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土鍋で充実した朝ごはん
《圡楽窯/どらくがま》福森道歩さんが教える土鍋の魅力【前編】

2023.4.14
土鍋で充実した朝ごはん<br>《圡楽窯/どらくがま》福森道歩さんが教える土鍋の魅力【前編】

何かと慌ただしい朝は、いい道具を味方につけることで料理の仕上がりがぐんとグレードアップ。土鍋でつくる朝ごはんのレシピやコツを、陶芸家であり料理家の福森道歩さんに教えてもらいました。

広々とした台所で、手際よく作業を進める道歩さん。小ぶりな土鍋は1〜2人分の料理をつくるのに重宝する。味噌汁に使ったのは、深底型で保温性抜群のポトフ鍋(右)

福森道歩(ふくもり みちほ)
伊賀焼を代表する「圡楽窯」7代目・福森雅武氏の四女として生まれ、5年にわたり料理を学んだ後、2003年に家業へ。2015年より8代目当主を継ぐ。陶芸のかたわら土鍋を生かした料理に取り組み、テレビ出演やレシピ本の著作も多数。

土鍋遣いで朝の食卓をグレードアップ

蓋を取った瞬間、炊きたてのご飯から立ち上る甘い香りがたまらない。ふんわりとした米粒をつぶさないよう、やさしくほぐしたい

江戸時代から続く伊賀焼の窯元「圡楽窯」。いまやこちらの代名詞ともなっているのが、黒光りする温かな表情をもつ土鍋だ。地元・伊賀で採れた陶土を使い、ろくろで一つひとつ手挽きしてつくられている。

「火の当たりが柔らかい土鍋は、とても優秀な調理道具です」と話すのは、8代目当主の福森道歩さん。土鍋やうつわの作陶に取り組み、日々の料理にもフル活用。父である福森雅武さんが引き出した土鍋料理のポテンシャルを、より現代的なレシピで継承・発展させている。
普段の朝は忙しく、朝食を簡単に済ませることも多いと話す道歩さん。とはいえ、週末などにしっかり食べたときの充足感は格別だという。そんな朝の食卓に欠かせないのは土鍋ご飯。輝くような炊き上がり、モチモチの食感は何よりのごちそうだ。今回は、「圡楽窯」のロングセラーモデルである織部釜(羽釜)を使用。底が丸い鍋の形状に合わせて、米の真ん中をくぼませる。そんな何げない下準備にも、土鍋を愛用する様子が伝わってくる。

「ゆるやかに温度を上げながら炊くことで美味しくなるので、最初から水温が高い夏場は、氷を少し入れて炊きはじめるといいですよ」

ろくろで成形され、乾燥中の土鍋。手びねりにして、蓋がピタリと合う精緻なつくりが見事

素地にたくさん空気を含み、保温性が高い土鍋は、素材の水分を生かした蒸し物もお手のもの。みずみずしい旬野菜を鍋に入れたら、ごく少量の“呼び水”を加えて火にかけるだけ、と拍子抜けするほどの手軽さ。トマトなど生でも食べられるものは、火を止めてから加えて蓋をし、少し蒸らすだけでジューシーさが際立つという。

ご飯と野菜を鍋に任せている間に、道歩さんは味噌汁と卵焼きをテキパキと用意。常備菜の「長芋明太子」を添えれば、福森家の健やかな朝食の完成だ。やさしい味わいながら、一日をはじめるパワーがみなぎってくる。品数をつくる時間がなければ、土鍋ご飯とご飯のお供だけでも。残ったご飯はおむすびにすれば、冷めてもしっとりと美味しく、昼食やお弁当にぴったりだ。
土鍋レシピの可能性は尽きない。じっくり炊き上げるお粥も土鍋が得意とするメニューのひとつ。「胃腸が疲れていたり、前日にちょっと飲み過ぎてしまったときにもおすすめです」と道歩さんは笑う。今回は銀あんを合わせてもらったが、梅干しや海苔の佃煮などを添えるだけでもいい。

素焼きを経て釉薬がかけられた織部釜。この後、本焼きして完成となる

耐熱性に優れているから、オーブンに入れての調理も可能。今回提案してくれたのは、なんとフレンチトースト。たっぷりめのバターを土鍋に塗っておけば、焦げ付きを防げる上に味わいとコクがアップする。卵液も残さず回しかけることで、まるで焼きプリンのような食感に。フライパンで焼くレシピとは違う、土鍋ならではの仕上がりだ。
美味しさに加えて、土鍋の大きな魅力は、調理道具であると同時に美しいうつわでもあること。だから、そのまま食卓に出してもさまになる。熱々の状態を長く楽しめるし、洗い物も減る、とうれしいことばかりだ。
火にかけるごとに細かなひびや貫入が入り、使いやすくなる土鍋。「毎日使い込むことで、土鍋は育っていくもの。しまい込まず、料理の相棒としてどんどん活用してください」と道歩さん。土鍋のある朝ごはん習慣、早速はじめてみたい。

読了ライン

粘土の余分な空気を抜き、硬さを均一にするための「菊練り」を行う道歩さん。手先だけでなく全身の力を込める

福森家のある日の朝ごはん

①季節の蒸し野菜
緑と白のアスパラガスなど、力強い伊賀の野菜をたっぷりと。歯応えが残る程度に蒸し、ゆで野菜とは別次元の濃密な旨みを楽しむ。
②長芋明太子
粗みじん切りにした長芋に明太子を混ぜ込んだ、福森家自慢の一品。長芋の口当たりのよさに旨みと辛みが加わり、ご飯が猛烈に進む。
③三つ葉の卵焼き
家の周辺に自生する三つ葉をふんだんに加えた卵焼き。フレッシュな香りが卵と出合ってほどよくマイルドに。食感もよく、食欲をそそる。
④酒粕バーニャカウダ
交流の深い金沢の酒蔵「福光屋」と道歩さんのコラボ作。鰯のへしこと酒粕などを合わせた複雑な旨みが、野菜の風味を膨らませる。
⑤ふきのとうの味噌汁
生のワカメと豆腐、自家製の味噌を使った味噌汁は、食べる直前にふきのとうのつぼみをちぎって散らし、すがすがしい香りをプラス。
⑥土鍋炊きご飯
つややかに輝くご飯は、自家栽培米の「キヌヒカリ」。そのままでもとびきり美味しく、おかずが揃えばお代わりは避けられない。

 


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text=Aya Honjo photo=Makoto Ito food & recipe=Mizuho Fukumori
2023年5月号「ニッポンの朝食」

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