FOOD

“日本一”を掛け合わせた「かぼすヒラメ」に養殖魚の底力を見る。
佐伯の魚は、なぜ美味しい?後編

2022.3.31 PR
“日本一”を掛け合わせた「かぼすヒラメ」に養殖魚の底力を見る。<br> <small>佐伯の魚は、なぜ美味しい?後編</small>

大分県の南東端に位置する佐伯(さいき)市は、古くより漁業が息づいている。県下随一の水揚げ量と国内でも有数の魚種を誇る水産都市の、魚介の美味しさを探るべく、前編では江戸時代から続く歴史や市場、生産者、加工業者のこだわりを紹介した。
後編では、養殖業や佐伯の海の幸が豪快に味わえる地元の名店、そして知られざる郷土の味からその魅力をひも解いていく。

≪前編を読む

官民コラボレーションで生まれた
「かぼすヒラメ」の美味しさのヒミツ。

かぼすヒラメ生産者の森岡道彦さん(左)と、下入津かぼすヒラメ組合組合長の河内伸浩さん

佐伯で養殖業がはじまったのは1961年。佐伯市沿岸はリアス式海岸で静穏域が多く、水温は冬期に12℃以上。その環境が養殖に適しているため、ハマチ(ブリの若魚)の養殖からはじまったとされている。その後、佐伯の各湾に広がり、現在ではヒラメやブリをはじめ、マダイ、カンパチ、ヒラマサ、トラフグ、シマアジなどの養殖が行われている。

中でもヒラメの陸上養殖は日本一の生産量を誇る。さらにその中でも最も生産量の多い下入津地区で2011年、同じく県下の生産量が日本一のかぼすと掛け合わせた新しいブランド魚「かぼすヒラメ」が生まれた。

底棲魚のヒラメは陸上養殖で安全に管理。森岡さんの養殖場では、年間1〜2万尾養殖している

「生産者の声からはじまったブランド化への挑戦です。ゼロからスタートし、県や市、漁協とタッグを組んで2年かけて餌や成分、大きさなどの研究を重ねて完成しました」と教えてくれたのは、下入津ヒラメ組合で広報も務める生産者の森岡道彦さん。初年度は年間で数百尾の注文だったが、地道なPRと年々向上する味が評判を呼び、現在は大分のブランド魚のひとつとして人気を博している。
佐伯のヒラメ養殖は「ヒラメ小屋」と呼ばれる天井の低い平屋で行われている。各生産者は、日々ヒラメの状態を確認し、給餌や排水、選別、掃除など徹底的に管理。稚魚から出荷サイズに成長するまで約1年かけて丁寧に育てられる。

「生産者がチェックし、さらに漁協の検品を経たものだけに『かぼすヒラメ』のタグが打たれ、一年を通して出荷されます。生産の履歴もしっかり記録されているので、質の高さはもちろん、何より安心安全な養殖を大事にしています」と同組合長の河内伸浩さん。
かぼすヒラメの規格は、1尾1㎏ほどで、かぼす成分が入った餌を一定期間与えることと定められている。かぼすの香り成分であるリモネンが、肝やえんがわに蓄積されて独自の味を生み出しているという。

餌の種類や果皮、果汁の使用などは、生産者ごとに工夫を凝らしている

蒲江にある「道の駅かまえ Buri Laboratory」で、かぼすヒラメの姿造りをいただいた。
透明感あふれる身はほどよく締まり、さっぱりとした上品な味わいが口の中に広がる。余分な脂肪分が抑えられたえんがわは、より旨みが濃く、肝に癖がない。一般的なヒラメにはない美味しさで人気を博しているのも納得だ。

道の駅かまえBuri Laboratoryでは、佐伯で捕れる新鮮な魚料理が楽しめる。写真のかぼすヒラメの姿造りは、取材時に特別にさばいていただいたもの

その土地で食すなら
寿司職人の心意気も味わうべし

「ぜひ佐伯の寿司を食べてにきてください!」とは、「錦寿司」の番頭・田中純さん

天然から養殖まで生産者がこだわり抜いた佐伯の魚。その魅力を存分に味わえるのが寿司だ。佐伯市では14の寿司店が「黒潮の極 佐伯寿司海道」世話人会を結成し、それぞれ独自のアプローチで豊後水道の旬を握っている。

今回訪れた「錦寿司」は1977年創業の老舗。店内は活気にあふれ、ネタケースには鮮やかな魚介が並ぶクラシカルな街の寿司店だ。番頭を務める田中純さんは、佐伯湾に浮かぶ大入島(おおにゅうじま)で生まれ育ち、18歳からこの世界に入った熟練の寿司職人だ。毎朝市場に足を運び、目で見てその日のネタを吟味し、時には自ら活魚の神経締めをするなど、鮮度にはこだわり抜いているという。

田中さんの寿司は、国賓が集う会合でドバイの要人も舌鼓を打ったとか
佐伯の旬が堪能できる、「錦寿司」の大トロ、ウニ入りの「スペシャル」(3960円)

