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国立新美術館「庵野秀明展」
庵野秀明の過去・現在・未来を辿る、世界初の展覧会

2021.10.21
<small>国立新美術館「庵野秀明展」</small><br>庵野秀明の過去・現在・未来を辿る、世界初の展覧会
庵野秀明展実行委員会

日本のアニメ界に大きな変革をもたらした『エヴァンゲリオン』シリーズや、興行収入82億円を超える大ヒットとなった映画『シン・ゴジラ』の総監督としても知られる映像作家・庵野秀明氏。企画・脚本を担当する『シン・ウルトラマン』と最新監督作『シン・仮面ライダー』を制作中である庵野氏の創作活動を紐解く世界初の展覧会が、東京・六本木の国立新美術館にて開催中。

アニメーター時代に参加した『風の谷のナウシカ』などの過去作品や、庵野氏が監督・プロデューサーとして活躍する最新の仕事までを網羅し、創作活動の秘密に迫る本展。展示内容の一部をご紹介します。

庵野秀明をつくったもの
庵野秀明がつくったもの
そして、これからつくるもの

庵野秀明展実行委員会

庵野秀明氏は『ふしぎの海のナディア』や『エヴァンゲリオン』シリーズ、『シン・ゴジラ』などの監督・総監督作品でも知られ、最新作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が興行収入100億円を突破したことでも記憶に新しい映像作家だ。

日本のお茶の間のテレビにカラー放送が初めて届けられた1960年。映像史の転換期に生を受けた庵野氏は、黎明期のテレビ文化、とりわけアニメや特撮といったテレビまんがに傾倒した。後に作品制作に携わる立場となっても、それらの番組などから受け取った感動や衝撃を忘れることなく引き継ごうという姿勢は一貫しており、アニメ・特撮・実写のフィールドを自由に往還しながら、スタイリッシュな構図や小気味のよいカット割り、静と動の使い分け、音と動きのシンクロなどの個性的な表現や、時代ごとに取り入れる最新の技術で、誰も見たことがない面白い映像を常に追求し続ける。

本展は、「庵野秀明をつくったもの」「庵野秀明がつくったもの」「そして、これからつくるもの」という三つのコンセプトで構成。

序盤では、庵野氏の原点となったアニメ・特撮作品の貴重な原画やミニチュアなどが並ぶ。続くエリアからは、アマチュア時代から現在までの膨大な量の直筆メモやイラスト、独自の映像作りには欠かせない脚本・設定・イメージスケッチ・画コンテ・レイアウト・原画からミニチュアセットに至るまで、多彩な制作資料を余すところなく展示。そして終盤では、近年取り組むアニメや特撮の文化を後世に伝える活動について触れるとともに、『シン・ウルトラマン』や『シン・仮面ライダー』といった制作中の新作にまつわる資料も紹介される。

~過去~
庵野秀明の原点と彼がリスペクトするもの

庵野秀明展実行委員会

テレビの普及とともに生まれた『ウルトラマン』や『仮面ライダー』、『宇宙戦艦ヤマト』、『機動戦士ガンダム』など、庵野氏が幼少期から敬愛する漫画やアニメ、特撮作品にまつわる貴重な資料を一挙展示。さらに、縦3m×横15mの巨大LEDスクリーンを駆使し、庵野氏が影響を受けた映像作品を振り返ることで、「庵野秀明をつくったもの」を体感していく。

庵野秀明展実行委員会

~現在~
アマチュア時代から現在までの軌跡

『DAICON III オープニングアニメーション』1981年発表 ©DAICON FILM

絵を描くことが好きだった庵野氏は、高校生のときに8ミリフィルムを購入し、アニメや特撮の自主制作フィルムづくりに没頭していく。とくに大学時代に制作した短編アニメーションや実写特撮映画は、そのアマチュア離れしたクオリティーがマニアの間で話題を呼んだ。

『ふしぎの海のナディア』1990年放送 ©NHK・NEP

メカニックの緻密な描写や、爆発や煙などのエフェクト作画がアマチュア時代から突出していた庵野氏。『超時空要塞マクロス』へのアニメーターとしての参加を機に、プロの世界に一歩踏み出す。その後、上京し『風の谷のナウシカ』に参加。宮崎駿氏より作品内で非常に重要な巨神兵のシークエンスの原画を任される。企画当初から制作に参加した劇場アニメーション『王立宇宙軍 オネアミスの翼』や監督を務めたオリジナル・ビデオ・アニメーション『トップをねらえ!』、自身初のテレビシリーズ『ふしぎの海のナディア』を経て、『新世紀エヴァンゲリオン』で社会現象を巻き起こす。

『新世紀エヴァンゲリオン』1995年放送 ©カラー/Project Eva.

