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山口県の“うまい”を堪能する旅。
第2回|焼きとり

2020.11.9 PR
山口県の“うまい”を堪能する旅。<br>第2回|焼きとり

山口県長門市、長門湯本の街づくりに端を発し、県全体の魅力のとりこになった編集部。今回から4回連載で掘り下げるテーマは、旅の醍醐味「食」。第2回は長門市の名物、焼きとりを取り上げながら、美味の理由が垣間見られる養鶏にもスポットを当てます。長門市の焼きとりが絶品といわれる理由、歴史には理由がありました。

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長門市は、人口1万人当たりのやきとり店の数が全国トップクラスの「やきとりの町」だ。では、なぜこんなに焼きとり店が多いのだろうか?

実は、その背景には「水産業」がある。
日本海にひらけた長門市は、古くから豊かな漁場に恵まれ、漁業が主要産業だった。また、水揚げされた新鮮な魚を使った仙崎蒲鉾などの水産加工品の生産も盛んに行われてきた。そして、この水産加工の際に出る魚のアラを鶏のエサとし、新鮮なエサが安価で潤沢に手に入る環境により養鶏業を営む農家も発展してきたのだ。
また長門市には、全国的にも珍しい養鶏専門の農協「深川養鶏農業協同組合」があり、ここでさばいた新鮮な鶏肉が、いち早く市内に流通できることから、多くの焼きとり店が店を構える。ちなみに、一部の焼きとり屋の開店時間が14時~と早いのは、早朝から海に出る漁師たちの生活リズムに合わせているから、といわれる。

漁業が水産加工業を生み、養鶏業を発展させ、焼き鳥が“ソウルフード”となる――。長門市の風土が育んだ、循環型経済の端緒といえるかもしれない。

“老舗やきとり店”の名にふさわしい、絶品の串を味わい尽くす

深川養鶏から毎朝仕入れる新鮮な長州どりを丁寧に下処理し、手際よく焼いていく大深恵子さん。炭焼台は特注でオーダーしたものだとか

多数のやきとり店がひしめく長門市内において、「焼とり こうもり」はいわば“聖地”と呼ぶべき存在であろう。創業は戦後間もない1948年。初代女将の井口富美さんが立ち上げた、長門やきとりの1号店である。

現在、店に立つのは3代目の大深勝和さんと妻の恵子さん。繊維にそって切る肉のさばき方、末広がりにした串打ち、炭の組み方、焼き具合、塩加減など、美味しさを引き出す技術のすべては、初代から受け継がれてきたもの。朝〆された長州どりを届いてすぐに下処理し、14時の開店に間に合わせる。仕事を終えたばかりの漁師が立ち寄れるよう、暖簾を掲げる時間はずっと変わらない。

絶妙なバランスの上に成り立つ上品な味わいは、伝統と技の賜物なのだろう。「かしわ」はジューシーで旨味が強く、身の付いた「かわ」はしっとりした食感でほどよく脂がのっており、「とりまめ」と呼ぶハツはプリッとした弾力で濃厚な風味をもつ。どの串を口に運んでも、「旨い」のひと言が思わずこぼれ落ちる。「箸休めに」と、品書きに「平太郎」(オキヒイラギ)の丸干しが並ぶのは、港町ならではだ。

長門やきとりの特徴といえば、肉と玉ねぎが交互に刺されていること。実は「焼とり こうもり」こそ、このスタイルの発祥の地であると勝和さんはいう。

「富美さんが気付いたんでしょうね。『玉ねぎを挟むと美味しい』って。それがこの街に定着したんです。ガーリックパウダーを置くようになったのも、うちが最初だと思いますよ。発売当初、漁師のお客さんが『俺のもち込みにして』と、店に置いていったそうなんですね。こっちの漁師さんって新しいもの好きだから(笑)。そこから漁師さんの間で流行ったのが、きっかけなんじゃないかな」

開店直後からカウンターのみの店内は地元客で大いに賑わう。その中心にはいつも、勝和さんと恵子さんの屈託のない笑顔がある。

「美味しいやきとりと酒とともに、楽しい時間を過ごしていただけたら。それが一番です」

 

左から「とりまめ」(140円)、「かしわ」(150円)、「かわ」(150円)、「ぶた」(250円)、「たん」(400円)(金額はすべて税抜き)皿に添えられた柚子胡椒を付けても、また美味
湯通しした砂肝を酢醤油でいただく「すなさし」(450円・税抜き)。新鮮な鶏肉だからこそ臭みもなく、コリコリした食感で酒のつまみに最適。やきとり以外のメニューも多数揃う
店があるのはJR長門市駅のすぐ近く。予約は受け付けておらず、客がひっきりなしに訪れる人気店のため、日が暮れる前に訪れるのが吉
店主の大深勝和さんが、軽快なトークと明るい笑顔で温かく出迎えてくれる

