土佐の「おきゃく」で乾杯!
ここに人あり、自由あり。
高知県に伝わる「おきゃく」ってなんだろう? じつはおきゃくとは「宴会」のこと。しかし、単に飲むだけではなく、地元に根づいた“酒を楽しむための大人の文化”なのです。
大人の本気の遊び、土佐の
「おきゃく」で酒を酌み交わす!
高知県出身者といえば「酒好きが多い」というイメージをもつ人も多いかもしれない。坂本龍馬に代表される幕末の土佐藩士たちの豪傑な印象から、酒豪が想起されるのだろうが、事実、高知には酒を楽しむ文化が根づいている。代表的なものが「おきゃく」だ。
「かつて高知には神祭と呼ばれる秋祭りの際に“おきゃく”という宴会を催す風習がありました。ここから、家を建てたり車を買ったりと特別なときに、親類や友人、近所の人々を招いて開く宴会のことを“おきゃく”と呼ぶようになったそうです」。こう説明するのは、NPO法人高知の食を考える会理事の友田由美さん。「実は、“おきゃく”という言葉も死語になりつつあったのですが、2006年春にスタートしたイベント『土佐のおきゃく』が、あらためてその伝統文化を見直し広めるきっかけになりました」と話す。
「土佐のおきゃく」は、高知の街を会場とした大きな宴会のようなイベントだ。市街地を中心に商店街や公園などには畳が敷かれ、おきゃく列車も運行するなど、至るところで見知らぬ人同士が酒を酌み交わす。食や酒のほかにも音楽、郷土芸能、ダンスなど40を超えるイベントが9日間にわたって開催。
「土佐のおきゃく2020」の実行委員長も務める友田さんは「土佐の郷土料理の皿鉢(さわち)料理は、大きな皿に海の幸・山の幸を豪快に盛りつけます。そんな皿鉢料理のように個性豊かなイベントが集まり、引き立て合うのが『土佐のおきゃく』なのです」と力を込める。
「おきゃく」では、知らない人とも杯を交わす。地元の食材に舌鼓を打ち、お座敷遊びで盛り上がる。酒が飲めなければノンアルコールでもよいし、誰かが代わりに飲んでくれることもある。大酒を飲むのは不要で、心豊かに酒を飲む。つまり、自由闊達に楽しみつつも周囲への配慮を忘れない――。そんな「おきゃく」は、上質を知る大人の本気の遊びなのだ。
友田さんは言う。「年々、県外から足を運んでくださる方も増えています。『土佐のおきゃく』では、ぜひ高知の人とつながってほしいです」。
土佐流、酒の楽しみ方
飲むだけじゃない!「土佐のおきゃく2020」がもっと楽しくなる土佐流の遊び方を、友田さんに教えてもらいました。
飲み干すまで机の上に置けない盃「べく杯」
伝統のお座敷遊びのひとつ。コマを回して、コマが指した方向にいる人が、出た絵柄の盃を使って酒を飲み干さなければならない。盃は、ひと口で飲める「おかめ」、口の部分に穴が空いていて、指でふさぎながら酒を飲む「ひょっとこ」、長い鼻があるので、たくさん酒が入る「天狗」の3種類がある。どれも不安定なかたちで机の上に置けないため、つがれた酒はすべて飲まなければならない。
簡単なルールと囃子歌で盛り上がるお座敷遊び「菊の花」
人数分の盃を盆の上に伏せて並べ、その中の一つに菊の花を忍ばせておく。全員で手拍子を打ち、「♪菊の花 菊の花 あけて嬉しい菊の花 誰がとるのか菊の花♪」という囃子歌を歌いながら、順に好きな盃を開けていく。菊の花に当たったら、開いた盃の数の酒を飲まなければならないというお座敷遊び。
慣れないと難しい?対決式のお座敷競技「箸拳」
向かい合った二人が箸を使って対決する遊び。お互いに3本ずつの箸を持ち、ジャンケンのように隠した箸を出し合って、二人の箸の数の合計を当て合う。負けた場合は、盃に満たした酒を一気に飲み干さなければならない。土佐独特のお座敷競技として親しまれており、毎年10月1日に「土佐はし拳全日本選手権大会」が開かれている。
「土佐のおきゃく2020」に行こう!
2020年3月7日(土)から15日(日)までの9日間、「ここに人あり、自由あり。」をキャッチフレーズとした「土佐のおきゃく2020」が開催される。2006年にスタートしてから15回目の節目となる今年は、“お面カーニバル”を合言葉に、手拭いやお面、法被などでお祭り気分をいっそう盛り上げる予定だ。2015年に、お座敷遊びで歌われる「べろべろの神様」を拝みたいという酔っ払いたちの熱烈コールを受け、「おきゃく」に“降臨”した「べろべろの神様」は、期間中、高知市中央公園でその姿を拝める。
文=本間朋子 写真=福井麻衣子
2020年3月号 特集「SAKEに恋する5秒前。」