魅力的なキャラクターやスタイリッシュなビジュアル、深みのあるストーリーなど、“エヴァ”は画期的なテレビアニメだった。あらゆるアニメ雑誌で特集が組まれるだけでなく、当時普及し始めていたパソコン通信などでのファン同士の対話が熱狂を拡大させ、かつてないスピードでブームが伝播していった。また作品の色彩パターンやフォントなど独特のデザイン感覚は、メディア上だけではなくアパレルや街中にも氾濫しファッションにさえ影響を及ぼした。アニメ作品が日常生活の中に浸透し始めるという、過去に類のない現象が起きた。経済効果を含めてマスコミもアニメに注目するようになり、「製作委員会方式」の拡大や「作品自体を商材とする」ビジネスが生まれる契機も“エヴァ”によるものだった。

そんな一世を風靡した『新世紀エヴァンゲリオン』、そして今春に公開され、100億円を超える大ヒットとなった『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。ここでは庵野氏は何を考え、つくってきたのか、数十年に及ぶ創作活動を門外不出の関連資料で辿り、映像制作にかける情熱と試行錯誤の過程を紐解いていく。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』2009年公開 ©カラー
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』2021年公開 ©カラー
庵野秀明展実行委員会
庵野秀明展実行委員会

~未来~
憧憬と再生、そして未来へ継承

『シン・ゴジラ』2016年公開 ©TOHO CO.,LTD.

2016年に公開された『シン・ゴジラ』はゴジラシリーズとしては過去最高の興行収入82億円を超える大ヒットとなり、映像作家・庵野秀明の評価を一段と高めた作品だ。その3年前、東宝から監督の依頼をされた庵野氏は、当初は固辞していたが、盟友であり映画監督の樋口真嗣氏をはじめ、関係者からの熱心な勧めと、「特撮映像というジャンルへの恩返しになる」という意見に心が動き、総監督を引き受けた。

タイトルは庵野氏が名付け、邦画の制作体制では珍しい「プリヴィズ(プリ・ヴィジュアリゼーション)」を使った制作方式や、着ぐるみではない3DCGによるゴジラ本体や破壊表現、怪獣に対する日本政府を取材に基づくリアリズムで描くなど、ここでも新しい試みや表現方法にチャレンジ。日本中に大きな衝撃を与える作品となった。

そんな庵野氏は現在、企画・脚本を担当する『シン・ウルトラマン』と監督作『シン・仮面ライダー』を制作中。『ウルトラマン』と『仮面ライダー』は、現在も新作シリーズが作り続けられるエポックな作品であり、庵野少年の心を掴んで以来いまも離さない作品である。『シン・ゴジラ』同様、庵野氏は作品の原点をリスペクトし、ヒーローが初めて出現した世界観による衝撃と感動をエンターテインメント映画として再生することを試みている。

また庵野氏の視線は、作品づくりのみならず、過去のアニメーションや特撮の作品群への恩返しとして、その技術や文化の保存、啓蒙、継承にも向けられている。終盤では、2017年に立ち上げたATAC(特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構)をはじめ、未来へ向けた継承のためのプロジェクトも紹介。

庵野秀明展実行委員会

庵野作品をあらゆる方向から見つめることができる本展。庵野氏の歩みを通じて、昭和から現在まで脈々と続く映像文化の魅力に触れ、未来に想い馳せるきっかけとしてはいかがだろうか。

庵野秀明展
会期|2021年10月01日(金)〜12月19日(日)
会場|国立新美術館 企画展示室1E
住所| 東京都港区六本木7-22−2
時間|10:00〜18:00(最終入場は30分前まで)※金・土曜は20:00まで
休館日|火曜 ※11月23日(火・祝)は開館
料金|一般2100円、大学生1400円、高校生1000円 ※すべて税込
Tel|050-5541-8600
※事前予約制(詳細は公式HPをご確認ください)
https://www.annohideakiten.jp

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