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豊後水道が育む大分県随一の漁業生産地!
佐伯の魚は、なぜ美味しい?前編

2022.3.31 PR
豊後水道が育む大分県随一の漁業生産地!<br> <small>佐伯の魚は、なぜ美味しい?前編</small>
塩月漁業の漁師たち。その日捕れたばかりのマアジを見せていただいた

大分県の南東端に位置する佐伯(さいき)市。九州で最も広い市であるこの地では、江戸時代以前より延長約270㎞にも及ぶ海岸線の沿岸で漁業が営まれ、現在も沿岸漁業では九州屈指の漁獲量を誇る。
その質は、日々世界中から新鮮な魚介類が集まる東京・豊洲市場でも高く評価され、養殖や水産加工の技術もトップクラスの水産都市として名高い。今回、その美味しさの秘密を、市場や漁協、加工業者、飲食店など“魚の現場”への取材を通してひも解いていく。

江戸時代から続く海洋環境の保護が
350種以上の魚介類が集まる豊かな海を生み出した

佐伯市は、北は四浦半島、南は宮崎県境まで続く長い海岸線を有している

「佐伯の殿様、浦でもつ」
これは江戸時代に佐伯藩を評していわれたと伝わる言葉だ。
浦とは海岸地帯のこと。つまりこの地では農業だけではなく漁業も藩政の経済活動を支えていた。それは佐伯特有の地勢によるものだ。内陸部は、祖母傾国定公園(そぼかたむきこくていこうえん)の山々に囲まれ、東には国内有数のリアス式海岸が広がる。その風光明媚な大自然を結ぶ清流・番匠川(ばんじょうがわ)が森からの栄養分を海へと運ぶことで、海岸線に多様な生物が集まり、豊かな海を形成している。

藩祖である毛利高政公は、この海洋環境を守るために日本ではじめて山林伐採を規制する触書を出し、他藩にも影響を与えた。そういった官民一体で海洋環境を守る活動は、魚の繁殖や保護を目的として海岸などに設けられる保安林のひとつ「魚つき林(うおつきりん)」のかたちで、現在も佐伯市に脈々と受け継がれている。

まき網漁で捕ったマアジを陸揚げする鳩石水産の漁船

鶴御埼から朝陽が昇り、空が白みはじめた早朝、佐伯の漁業の根幹をなす佐伯市公設水産地方卸売市場鶴見市場を訪れた。この市場には、鶴見や米水津(よのうづ)、上浦、蒲江など近隣の漁場からその日に揚がった魚介が集まる。
船着き場には、帰港した漁船の網から大量のマアジなどがダイナミックに陸揚げされ、漁師たちが真剣なまなざしで手早く選別している。6時45分頃になると活魚の競りがはじまり、場内がいっそう活気づく。

活魚のせりの様子。赤い帽子が漁協のせり人(卸売人)、青い帽子が競りに参加できる資格をもった買受人

せり場にズラリと並ぶのは、多種多彩にきらめく春の魚介類だ。マアジやマサバをはじめ、シロアマダイ、トラフグ、ギンフグ(クロサバフグ)、モンゴウイカ(カミナリイカ)など日々約100種類、年間でなんと350種類以上集まる。

鶴見市場には日々、大衆魚から高級魚、稀少な魚まで幅広く揃う
良型のマサバも水揚げされる。佐伯市のサバ類漁獲量は県下の8割以上を占める

「佐伯市が面する豊後水道は、太平洋の温かい海水と瀬戸内海の冷たい海水が混ざり合い、大量のプランクトンが発生します。それらを餌とする小魚が来て、さらにマダイやブリといった大型魚が集まるので、佐伯市沿岸は多様な魚の好漁場になっているんです」と教えてくれたのは、大分県漁業協同組合の鶴見地区漁業運営委員長を務める疋田一則さん。

19歳の頃から漁業に携わってきた疋田さんは佐伯の海に精通している

鶴見市場は、その漁場から数時間の場所にあることから全国でも有数の豊富な魚種が卸され、抜群に新鮮な状態で出荷できるという。さらに、まき網をはじめ、定置網、小型底びき網、一本釣り、刺網、潜水などあらゆる漁法が根づいているため、一年を通して漁獲高が安定し、その取扱量は大分県内産地市場の約7割を占める2万tを誇る。

