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じわじわと広がるボリュームのある旨み
美吉野醸造「花巴 山廃純米 原酒2019BY」

2020.9.9
<small>じわじわと広がるボリュームのある旨み</small><br>美吉野醸造「花巴 山廃純米 原酒2019BY」

酷暑が続きますが暦の上では秋。日本酒には、季節によってそれぞれの楽しみ方があり、秋の到来を告げる「ひやおろし」という旬の酒がある。そこで、いち早くニッポンの秋を満喫するために、「ひやおろし」を紹介。秋の味覚とともにお愉しみください。

そもそもひやおろしとは?

秋の足音が近づくと、酒蔵がこぞって発売するのが「ひやおろし」という日本酒だ。ひやおろしとは、冬に仕込んだ酒に火入れという保存性を高める加熱殺菌を施し、そのまま秋まで熟成させて冷や(常温)のままタンクからおろして瓶詰めされた酒のことである。通常、火入れは酒を搾った後と、瓶詰め前あるいは瓶詰め後の二度行うが、ひやおろしは最初の一度だけに限定するため、「生詰め」に分類される。(最後だけ火入れをした酒は生貯蔵酒と呼ぶ)

しかし近年は、酒蔵の設備が向上したために、火入れをした後に常温ではなく冷蔵庫で熟成するなど、前述のひやおろしの定義に当てはまらない酒も多く、それぞれの酒蔵が考える秋の酒を、ひとくくりにしてひやおろし、あるいは「秋あがり」と名づけることが一般的になっている。また、ここ数年はファッションを先取りするように、まだ暑さ厳しい8月辺りからひやおろしを発売する蔵もあり、秋を象徴する日本酒として各蔵の商戦が目立ってきている。

いずれにせよ、ひやおろしは、しぼりたての酒をじっくり熟成させるので新酒に比べると円熟味があり、まろやかで落ち着いた味わいなのが特徴。どちらかというと常温や燗に向くような酒質が多く、秋刀魚やキノコなどを使った料理など秋の味覚とすばらしく合う。秋の夜長に、ゆっくりちびちびと飲むことをおすすめしたい。

奈良・吉野
美吉野醸造「花巴 山廃純米 原酒2019BY」

他の日本酒にはない、個性的な酸味でコアな日本酒ファンの心を掴む「花巴(はなともえ)」は、山深い吉野に酒蔵がある。多湿の土地柄、もともと発酵が旺盛になりやすく、明治45年の創業から酸が特徴的な日本酒を造ってきた。嗜好の変化とともに一時は酸が敬遠される時代があったが、現蔵元は酒の酸を抑えるのではなく、酸を解放する酒造りに挑戦。酸の味を形成する成分の一つである乳酸を、伝統的な山廃酛や生酛、水酛などで造り、2017年からはすべての酒を蔵付きの天然酵母で醸すという古典的な方法で、創業よりさらに進化した酸を強調する数々の酒を造っている。

秋口に限定発売される、山廃酛で造った酒をじっくり寝かせたこの酒は、しっかりした旨味に負けない深みのある酸が特徴で、熟成感のあるまろやかさも兼ね備える。特に肉料理とは相性が良く、酒の酸が肉の脂を程よく洗って後口を軽快にする。常温よりも熱めの燗酒がおすすめで、肉とともにいただくと、肉の旨みと脂が酒の熱で溶けて、口の中が豊かな味で満たされる。他にも生ハムやチーズなど、動物性の素材と合わせると酒がさらに旨くなる。

価格|1650円(720㎖)
原料米|奈良県産契
約栽培酒米100%
精米歩合|70%
日本酒度|+7
酸度|非公開
アルコール度|18度
 

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text: Kiyoko Yamauchi photo: Kazuya Hayashi
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