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八百屋「warmerwarmer」が考える
これからの豊かな食とは?
前編|古来種野菜が秘める食の新たな可能性

2025.6.30
八百屋「warmerwarmer」が考える<br>これからの豊かな食とは?<br><small>前編|古来種野菜が秘める食の新たな可能性</small>

「古来種野菜」をご存じだろうか。在来種野菜や固定種野菜とも呼ばれる、昔ながらの種から育てた野菜のこと。効率重視でつくられた野菜にはない深い味わいや食文化が、いま、あらためて注目されている。そんな古来種野菜が秘める食の新たな可能性について、八百屋「warmer warmer(ウォーマーウォーマー)」の高橋一也さんに話を聞いた。

そもそも古来種野菜(在来種野菜や固定種野菜)とは?

乾燥させたさやから種を取り出す
山形県鶴岡市の小真木大根(生産者:斎藤政俊さん)。藁を通して干し、はりはり漬けに

大根の種やニンジンの花がどんなものかを知る人は、決して多くはないだろう。種が芽吹き、花が咲いて実を結び、残された種がまた育ってゆく。最も身近な植物である野菜のそうした姿を知らないのは、考えてみればいびつなことかもしれない。八百屋「warmer warmer」の高橋一也さんが扱うのは、代々受け継がれた種から育つ、植物本来のサイクルにのっとった「古来種野菜」である。

古来種野菜とは、在来種や固定種、伝統野菜などと呼ばれる野菜を総称して高橋さんが名づけた造語。「伝統野菜などは地域によって定義が異なったり認証が必要だったりして、消費者にわかりづらい部分があって。大事なのは定義や制度ではないので、種から育てられた昔ながらの野菜をひっくるめて古来種野菜と呼ぶことにしたんです」

実をつけた株を葉が枯れるまで乾燥させて種を採る。右はカブ、左は大根

古来種野菜の魅力ってなんですか?

種採りを何代も繰り返す中で、その土地の風土に合わせて変化していった古来種野菜は、かたちも色も個性豊かで、生命力に富む味わい

そもそも固定種や在来種といった言葉は、戦後に開発された「F1種」と区別するために生まれたのだという。F1種とは、丈夫で育てやすく、かたちや味も揃いやすい品種を選んで掛け合わせた交雑種。高度経済成長期の大量消費を支える野菜として市場を席巻し、いまではスーパーに並ぶ野菜の99%がF1種といわれている。F1種には多くの利点がある一方、その性質は一代限りのため、農家は毎年種苗を購入して栽培をはじめなければならない。

流通が発達する以前の日本人は、“四里四方に病なし”という言葉も残るように、半径16㎞程度の地域で採れるものを食して生活していた。だからF1種が登場する前は、種を継いで育てる古来種野菜の手法がむしろ一般的だったのだ。

代々種を継いで育てていくと、出自は同じ野菜の種でも、その土地ごとの気候風土に適した姿や味に変わっていく。長い年月をかけて土地に適応してきたため、肥料や農薬に頼らず自然に近い農法で栽培できるのも特徴だ。

高橋一也さん
1970年、新潟県生まれ。「キハチアンドエス青山本店」で料理人を務めた後「ナチュラルハウス」に入社。東日本大震災を機に独立起業

土地ごとに異なる風土を表現するように、古来種野菜には多彩な種類がある。たとえば大根は、日本には152種もの古来種があるのだという。「こんなに多種類の大根があるのは日本だけ。この豊かな多様性を残していきたい」と高橋さんは力を込める。

しかし彼はF1種を否定したいわけではない。「F1種やゲノム編集、遺伝子組み換えなどの人工的にデザインされた野菜は、究極的には地球人が宇宙に出るときに有用な野菜だと思う。一方、古来種野菜は、地球の自然と調和するガイア理論の方向にあるもの。両者はベクトルが異なると思うんです。それに、1億人以上に増えた日本人の食生活を賄うためには、安定した収量が見込めるF1種はやはり必要なもの。科学と自然がよい関係を保ち、両者が共存していくのが理想です」

「warmerwarmer」の野菜をご紹介!

雲仙赤紫大根うんぜんあかむらさきだいこん
長崎県・岩崎政利さん

サイズ|310㎜

インパクトある赤紫の中は白く緻密
雲仙市で約40年にわたり古来種の種採り農家を続けるパイオニア・岩崎さんが栽培。外は濃い赤紫だが中は真っ白で身質は緻密。色を生かすならピクルスやサラダで。煮物にして豊かな甘みときめ細かい食感を楽しむのも◎

 

甚五右ヱ門芋じんご え もんいえ
山形県・佐藤春樹さん(森の家)

サイズ|85㎜

室町時代から受け継がれるなめらかな里芋
室町時代から山形県真室川町の佐藤家に一子相伝で受け継がれる里芋。通常の里芋より細長い形状でぬめりが多く、加熱するととろりととろけるように軟らか。郷土料理の芋煮のほか、シンプルに皮ごと蒸して、きぬかつぎに。

 

折菜おりな
岐阜県・野村農園

サイズ|205㎜

飛騨に伝わる、手で折って収穫する菜の花
飛騨地方に春を告げる野菜。ポキポキと茎を折るように収穫する菜の花で、こちらは江戸時代から続く12代目の「野村農園」が育てたもの。おひたしや炒め物で、甘さとほろ苦さを堪能したい。

 

綿内蓮根わたうちれんこん
長野県・堀 重文さん

サイズ|353㎜

数軒の農家が守り伝える長野県のレンコン
長野市若穂綿内地区でわずか数軒の農家が守り継ぐレンコン。秋~春先に粘土質の泥から手作業で掘り出し収穫する。甘みと粘りが強くモチモチとした食感。皮付きを輪切りにしてシンプルに焼くだけで美味。きんぴらも絶品。

warmerwarmerの「LOVE SEED」

「warmerwarmer」の野菜には「LOVE SEED」のステッカーが付いている。種から育った野菜であることを示すだけではなく、これを食べることが種を守ることにつながっていると消費者に意識してもらうためのものでもある。

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【後編】
食材を知り、選択して地域の風土を守る

 
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「warmerwarmer」が考えるこれからの豊かな食
01|古来種野菜が秘める食の新たな可能性
02|食材を知り、選択して地域の風土を守る

text: Miyo Yoshinaga photo: Shiho Akiyama
2025年6月号「人生100年時代、食を考える。」

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