさ、JR中央線中央特快)→大月駅(大月駅より送迎あり) 施設:レストラン「源流懐石 24sekki」(大家)
https://nipponia-kosuge.jp
2020年10月 特集「新しい日本の旅スタイル」
text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki