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能登牛と石川の野菜をめぐる旅。
立川直樹がゆく「石川 冬の食紀行」前編

2022.1.18 PR
能登牛と石川の野菜をめぐる旅。<br><small>立川直樹がゆく「石川 冬の食紀行」前編</small>

歴史に裏打ちされた、深淵な石川県の魅力を、プロデューサー・立川直樹氏と写真家の宮澤正明氏がお届けする。「石川 冬の食紀行」と題しフォーマルな、そして市井の冬の食にフォーカス。石川への気持ちがぐっと引き寄せられる「肉」と「野菜」の食旅だ。

プロデューサー
立川直樹(たちかわ なおき)

1949年生まれ。メディアの交流をテーマに音楽、映画、美術、舞台など幅広いジャンルで活躍するプロデューサー・ディレクター。音楽評論家・エッセイストとしても独自の視点で人気を集める。『I Stand Alone』、『ラプソディ・イン・ジョン・W・レノン』など著書多数。

「地元で地元のものを食べる」

石川にはまっている。30年ほど前に縁あって金沢での仕事がはじまり、それからいろいろな人と知り合い、10年間ほどは毎年、市で小さな夏休みを楽しく過ごし、能登半島に関しては、ちょっとした“通”になった。金沢市内の好きな店も10本の指では足らない。

35㎞に及ぶ加賀海岸で、最も海に突き出た加佐の岬。隣接する橋立漁港は明治時代までは北前船の寄港地として栄え、岬の突端には美しい白亜の灯台が建つ

そうした中で随分いろいろなものを食べ、石川の食材の魅力はわかっていたが、プロの料理人も石川の食材については太鼓判を押している。今回の取材のために能登牛と石川県産の野菜をたっぷりと使って料理をつくってくれたのが金沢東急ホテル総料理長の鈴木房雄氏。金沢に赴任してから県内の食材をチェックし続けているので、その話にはリアリティがある。

「まず立地条件がいいんです。山あり海ありで、海からのミネラル成分が土壌など、直接野菜に影響を及ぼしますから。気候は厳しいですが、かえって野菜の力強さ、生きる強さに反映されていると思います。能登牛も酪農家の方が大量生産に走らずに、丁寧につくっていらっしゃるし、牧草にも影響しますよね。海からの強いミネラルを吸い上げた牧草を、牛たちが食べている。内臓も含めて、肉質がよく、臭みがありません」

そして鈴木さんは、きれいに肉をさばき〈能登牛A5のフィレ肉57℃〉という料理をつくってくれた。これが凄い。57℃のコンソメで「エトフェ」という技法で調理し、添えられているのがビーフコンソメとセンナわさび、珠洲塩。

「一般的なステーキハウスでは、いいお肉を焼いて塩を添えます。それも美味しいかもしれませんが、私はフランス料理の人間なので、コンソメで煮ました。58℃でも試したことはありますが、ミディアムのようになってしまうので、あえて1℃下げました。いい肉はレアに近づけたいんです」

口の中に入れると納得の味。「肉のエキスを取り出した液体で、肉を戻してあげる」という発想がフランス料理の極意だと実感した。さらに〈赤土の土壌で育ったのと里山の野菜たち 原木椎茸“のと115”のエキスとエアーをからめて〉と名づけられた料理も、フレンチの極致だった。あやめ雪のカブ、ビタミン大根、黒大根、牛蒡、カボチャ系のバターナッツ南瓜、ミニ白菜、ケール、紫からし菜、ビーツ、加賀れんこん、はつか大根、ミニ人参、それに“のと115”という、見事なラインナップ。

鈴木さんは野菜についても「能登の里山の野菜は、優等生じゃなく、ちょっと突っ張る部分もありつつ、優等生な部分も兼ね備えているのがいい。あとはやはり地元で地元のものを食べる。これが一番です」と言い、「野菜自身が、『生きなくては』という思いからか、力強い」とまとめてくれた。昨年の夏から年4回の予定でスタートしたイベント、「食の歳時記 いしかわを食べる」が評判になっているのもよくわかる。11月の「収穫の秋の宴」で供された1品〈能登里山の野菜たち 原木椎茸のスープでキャラメリゼ猪肉のフュメと幻の雑穀「かまし」添え〉には完全に脱帽だった。

能登牛のフィレ肉1本の筋をきれいに取り除き、塩を振り、コンソメで同じビーフに膜をつけていくという手法。シンプルだが深い料理ができ上がっていく。その作業はもうアートの領域に入っている。料理人はアーティストだ
たくさんの種類の野菜が切り分けられていく景色も、アート作品をつくっているように見えた。それぞれの野菜の味が織りなす、得もいわれぬハーモニー。仕上げに乾燥椎茸を削っていく作業を目にしたときは、手品師のタネを覗いたような気がしてちょっとドキッとした。能登の白ワインと合わせたい

食の歳時記
いしかわを食べる

里山里海に囲まれ、自然への敬意が育んだ石川の食。それらとワイン・日本酒とのマリアージュをテーマにしたディナーイベントが催される。地元食材の醍醐味を引き出すのは金沢東急ホテル総料理長、鈴木房雄氏。石川の食の神髄を体感できる一夜に酔いたい。

食の歳時記 いしかわを食べる
日時|2022年2月16日(水)(受付17:30/開宴18:00)
問|076-231-3912(金沢東急ホテル 宴会予約係)

 


自然と愉しむ、アートな冬食
 
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text: Naoki Tachikawa photo: Masaaki Miyazawa
2022年2月号「美味しい魚の基本」

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