ユネスコ食文化創造都市を目指す!
大分県臼杵市がまちを挙げて取り組む「有機農業」とは?〈前編〉
全国に先駆けてまちを挙げて臼杵市が取り組んでいるのが、草木を主原料とする完熟堆肥を用いた土づくりからはじまる有機農業。市民の健康と食文化を支えている美味しい野菜づくりとは?
「生き物が、生き物をつくるのです」という「藤嶋農園」の藤嶋祐美さんの言葉が、生命力にあふれる畑を前にしてストンと理解できた。有機の畑では、カミキリムシなどの虫やミミズが小さく砕いた落ち葉を、土の中で菌などの微生物がさらに分解し、それを野菜の根っこが吸収して栄養とする。人間も同じで、食べたものを栄養として吸収できるかたちに変えてくれるのは、腸内細菌などの微生物だ。
藤嶋さんは臼杵市野津町で20年以上前から有機農業を実践してきた。現在は「臼杵市地域おこし協力隊」の有機農業研修生を受け入れ、ともに「ほんまもん農産物」をつくりながら、耕作放棄地となり土がガチガチになってしまった畑を有機の畑に変えている。地域おこし協力隊として有機農業を学べるのも臼杵市ならでは。協力隊隊員たちは、畑の土づくりから野菜づくり、出荷までの一連を3年間で実習する。
それにしても藤嶋農園の土はふかふかでいい香りがする。ミミズもたくさん。雑草に負けまいと根を張る野菜はどれも力強い。「ここで育つ野菜は、糖度計などでは測れない、人間の舌が感じる旨みがあります。それは野菜の根っこが土から吸収した命そのもの。その命をいただくことが私たちの健康に直結します」と藤嶋さん。
私たちが体調が悪いなと感じるのは腸内細菌のバランスが崩れているとき。同じように、畑で作物がうまくできないのは、土の微生物のバランスが崩れているからなのだ。そのバランスを整えるため、作付け前の畑の土に堆肥をすき込む。藤嶋さんが使っているのが「うすき夢堆肥」だ。
うすき夢堆肥とは、市が運営する「臼杵市土づくりセンター」でつくられる草木主体の堆肥のこと。一般的な堆肥は家畜ふん尿を有効な有機的資源として活用するために製造されたものだが、こちらは土壌環境をよくすることが目的の完熟堆肥。山の腐葉土のように、土の中の微生物の餌となり、動きを活発化させる。土づくりセンターでは、主に市内から集められる草木類8割、発酵を促進させるために豚糞2割を原料に、半年かけて完熟堆肥をつくる。市民の健康と持続可能な農業を進めていくために有機農業を促進し、そのためにまず土づくりからはじめようという取り組みだ。田畑がよくなれば、結果として川の水がよくなり、海がよくなる。一番の根本を見極めて実行する臼杵市の意識の高さに驚かされる。
完熟堆肥「うすき夢堆肥」ができるまで
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大分県臼杵市がまちを挙げて取り組む「有機農業」とは?
前編 後編
番外編|いまに伝わる「質素倹約」の心
text: Yukie Masumoto photo: Maiko Fukui
2021年9月号「SDGsのヒント、実はニッポン再発見でした。」