ART

生活と表現が交わる広場
展覧会「200年をたがやす」
未来を創造するための身体と感覚を整える場に

2021.8.6
生活と表現が交わる広場<br>展覧会「200年をたがやす」<br><small>未来を創造するための身体と感覚を整える場に</small>
撮影:草彅裕

生活と表現が交わる広場としての展覧会「200年をたがやす/Cultivating Successive Wisdoms」。創造の現場をひらく約3ヵ月の「つくる」会期を経て、その成果をかたちにする場「みせる」会期がスタートした。

撮影:草彅裕

インディペンデントキュレーターの服部浩之を全体監修に迎えるとともに、建築家の海法圭が参画し、特徴的な建築構造をもつ会場・秋田市文化創造館の館内外をダイナミックに生かして「新たな公共性」を模索。未来に向けて新たな創造的行為を誘発するための展示空間が出現した。

天窓から自然光が差し込むスタジオAには、アーティスト・村山留里子のカラフルでありながらも濃密なオブジェや、農民彫刻家と称し農業や社会運動と創作活動を並行して実践した皆川嘉左ヱ門による重厚な彫像等を配置。さらに、海法圭の提案による「200年の橋」と題する、空間を横断する構造物が立ち上がり、作品を鑑賞するだけでなく、休憩したり、おしゃべりをしたり、橋に設えられたブランコで遊んだりと、多様な人々の営みと表現が交錯する「広場」のような現象が展開され、鑑賞者と作品との新たな関係性を構築するためのきっかけを与えている。

9月26日(日)までの会期中には、秋田の祭りや民俗芸能のリサーチを元に創作した演劇作品「soda city funk」の上演や、秋田の家庭に伝わる食のレシピの実演、伝統的工芸品のワークショップ等の各種イベントを開催予定だ。

展覧会コンセプト

かつて藤田嗣治の「秋田の行事」が飾られた壁面に設えられた鏡。今日の秋田を生きる人々(鑑賞者)の姿が映し出される

服部浩之さん 「200年」という幅で、過去に、そして未来へと、様々な旅路であきたを探る展覧会です。200年前は江戸時代、明治維新よりも以前に遡ります。歴史教科書などではあまり区切られることのない幅で物事を捉え、人々の営みをたどることから、私たちのこれからの生活や豊かさについて模索することを目的としています。

「Culture(文化)」は「Cultivate(耕す)」を語源とし、無数の先人がたがやしてきた土壌に、私たちの文化は形成されています。この展覧会は、生活・産業、食、工芸、美術、舞台の5分野を軸に展開されています。一見バラバラな領域ですが、どれも生きるうえで不可欠なもので、複雑に関係し合っています。

食べることは人(や多くの生物)の生命を維持するために不可欠です。人は食を飽くことなく探求し、それを代々継承することで豊かな食文化を築いてきました。農業や鉱業、林業などの産業は近年その重要性が見直されていますが、多様な産業は地域文化の形成に不可欠。一方で、大量生産・消費の諸問題にやっと本格的に世界が取り組むようになった昨今、長年受け継がれてきた工芸の知や技術への眼差しも変わりはじめているのです。

また、現代アートということばが定着する一方で、美術表現の手法や形式は加速度的に多様化・複雑化していますが、同時に既成概念を疑い常に新たな価値を提起する運動を、美術という領域は切り拓いてきました。そして、現在まで数多く伝承される芸能や祭祀、身体を用いた表現の豊かな系譜は、現代の舞台芸術作品に受け継がれています。

この展覧会では、「あきた」を秋田市や秋田県という行政区分に必ずしも限定していません。あきたという言葉からどこを、あるいはどれくらいの領域を思い浮かべるかは、人それぞれでしょう。その異なる個別の感覚を大切にしていきたいと考えています。

そもそも人の暮らしや文化は、越境の連続によりかたちづくられてきたもので、厳密に領域や境界を定義するのは困難です。それは、200 年以上前に三河国を出て、あきたに長く逗留し、東北を歩き続けた菅江真澄の偉業を丁寧に残してきたこの地の人々にとって、受け入れやすい価値観ではないでしょうか。

また、この展覧会であきたの文化を完璧に網羅することは不可能で、穴はあってもよいと考えています。むしろ、大きくひろげた不完全な風呂敷の穴を、これから知恵や技術をもつ多くの人に繕い補完していっていただきたいと思っています。穴から新たな芽が芽吹くなら、それもよいでしょう。

そしてなによりも、本展覧会は多様な参加により成立するプラットフォームとなることを目指し、会期を2つに分けて公開します。第一期はオープンスタジオ期間の「つくる」。アーティストや職人、研究者などの専門家を中心としつつも、この地域に暮らす多彩な人々と一緒に、生活・産業、食、工芸、美術、舞台という5つの要素について、調査・研究と創作活動を展開しました。

そして第二期は展示期間の「みせる」。「つくる」の成果を、展覧会を軸に、公演やイベントなども交えて日々変化する動きのある場として公開します。過去のかけらをたぐり歴史の網目を垣間見、未来をつかむべく創造行為を展開することで、あきたの文化をたがやす活動を継承していきます。