醤油要らずで甘みがほとばしる
佐伯のマアジの妙味

マアジは、佐伯の浜の経済を支える重要な魚種のひとつだ

さまざまな魚介の中で最も大量に水揚げされるのが、アジ、サバ、イワシといった大衆魚である三大青魚。中でも名高いのが「佐伯のマアジ」だ。

「佐伯は漁場が広く、まき網を中心に定置網や一本釣りなど複数の漁法で一年中新鮮なアジが揚がります。マアジの中でも味がよいとされているキアジ系が主体で、豊後水道の潮流の速い海域で育つので身の締まりがいい。さらに、瀬について豊富な餌を食べて育つので脂ののりも抜群。金色に光る佐伯のマアジは、醤油をつけなくても独特の甘みが味わえます」と疋田さん。

とろけるような脂の旨みと甘みが際立ち、寿司や刺身に重宝され、良質なものはタイより高値で取り引きされる全長30〜50㎝の大アジや、刺身からフライまで幅広く親しまれている中アジ。そして「ぜんご」と呼ばれ、頭つきで酢〆する「丸ずし」が郷土料理として地元で愛されている小アジなど、大きさによってさまざまな料理で楽しめるのも魅力だ。

頭つきの丸ずし。家庭によって味つけやつくり方が異なるとか

佐伯のマアジ、とりわけ大アジの鮮度のよさは、漁獲後に短時間で出荷できる環境もさることながら「神経締め」によるところも大きいという。それは脳を壊して魚の動きを止め、エラを切って血抜きした後、脊髄にワイヤーを通す活け締めの技術だ。

トラフグの神経締め作業。魚種によってワイヤーを通す箇所が異なるため、熟練の技術が必要だ

神経締めは鮮度を保つだけでなく、魚にストレスを感じさせずに締めることで、野締め(氷水などに入れて締める方法)よりも、旨み成分であるイノシン酸が約2倍になるというデータも立証されている。そういった漁業関係者たちの匠技が、全国の料理人や仲買人から厚く信頼される上質な魚を生み出しているのだ。

“鮮度の時間”を止める!?
魚の価値を高める加工技術

中骨なしのマアジ、サバ、カマスの開きは「やまろ渡邉」を代表する商品

佐伯の水産業における技術の高さは、加工にも通じている。鶴見市場を後にし、車で海沿いを30分南下した米水津にある水産加工会社「やまろ渡邉」を訪れた。

このエリアは15社が根づいた水産加工の町。中でも、やまろ渡邉は1908年の創業以来、佐伯の魚をはじめ厳選した鮮度の高い素材にこだわっている。3代目の渡邉正太郎さんは熱く語る。
「佐伯市の漁場は日本でも最高峰。その海が素晴らしい恵みを与えてくれているから、我々加工業者の使命は、生産者が存続するために魚の価値を上げることなんです」

やまろ渡邉の3代目・渡邉正太郎さんは、佐伯の漁業だけでなく水産業全体の未来のために行動を起こしている

およそ40年前から丸干しと開きは添加物を使用せず、塩のみで魚本来の旨みを最大限に引き出し、スーパーのセルフサービスでの買い物が定着した頃には、“時間を止めて刺身の鮮度を維持する”「アルコールブライン凍結」をいち早く導入。液体アルコールをマイナス33℃まで下げ、その中に刺身を入れることで筋繊維を壊さず冷凍できる製法に取り組んだ。

さらに、フライパンで焼ける中骨のない開きを開発するなど、時代に先駆けたイノベーティブな着想でつくる約30種類の加工品は、東京・青山の有名レストランや有機・無添加食品を扱う全国的な宅配専門スーパーなどで支持されている。

「小さい頃から佐伯の魚で育ってきましたから、先人たちが培ってきた魚文化を守らなければならない。生産者と共生しながら豊後水道の海の幸を通して、日本の食シーンを豊かにしていきたいです」

やまろ渡邉のアンテナショップ「鶴見食賓館」では、海にまつわるオリジナル商品が豊富に揃う

今回の取材は初春に訪れたが、四季それぞれでバラエティ豊かに旬の魚介が楽しめるのも、魚種が多い佐伯の魅力だ。

後編では、天然物にも比するといわれている佐伯の養殖業の中から、稀少なブランド魚「かぼすヒラメ」の生産現場と、佐伯の海の恵みがまるごと味わえる地元の名店、そして知られざる郷土料理の美味を紹介する。

鶴見食賓館
住所|大分県佐伯市鶴見大字地松浦1059-1
Tel|0972-33-1056
営業時間|8:00〜16:30
定休日|火曜
https://yamaro-watanabe.co.jp

佐伯市の天然物のよく捕れる時期
 マダイ、マアジ、マトウダイ(もんだい)、ウニ
 イサキ(はんさこ)、マアジ、ハモ、アユ
 イセエビ、タチウオ、マダイ、アオリイカ
 ブリ、ヒラメ、カレイ
通年 アワビ、サザエ


「かぼすヒラメ」に養殖魚の底力を見る。
 
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text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki, Robert Ippei

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