焼とり こうもり
住所|山口県長門市東深川911
Tel|083-722-0617
営業時間|14:00〜21:00
定休日|火曜

女性ならではの視点で
誰もが入りやすい「やきとり店」に

「手で触った時に張りがあって、肌質がよいものがおいしい鶏肉の基準です」と、串打ちをしながら教えてくれるオーナーの青村雅子さん

古くから養鶏業が盛んな長門市は、今でこそ「やきとり日本一のまち」として打ち出し、誰もが気軽に店で焼きとりを頬張ることができるが、30年前はちょっと事情が違ったようだ。

「焼きとりといえばいわゆる“赤提灯”のイメージで、私が20代で焼きとり屋をやりたいと言ったら周囲は大反対でした」と笑いながら話すのは、「焼とりや ちくぜん総本店」オーナーの青村雅子さん。「それなら逆に、女性や家族連れ、お酒を飲まない人でも入りやすいお店をつくろうと思いました」と振り返る。

同級生の新本真由美さんをはじめ、「ちくぜん」のスタッフは全員女性。メニューは、焼きとりはもちろん、子どもも高齢者も一緒に食事を楽しめるように、創作串や一品料理を豊富に揃える。また座敷が中心の店内には、乳児を寝かせられるようテーブル配置に心を配った個室もある。

1990年にオープンした第一号店を皮切りに、現在は、ちくぜん総本店、センザキッチン店の3店を構えるほか、居酒屋、パン屋、食堂など10店舗以上の飲食店で経営やコンサルティングの腕を奮っている。

「長門の焼きとりのおいしさの秘密は、生産者と飲食店の距離の近さにあります」と青村さんは言う。朝に絞めた鶏を午後には串に刺し客に提供することができ、その感想も生産者にフィードバックできる。飛びっきり新鮮なため、肝が苦手という客も「長門の鶏肝なら食べられる」というほどだ。

青村さんにすすめられ、長門市内でも食べられる店が限られるという希少な高級地鶏「長州黒かしわ」の「もも」をいただいた。肥育期間が長いため肉質が固くなりやすい地鶏のわりに、歯ざわりはむっちりとやわらかく、程よい弾力が心地いい。何よりも旨味が素晴らしく、噛むほどにコクのある味わいが口いっぱいに広がった。

青村さんは「いま、焼きとりを焼く炭も“長門産”にできないかと、仲間達と研究を進めています。手に届くところに、新鮮で魅力いっぱいの海の幸・山の幸がある。長門は暮らしに適したサイズのまちなんです」と笑顔で話した。

 

ちくぜん総本店の店長を務める新本真由美さんは、青村さんの30年来の事業パートナーだ
希少な山口県産オリジナル地鶏「長州黒かしわ」。上から「手羽元」(300円)、「もも」(250円)
「長州どり」は飼料にハーブを混ぜて育てるため風味がいい。上から「肝」(110円)、「砂ずり」(110円)、「とり皮」(110円)
長門の食材と調味料にこだわった「ながとりめん(ハーフ)」(430円)は、長門市役所職員有志が集まって開発した一品
カウンター席のほか、広々とした座敷や落ちつきのある個室があり、家族連れや女性だけも入りやすい

ちくぜん総本店
住所|山口県長門市東深川駅前892-1 金の鈴2階
Tel|0837-22-0735
営業時間|17:00〜22:00
定休日|日曜

安定した生産性と安心・安全を両立。
ハーブで風味よく、深みのある肉質に

山口県長門市近郊の海と山に囲まれた地域で生産される「長州どり」。安心して食べられる鶏肉を目指して、一貫した生産体制がとられている

“やきとりの町”として認知度をあげている長門市を象徴するのが、全国でも珍しい肉用鶏専門の農協「深川養鶏農業協同組合(深川養鶏)」の存在だろう。

深川養鶏は戦前に、鶏卵生産農家が集まって立ち上げ、戦後の食糧難の時期に動物性タンパク質の供給を目的に、鶏肉生産をスタート。現在は、種鶏の育成からヒナのふ化や販売、鶏肉の製造・加工・販売まで一貫して取り組んでいる。「長州どり」とは、深川養鶏が独自に基準を定め生産している銘柄鶏のことだ。

「安心安全な鶏肉にするために、エサには抗生物質や合成抗菌剤を一切使いません」と教えてくれたのは、こっこ株式会社代表取締役の末永光佳さん。ブロイラー生産農家からスタートした末永農園の4代目で、現在、30棟の鶏舎で「長州どり」約110万羽を飼育している。

