TRADITION

仇討ち計画に落とし穴が!
「仮名手本忠臣蔵/七段目」大星由良之助
おくだ健太郎の歌舞伎キャラクター名鑑

2021.1.7
仇討ち計画に落とし穴が!<br>「仮名手本忠臣蔵/七段目」大星由良之助<br><small>おくだ健太郎の歌舞伎キャラクター名鑑</small>
塩冶浪士を束ねる大星由良之助は、毎晩のように色街で遊び呆けているが…

名作歌舞伎を彩る個性豊かなキャラクターを、歌舞伎ソムリエのおくだ健太郎さんが紹介。今回取り上げるのは、「仮名手本忠臣蔵/七段目」に登場する大星由良之助です。

おくだ健太郎
歌舞伎ソムリエ。著書『歌舞伎鑑賞ガイド』(小学館)、『中村吉右衛門の歌舞伎ワールド』(小学館)ほか、TVなどで活躍。http://okken.jp

前々回、前回、そして今回と続く忠臣蔵のドラマ。草深い山崎の里の実家から一転、お軽は、華やかな京都の色街・祇園の女になりました。今宵も一力茶屋でつとめに出ています。朱塗りの壁でお馴染みの名店です。

この一力には、仇討ちを目指す塩冶浪士たちを束ねる、大星由良之助も、遊び客として入り浸っています。主君・塩冶判官の切腹のとき、判官の国元から駆けつけ、最期に立ち会った由良之助。その際、「仇を討ってくれ……」と遺言も託されています。

何があっても、亡き主君の願いを、達成しなくてはいけない……。しかし、もし仇討ちの計画を敵側に見抜かれたら、すべては水の泡となってしまいます。ほんのわずかな情報でも、世間に漏れたら大変です。

そこで由良之助は、毎晩のように色街で遊び呆けて、仇討ちのことなんか、もうすっかり忘れてしまった、諦めてしまった、と人々に思い込ませているのです。その上でひそかに仇討ちのための情報収集も抜かりなく進めています。由良之助の息子・大星力弥が密書を届けに来ますが、受け取ったその巻き手紙に、うれしい恋文でも読むような色っぽい雰囲気で、目を通す由良之助。遊び客へのなりすまし、徹底していますねぇ。

ところが……ここまで慎重に振る舞っていても、思わぬ落とし穴! 座敷の縁の下に隠れている、仇側のスパイ・九太夫という悪賢い男(しかも彼は、元は塩冶の家老なのに、敵の一味へと寝返った裏切り者なのです)が、由良之助が読み進めるにつれて下に垂れてくる手紙を、まんまと盗み読んでいます。

華やかな京都の色街・祇園の女になったお軽

そして……まったく同時進行で、お軽もこの手紙を、こっそり読んでいるのです。ただし彼女には、九太夫のような邪悪な意図はありません。一力茶屋の2階の窓辺で、夜風で酔いを覚ましながら、「勘平さん、どうしているかなぁ……」と思いにふけっていて、ふと下を見たら由良さんがうれしそうに手紙を読んでいた。「どなたからの恋文かしら?   見ちゃおうかしら……」ちょっと癪に触って、いたずら心がわいたのです。

手紙の中身を鏡に映して、夢中で読んでいくお軽。が、身体がのけぞり過ぎて、髪のかんざしが抜け落ちてしまいます。その物音に「ハッ!」と気がついた由良之助が、後ろ手に手紙を隠した拍子に、巻き手紙の端の部分がビリッと破れて、縁の下の九太夫の手元に残ってしまった……!

色街の夜に展開するスリル満点の名場面です。

text=Kentaro Okuda illustration=Akane Uritani
2020年10月号 特集『新しい日本の旅スタイルはじまる。』


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