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郡司製陶所の「自由なうつわ」
高橋みどりの食卓の匂い

2021.1.22
郡司製陶所の「自由なうつわ」<br><small>高橋みどりの食卓の匂い</small>

スタイリストであり、いち生活者でもある高橋みどりがうつわを通して感じる「食」のこと。五感を敏感に、どんな小さな美味しさ、楽しさも逃さない毎日の食卓を、その空気感とともに伝えます。

高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。近著に『おいしい時間』(アノニマ・スタジオ)など

数年前にはじめて郡司さんのシンプルなうつわに出合いました。その抑えたまでの、何でもない(なのに魅力的な)ものをつくるのは、なぜだろうと妙に気になりました。そして次の展覧会で目にしたのは、いつもの郡司さん風のうつわに、おおらかな彫りや絵付が施されたもの。DMには郡司庸久、慶子とありました。

我が家の日々の食卓は、和洋新旧のうつわの合わせ加減で成り立っています。同じ類のものだけでは平坦でつまらない。アンティークのものの中に、まだ時代を重ねていないものを入れると軽やかな風が抜ける。どっしりとした民芸の片口にあえてサラダを盛れば目先が変わる。存在感のあるうつわや時代をまとったものには、どこか飄々としたものを合わせたくなる。そう、そんな存在がまさに郡司さんの無地のうつわ。ことにそれを強く感じたのは型物のオーバルのお皿でした。オーバルの皿は、本来日本のうつわにはなかった形状。それが現代の私たちの生活に重宝するかたちとして広まってきました。

さまざまな作風の楕円皿が出回っている中で潔く手跡のないオーバル皿があり、それが郡司さんのものでした。色は温かみのある白、益子の伝統釉のひとつという糠白釉。サイズ感はヨーロッパのものを元にしたのだろうと思われるけれど、それをねじ曲げもしていないストレートさが気持ちよかった。よりによって型物の皿を褒めるなんてと笑われそうですが、この心地いい具合をつくるのも才能だと思います。ヨーロッパのそれとは異なり、質感、厚さ具合、色の加減といい和洋どちらにでも無理なく寄り添ううつわとして使い勝手がとてもいい。

色は糠白釉の白色のほか、飴釉の茶色、そして黒釉。この3色の釉薬はいまでは郡司さんのうつわといえば思い浮かぶ代表的な色目でもあります。後にその3色のボウルを手に入れましたが、こちらもいわゆるカフェオレボウルくらいのサイズ、フォルムですが、高台のないかたちとサイドのゆるやかなカーブが、手にも、目にも優しく馴染みます。カフェオレやスープばかりでなく、和え物、サラダ、ともすれば小丼風にも使える。何風という匂いのない郡司流のうつわは、いかようにでもお使いくださいと語りかける。妙に気になっていた郡司さんのモノづくりについて、ようやくおうかがいする機会がきたようです。

モノづくりの発想は慶子さんのひらめきからが多い。「僕はつくるのが好きなんです」と。ひらめきを受けてかたちにしてゆく。それをパート分けにするでもなく、赴くままに共同でのモノづくりとなる。個性を出すとか作家としての顔をもつということが重要ではない二人にとって、つくりたいものを自由なかたちでつくる。それを二人でやってもいいじゃないかと恩師に言われたことはとても大きい。個性とは勝手に出てくるものだからと。いまは亡き師、益子の「スターネット」を立ち上げた馬場浩史氏からの影響はモノづくりだけではなく、生き方そのものにも受けたという。

この二人から生まれるものは、これからもきっと自由な風をまとったものに違いない。

栃木県益子町で作陶をする郡司庸久・慶子さんのカフェオレボウル(価格:2750円、サイズ:φ125×80㎜)。それぞれの色に合わせて、糠白釉にクラムチャウダー、飴釉にカボチャ、黒釉にはブロッコリーのポタージュを。カフェオレボウルに限らず、朝昼晩とさまざまな用途で使う。

tamiser kuroiso
※通信販売なし

text&styling : Midori Takahashi photo : Atsushi Kondo
2021年2月号 特集「最先端のホテルへ


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