末永さんは「福岡の飲食店から『長州どりは鶏特有の臭みがなく味が濃い』と評価してもらっています」とにっこり。その秘訣はエサにブレンドするタイム、セージ、ローズマリーなどのハーブ。ヒナから成鳥まで全期間を通して与えることで、肉の風味がよくなり、健康的な鶏を育てるのにも役立つという。

「生き物ですから、可能な限り鶏舎に足を運ぶようにしています。鶏は暑いと口を開け、寒いとしゅんと縮こまります。特に夜温が重要なので、鶏たちの状態を見て暑さ寒さを調節しています」と末永さんは話す。

また、出荷した自分の鶏が深川養鶏を経て販売されると、購入して味を確かめ、食べ方の研究も。「日本人にはモモ肉が人気ですが、長州どりのムネ肉を炭火で焼くとジューシーで美味しいんです」と笑顔で提案する。

高齢化や後継者不足で養鶏業をやめる生産者もいるが、末永さんは「長門の養鶏文化を残していきたいですし、鶏に限らず長門の食を盛り上げたい。そのために長門のアンテナショップとなるような飲食店を開くのが目標です。長門の“食のハブ”となる会社にしていきたい」と目を輝かせた。

 

小学生から家業の養鶏の手伝いをしていたという、こっこ株式会社代表取締役の末永光佳さん
ストレスを極力与えないよう、鶏舎で放し飼いにする「平飼い」で飼育
こっこ株式会社は、近隣で廃業する養鶏農家の鶏舎を引き継ぐ形で拡大してきた

こっこ株式会社
住所|山口県長門市西深川2625
Tel|0837-22-3378
https://cocco-nagato.com/

のびのび、じっくり育てるから美味しい。
天然記念物の血統を継ぐ山口県初の地鶏

国指定天然記念物の「黒柏鶏」をベースに約20年の歳月をかけて改良された「長州黒かしわ」。2013年に「やまぐちブランド」に登録された

緑紫黒色の羽に凛々しい顔が印象的な地鶏「長州黒かしわ」は、古来より山口県で飼育されてきた「黒柏鶏」をベースに、県が約15年の歳月をかけて改良したオリジナルの品種だ。神話の世界で、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が隠れた天の岩戸の前で八百万の神が鳴かせた「常世の長鳴鶏(ながなきどり)」が黒柏鶏といわれ、国の天然記念物にも指定されている。

天然記念物の系譜を食べる!? と驚くが、飼育密度が1㎡あたり10羽以下とのびのびとした環境で、一般的なブロイラーの飼育期間の約2倍の80日以上をかけて育てた「長州黒かしわ」は、適度な歯ごたえとコクのある旨味で、一度食べると忘れられない美味しさだ。

「エサはベースの配合飼料に、長門や近隣地域で育てた飼料米や米ぬか、麦、大豆などを独自に配合しています。エサの設計が肉質を決めるのでとても重要です」と解説するのは、約10年前から長州黒かしわの飼育に取り組んでいる、長門アグリスト代表取締役の末永裕治さん。現在、年間約3万3千羽の出荷量のうち約半分を生産する。

末永さんに「長州黒かしわ」の美味しさの秘密を尋ねると、「よく運動しているため脂肪含量が少なく、旨味成分のイノシン酸が多いからです」と教えてくれた。さらに、疲労回復を助ける機能性成分イミダペプチドや、肝臓機能の修復を助けるタウリンの含有量も多いことがわかっているそうだ。

防疫用の作業服を着こみ案内してもらった専用の鶏舎「扇舎(ファンファーム)」では、生育期間別に分けて生育されている鶏たちが、元気に走りまわったり、自由にエサをついばんだりしていた。末永さんは「扇形の建物にすることで、管理スペースから全体が見渡せ、発育状態が管理しやすい上に、十分な運動スペースを確保することができました」と胸を張る。

飼育数が少なく、高価な「長州黒かしわ」を取り扱う店舗はそう多くないのが課題の一つ。末永さんは言う。「今後は地元産飼料の比率を上げることで価格を抑え、もっと県内の人に食べてもらいたいと考えています。この美味しさを山口の自慢に思ってもらいたいです」

長州黒かしわ振興協議会事務局も務める末永裕治さん。養鶏事業を起点に堆肥事業やそれを使った野菜づくり、加工事業など循環型農業に取り組む
エサには長門や近隣地域で育てた飼料米や米ぬか、麦、大豆などの穀物と配合飼料をブレンド
鶏の状態を把握しやすい、扇の形に配置された鶏舎は、安定した出荷体制と環境負荷の低減を両立する

農業生産法人(有)長門アグリスト
住所|山口県長門市西深川2608-2
Tel|0837-22-4671
https://www.nagato-agrist.com/

 

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text=Tomoko Honma、Nao Oomori photo=Ryusuke Honda


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