生活・産業
あきたのこれまでの200年を振り返り、これからの200年を展望する「あきた400年リサーチセンター」のリサーチ成果を発表するとともに、作家・内田聖良氏による「水山これくしょん」、「余白書店」を展開。

「あきた400年リサーチセンター」
いつの間にかなくなった、歴史として認識されないような何気ないものをセンター長・尾花賢一氏が中心となってリサーチし集積・展示する。その中にこれからの200年を生き抜くヒントが隠されているかも。


個人が持つ味とその思い出を広くシェアすることで未来に食文化をつないでいくことを目指し、「あの人のレシピをつなぐ」をテーマとして収集したレシピを、展示、ワークショップ等のさまざまな形で公開。

「あの人のレシピをつなぐ」
あの日、あの人から教わったレシピは、時間の経過とともに家庭の味となり、暮らしの一部となっていく。そんな大切な味を募集・取材し、未来の誰かとシェアするプロジェクト。会場内では、映像や写真等の展示とともに、実際に集めたレシピを持ち帰ることができるレシピ・マーケットも用意。

会期中には、レシピの実演ワークショップなども開催。

舞台
あきたの民俗芸能や昔話についてのリサーチ、あきたに関わる方々から集めた言葉をもとに演劇公演「soda city funk」を、あきたに暮らす方々を出演者に迎え、8月中旬から上演する。

舞台「soda city funk」(作・演出 児玉絵梨奈)
2021年1月より秋田県内各所で実施した祭や民俗芸能に関するリサーチや、アンケート、ワークショップの成果を演劇作品「soda city funk」としてまとめ、秋田に暮らす方々を出演者に迎えて上演。

工芸
あきたの伝統的工芸品に焦点をあて、製造過程や素材、技術などをあきたに暮らす方々から集めた工芸品にまつわるエピソードなどとともに紹介。さらに押入れに眠る工芸品を募集・展示し、未来の使い手を探すオーディションを開催。

「秋田の伝統的工芸品にまつわるエピソード」
世代を超えて長く使い続けることができる伝統的工芸品。手にとって刻まれた傷や経年変化した姿に目をやると、自身の記憶や思い出が想起される。本プロジェクトでは伝統的工芸品にまつわる記憶や思い出をエピソードとして募集・紹介し、伝統的工芸品の魅力を再発見する端緒を開く。

「押入れに眠る秋田の伝統的工芸品」
家庭の押入れに眠る使われなくなった伝統的工芸品。これらを会期中に募集し、未来の使い手につなぐオーディションを開催。

「森から暮らしへ 〜つかう みがく つなぐ おもいで〜」
森から切り出された木に職人の技が加わって、長年暮らしの中に息づいてきた伝統的工芸品。「暮らし」「記憶」「経年変化」などの観点から、あらためて秋田の伝統的工芸品について材料や製造工程の物語とともに紹介し、未来の使い手との幸せな関係の発見を目指す。

美術
「記述し伝える運動」を主題に、アーティスト等の表現の専門家に加えあきたに暮らす様々な生活者とともに築いてきた8つのプロジェクトを発表。

「生活と表現の広場」
「200年をたがやす」の主題やキーワード(あきたで表現しサバイブする/農の運動と表現/記述とアーカイブ)を掘り下げるトークやインタビュー、若手作家による滞在制作を実施し、その記録を映像やテキストとしてまとめて公開。

ココラボ アーカイブ プロジェクト「ココラブ」
2005年に笹尾千草氏と後藤仁氏が秋田市大町にオープンしたアートスペース・ココラボラトリー。15年にわたるココラボの活動を振り返り、膨大な資料を市民有志とともに整理しアーカイブを構築する。

「プロジェクトの研究会」
公募で選出された9名の市民研究員と文化創造館館長(藤浩志氏)とコーディネーターが、まちで展開するプロジェクトの研究に取組む。プロジェクトを場所や時代を超えて再現できる「スコア」に編集・記録することで、プロジェクトを一過性ではなく、永続するアーカイブとして保存する。

秋田市「文化創造プロジェクト」
展覧会「200年をたがやす」は、秋田市「文化創造プロジェクト」の一環として開催。「文化創造プロジェクト」は、市民によるさまざまな活動や、人と人とのつながりを創出するなど、文化を切り口に将来のまちづくりを見据えたソフト事業やネットワークづくりなどに継続的に取組む秋田市による事業の総称。

秋田市文化創造館
2013年に閉館した旧秋田県立美術館をリノベーションし、3月21日にオープンした新しい文化施設。秋田に暮らす人のために、自分らしい表現を探す人のために、新しい活動を生みだす拠点。多様な文化活動との出会いの場を提供するとともに、自ら創作活動を行う方、新たな活動をはじめようとする方々を応援している。

展覧会「200年をたがやす/Cultivating Successive Wisdoms」
開催期間|2021年7月1日(木)〜9月26日(日)
会場|秋田市文化創造館ほか(秋田市千秋明徳町3-16
※火曜日を除く9:00~21:00開館(サテライト会場は9:00〜19:00)
※サテライト会場:Newテラス広小路(秋田市千秋明徳町1-56)
入場料|入場無料、一部イベントは要予約
https://200years-akita.jp/

秋田のオススメ記事

関連するテーマの人気記事