供された寿司を見て、思わず声が出た。シャリを覆うネタは、まさに規格外のサイズ。ねっとりとした旨みが濃厚なイカ、みずみずしくはじける車海老、口の中で脂がとろける大トロ……。佐伯の海を丸ごと食しているような感覚に思わず笑みがこぼれてしまう。
さらに、姿造りでいただいたマアジの身の締まりと鮮度のよさもこの上なく、素材自体の甘みが際立っている。

前編で紹介した佐伯のマアジ。ぜひ錦寿司で味わってほしい。「マアジの姿造り」(2000円〜)

「豊後水道の速い潮流で育った魚は、引き締まった身質で、クオリティはどこにも負けません。特にマアジは、関あじと比べても遜色がない。他県から来られた青魚が苦手なお客さまにも『佐伯のマアジは美味しい』とおっしゃっていただけます。うちはその魅力を堪能していただくために生で勝負し、目と舌で驚いてもらえるような大きさで提供しています」

佐伯寿司海道の寿司店はそれぞれ個性豊かで、地元客だけでなく、その味を求めてわざわざ他県から訪れる旅行者や釣り人、お忍びの著名人がリピーターになっているのもうなずける。

サステイナブルを100年先取り!
佐伯の郷土の味「ごまだし」

ごまだしうどん専門店「ICHIE」のごまだし(160g/580円)、豆板醤とラー油入りの辛口(右、160g/580円)も人気

佐伯ならではの魚の味は、寿司だけではない。
知る人ぞ知る郷土料理が「ごまだしうどん」だ。「ごまだし」とは、エソなどの白身魚の焼いた身をほぐし、みりんや醤油とたっぷりのゴマを合わせペースト状にした調味料。
2022年3月には、文化庁が創設した、地域で受け継がれ愛される食文化を継承することを目指す食の認定制度「100年フード」に佐伯のごまだしが認定。名実ともに佐伯が誇る伝統食文化のひとつといえるだろう。

「100年以上前から主に加工品に使用されるエソは小骨が多く、刺身には向かないことから、保存食として漁師の家庭でつくられていたといわれています」と教えてくれたのは、佐伯駅から車で5分ほどの場所でごまだしうどん専門店を営む「ICHIE」の主人・八木仁さん。

八木さんは、ICHIEの数軒隣りで和食会席「旬彩一会 仁」も営む

現代のSDGs、サスイテナブルに通じる取り組みを1世紀先取りしたごまだしは、現在も各家庭で祖母から母、母から子どもへ受け継がれているという。その郷土の味であるごまだしうどんは、非常にシンプルだ。ゆでたうどんに好みの具材とごまだしをのせ、湯をかけるだけ。
よく混ぜていただくと、ふわっと香る魚介の出汁とゴマの香ばしさが相まったやさしい滋味に安堵する。ICHIEでは塩糀も加えることでよりマイルドに仕立てているとか。甘辛く煮た大分県産の乾シイタケ「うまみだけ」の旨みがさらに加わり、一気に平らげてしまった。

ICHIEの「ごまだしうどん」(580円)
コク深い牛すじカレーと合わせた「ごまだしカレーうどん」(700円)

ごまだしには魚介出汁が入っていることから、現在はうどんだけでなく、卵料理や炒め物、肉料理、野菜料理など幅広く使える万能調味料として親しまれている。佐伯市には、原料を安心・安全な地元産の魚にこだわった「佐伯ごまだし暖簾会」があり、加盟する18の飲食店や販売店それぞれで趣向を凝らした味わいが楽しめるため、佐伯の土産品としても押さえておきたい。

400年前より海洋環境が守られてきた国内有数の好漁場・佐伯の歴史、そしてクオリティを追求し続ける漁師や河岸人、加工職人、養殖職人、料理人といったプロフェッショナルたちの技術と想い――。
それらのピースが揃うことで、佐伯独自の魚食文化が生み出されていた。その美味しさは現地で食べてこそ体感できるのは言うまでもない。ぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。

道の駅かまえ Buri Laboratory
住所|大分県佐伯市蒲江大字蒲江浦5104-1
Tel|0972-42-0050
営業時間|10:00〜16:00(4~11月)、10:00〜15:00(12~翌3月)
定休日|水曜
https://buri.fish

錦寿司
住所|大分県佐伯市日の出町1-6
Tel|0972-23-7632
営業時間|11:00〜14:00、16:00〜20:30
定休日|水曜、第4木曜
http://nishiki.licmail.net

ICHIE
住所|大分県佐伯市向島2-23-20
Tel|0972-48-9133
営業時間|11:00〜14:00、17:00〜22:00、日曜、祝日11:00〜14:00
定休日|月曜
www.visit-saiki.jp/spots/detail/5253ab08-414a-4a38-8ddc-b1dad82444c7

 


黒潮の極 佐伯寿司海道
 
≫公式サイトはこちら

 


佐伯ごまだし暖簾会
 
≫公式サイトはこちら

 

text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki, Robert Ippei

 

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