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「奥大和」のはじまりと、これから。
はじまりの奈良

2021.5.31
「奥大和」のはじまりと、これから。<br><small>はじまりの奈良</small>
奥大和・曽爾村曽爾高原から眼下を望む風景。奥大和とは、奈良県の東部と南部の19市町村。豊かな自然や農作物などが豊富な地域

初代神武天皇が宮を造られ、日本建国の地とされている奈良県。連載《はじまりの奈良》では、日本のはじまりとも言える奈良にゆかりのものや日本文化について、その専門家に話を聞いてきました。最終回となる今回は、奈良県南部の「奥大和」エリアをスタートさせ、長年にわたってブランディングを手掛けてきた福野博昭さんにお話を伺います。

教えてくれたのは……
福野博昭(ふくの・ひろあき)さん
1960年、奈良県生まれ。奈良県職員として、「ならの魅力創造課」など各部署で奈良の活性化に取り組み、特に「奥大和」に熱い情熱を傾ける。2021年、初の著書を刊行予定

魅力ある「奥大和」を舞台に
スーパー公務員が紡いだ“人の動き”

2021年3月末、42年間勤めた奈良県庁を退官した、知事公室次長の福野博昭さん。さまざまな事業を手掛けてきたが、特にこの10年以上は奈良県南部・東部にあたる「奥大和」エリアを盛り上げるため、奔走してきた。

この「奥大和」というネーミングの考案者が、ほかならぬ福野さんだ。豊かな自然や温かい人々に魅せられた福野さんは、人口減少が特に進む19市町村のブランディングを狙って考案したという。

農家民宿や宿泊施設、レストラン、農業高校の立ち上げのきっかけをつくったり、奈良の金峯山寺と和歌山の金剛峯寺を結ぶトレイルランニング「Kobo Trail 〜弘法大師の道〜」などのイベントを多数仕掛けたり、看護師が医療施設ではなく地域で活動するコミュニティナース事業を導入したりと、あらゆる分野で種をまき、その芽が育つよう見守ってきた。本人は謙遜するが、業績から「スーパー公務員」と称されることも多い。

「オフィスキャンプ東吉野」の坂本大祐さん(左)と福野さん(右)

中でも注目された事業のひとつが、東吉野村に2015年にオープンさせたコワーキングスペース「オフィスキャンプ東吉野」。設立のきっかけは、東吉野村に移住したデザイナー・坂本大祐さんとの出会いだったという。

「小さな村に、大ちゃん(坂本さん)を含めてデザイナーが二人移住していて、『めっちゃオモロイやん、デザイナーズヴィレッジや!』と盛り上がったんです。そのために何が必要かと考えて、コワーキングスペースじゃないかと村に提案し、空き家を改修するなど、プロデュースさせていただきました」

催事で販売された椅子。奥大和には良質な木材を使って家具などをつくる木工作家が多い

オープン以来、全国からクリエイターや地方への移住希望者が延べ約8000人訪れ、これまでに13組26名が移住している(2021年4月現在)。同時期から「関係人口」という単語が普及し、それを象徴するような拠点にもなった。福野さんは移住のみならず、人の動きをつくり出すことが得意なのだ。

小誌でたびたび紹介した、奈良市で毎年3月に開催されているイベント「奥大和フェス」の仕掛け人も、福野さんだ。奥大和で活動する企業、店舗、農家、クリエイターなどが出店・出展し、毎年賑わいをつくり出している。

県内への周知だけでなく、県外・国外へのアピールも忘れない。奥大和でつくられた家具や雑貨を、大阪の百貨店やシンガポールの百貨店で販売した。大きな家具ほど売れ行きがよく、福野さんも作家も手応えを感じたという。

福野さんが携わった「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」の会場

2020年10月には、コロナ禍でもできることはないかと、野外でアートを楽しむ芸術祭「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」を実施。全国各地のイベントが開催中止や延期になる中で注目され、約130のメディアで取り上げられた。

福野さんによってはじまった「奥大和」。各事業は後任者に引き継がれたが、彼は退官後のいまもこの地域にかかわり続けている。

「まだまだやってみたいことがたくさんあって(笑)。これからも奥大和にかかわっていきたい」と語る。

2021年の「奥大和フェス」は、新型コロナウイルス流行のためオンライン開催に。福野さんと小誌の高橋編集長、雑誌『ソトコト』の指出一正編集長が奥大和にまつわるトークセッションを行った

cooperation: Masayuki Miura text: Yoshino Kokubo photo: Kiyoshi Nishioka, Yuta Togo
Discover Japan 2021年6月号「うまいビールとアウトドア。」


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