土鍋で充実した朝ごはん
《圡楽窯/どらくがま》福森道歩さんが教える土鍋の魅力【前編】
何かと慌ただしい朝は、いい道具を味方につけることで料理の仕上がりがぐんとグレードアップ。土鍋でつくる朝ごはんのレシピやコツを、陶芸家であり料理家の福森道歩さんに教えてもらいました。
福森道歩(ふくもり みちほ)
伊賀焼を代表する「圡楽窯」7代目・福森雅武氏の四女として生まれ、5年にわたり料理を学んだ後、2003年に家業へ。2015年より8代目当主を継ぐ。陶芸のかたわら土鍋を生かした料理に取り組み、テレビ出演やレシピ本の著作も多数。
土鍋遣いで朝の食卓をグレードアップ
江戸時代から続く伊賀焼の窯元「圡楽窯」。いまやこちらの代名詞ともなっているのが、黒光りする温かな表情をもつ土鍋だ。地元・伊賀で採れた陶土を使い、ろくろで一つひとつ手挽きしてつくられている。
「火の当たりが柔らかい土鍋は、とても優秀な調理道具です」と話すのは、8代目当主の福森道歩さん。土鍋やうつわの作陶に取り組み、日々の料理にもフル活用。父である福森雅武さんが引き出した土鍋料理のポテンシャルを、より現代的なレシピで継承・発展させている。
普段の朝は忙しく、朝食を簡単に済ませることも多いと話す道歩さん。とはいえ、週末などにしっかり食べたときの充足感は格別だという。そんな朝の食卓に欠かせないのは土鍋ご飯。輝くような炊き上がり、モチモチの食感は何よりのごちそうだ。今回は、「圡楽窯」のロングセラーモデルである織部釜(羽釜)を使用。底が丸い鍋の形状に合わせて、米の真ん中をくぼませる。そんな何げない下準備にも、土鍋を愛用する様子が伝わってくる。
「ゆるやかに温度を上げながら炊くことで美味しくなるので、最初から水温が高い夏場は、氷を少し入れて炊きはじめるといいですよ」
素地にたくさん空気を含み、保温性が高い土鍋は、素材の水分を生かした蒸し物もお手のもの。みずみずしい旬野菜を鍋に入れたら、ごく少量の“呼び水”を加えて火にかけるだけ、と拍子抜けするほどの手軽さ。トマトなど生でも食べられるものは、火を止めてから加えて蓋をし、少し蒸らすだけでジューシーさが際立つという。
ご飯と野菜を鍋に任せている間に、道歩さんは味噌汁と卵焼きをテキパキと用意。常備菜の「長芋明太子」を添えれば、福森家の健やかな朝食の完成だ。やさしい味わいながら、一日をはじめるパワーがみなぎってくる。品数をつくる時間がなければ、土鍋ご飯とご飯のお供だけでも。残ったご飯はおむすびにすれば、冷めてもしっとりと美味しく、昼食やお弁当にぴったりだ。
土鍋レシピの可能性は尽きない。じっくり炊き上げるお粥も土鍋が得意とするメニューのひとつ。「胃腸が疲れていたり、前日にちょっと飲み過ぎてしまったときにもおすすめです」と道歩さんは笑う。今回は銀あんを合わせてもらったが、梅干しや海苔の佃煮などを添えるだけでもいい。
耐熱性に優れているから、オーブンに入れての調理も可能。今回提案してくれたのは、なんとフレンチトースト。たっぷりめのバターを土鍋に塗っておけば、焦げ付きを防げる上に味わいとコクがアップする。卵液も残さず回しかけることで、まるで焼きプリンのような食感に。フライパンで焼くレシピとは違う、土鍋ならではの仕上がりだ。
美味しさに加えて、土鍋の大きな魅力は、調理道具であると同時に美しいうつわでもあること。だから、そのまま食卓に出してもさまになる。熱々の状態を長く楽しめるし、洗い物も減る、とうれしいことばかりだ。
火にかけるごとに細かなひびや貫入が入り、使いやすくなる土鍋。「毎日使い込むことで、土鍋は育っていくもの。しまい込まず、料理の相棒としてどんどん活用してください」と道歩さん。土鍋のある朝ごはん習慣、早速はじめてみたい。
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福森家のある日の朝ごはん
福森流 土鍋レシピを公開!
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text=Aya Honjo photo=Makoto Ito food & recipe=Mizuho Fukumori
2023年5月号「ニッポンの朝食」