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「開花亭」越前がにを求めて福井へ
犬養裕美子の新・レストラン名鑑

2019.12.25
「開花亭」越前がにを求めて福井へ<br>犬養裕美子の新・レストラン名鑑
若狭焼きと塩焼き。茹でるのと同様に、カニそのものの香りとは違う、香ばしさが食欲をさらにアップさせる。塩焼きはふっくらしたら焼き上がり。焼き過ぎに注意

どんな小さな店でも、どんな辺鄙な場所でも、「ホンモノ」であれば、必ず人は引き寄せられる。レストランジャーナリスト・犬養裕美子さんの《新・ニッポンのレストラン名鑑》。第2回は福井の老舗料亭「開花亭」を紹介する。

いぬかい・ゆみこ
東京を中心に世界のレストラン事情を最前線で取材する。新しい店はもちろん、実力派シェフたちの世界での活躍もレポート。また、日本国内各地にアンテナを張り、料理や食文化を取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員。

カニは福井で
それがカニ好きの私の結論

越前がに。「越前がに」とは福井県産のズワイガニのこと。毎年11月6日に解禁となり翌3月20日までが漁期。加能ガニ(石川)、松葉がに(鳥取・島根)など各地で呼び名こそ違うが同じ品種。どこも「うちが1番!」と胸を張る

11月6日、毎年この日を迎えると気持ちがザワザワする。日本海側のズワイガニ漁がいっせいに解禁になるからだ。松葉がに、越前がに、加能ガニなど、どれもご当地の名前がついているが種類はいずれもズワイガニ。どこで食べてもそれぞれ美味しい。

しかし私は5年ほど前から「カニは福井で食べてほしい」というほどに福井のカニファンになった。そのきっかけは老舗料亭「開花亭」5代目・開発毅さんのひと言だった。「越前がには東京でも食べられる。でも、福井でしか食べられないカニがあるんです」。

三国港の夕ゼリ
福井県の北部沿岸に位置する三国港では全国でも珍しい「夕ゼリ」が行われる。深夜に漁に出て、昼過ぎに帰港。セリがはじまるのは18時。舞台のような板張りのセリ場でセリ人がひと箱ずつセリにかけていく。買い手は指を使って買いたい値段を表示。テンポよく金額が上がり、一番高値をつけた人が落札。ひと箱に早くて10秒、かかっても30秒ほどのスピードだ。すべてのセリが終了すると皆大急ぎで店へと軽トラを走らせる。

越前がには10回以上脱皮を繰り返し一人前になるが、脱皮したての若い「水がに」というのがある。漁期は2月下旬〜1カ月間のみ。しかも安価なので福井の家庭ではこの時期、子どもから大人まで山ほど水がにを食べるという。

なんと!そんな秘密のカニがあったとは!「決して隠しているわけじゃありません。とてもデリケートで活けのまま運べないから県内でしか食べられないのです」。

その場で「水がに」の予約を入れた。そして2月下旬、水がに初体験。まことに清らか、みずみずしく、甘い。越前がにもいただいたがその堂々としたカニっぷりもまた魅力。カニは福井に限る!

正しい料理法は?
料理人泣かせの越前がに

セロリのお浸しと背甲蟹外子
「セイコガニソトコ」と読む。せいこがには雌で資源保護のため、漁期は12月末まで。ソトコ=外子は外側にある受精卵。ちなみに内子は子宮

福井では昔から「蟹見十年、蟹炊き一生」といわれてきた。満足に見立てられるようになるには10年かかるが、きちんと炊く(茹でる)には一生かかる、という意味。カニ炊きは料理人が一生かけて修業し続けるものという戒めである。
「開花亭」でも茹ではベテランが担当する。竹内直也料理長にうかがえば、「越前がには食事の前に、活けの状態でお見せして、それから調理をはじめます。生きたカニを〆るのに15分、茹で時間は25分前後。その間にほかの料理を楽しんでいただき、座が盛り上がった頃に、湯気を上げた茹でたてをお持ちします。そのタイミングだからこそ最高の状態で味わっていただけるのです」。

寒独活とズワイガニの沢煮
寒独活、ニンジンなど野菜の千切りを卵でとじてある。優しいズワイガニの味が独活の爽やかさとよく合う。コースの中でも個性を感じるカニ料理

ゆでガニが登場すると、座は一気に華やぎ、湯気と香ばしく甘い香りが部屋中に広がる。食べやすくするために包丁が入っているので、コツさえ押さえておけば、身は簡単にほろりと取り出せる。卓上には自家製のカニ酢が用意されているが、最初はやはり何もつけずに味わいたい。

みっちりと詰まった太い脚は、カニというより、もはや肉のような弾力! なのに、味わいは甘く優しい海の香り。やはりこれは、越前がにならではの旨み。

ゆでズワイガニ
本日のメインディッシュ。茹でたてをいただく。カニ酢は三杯酢がベース。昆布を入れるのは海水に近い味にするため。1.4㎏の特大サイズなのでこれで4人分

「越前がにはやはり“茹で”が一番です。ただ、味の頂点を引き出すために、カニ茹での技術は重要。これを福井の財産として共有すべきではないだろうか」と開発さんは考えた。そこで料理店に呼びかけ、各店が協力して、越前がにに関するデータや扱い方を共有しはじめているのだ。

同時に福井は「越前がに」ブランド化のために先手を打ってきた。いまでは当たり前になったカニにつける黄色いタグ、これも全国に先駆け平成9年にスタート。特に大きなサイズには「極(きわみ)」のタグで差別化を図っている。(重さ1・3㎏以上、甲羅幅14・5㎝以上、爪幅3㎝以上)。そして今年はGIマークにも登録。

せいこがに天ぷら
最初に出たせいこがにの外子(ソトコ)と対になっている内子(ウチコ=子宮)を衣で包んで揚げてある。万願寺シシトウを添えて

そんなブランド化に尽力してきた開発さんの願いはひとつ。「福井のカニ食文化を守り、広め、そして後世に残したい」。冬場おなかいっぱいカニを食べて育った福井の子どもたちは、大人になってもその美味しさを思い出すに違いない。そしてそれがどれだけ豊かなことかを実感する。

開花亭(かいかてい)
住所:福井県福井市中央3-9-21
Tel:0776-23-1009
営業時間:11:30〜14:00、17:30〜22:00
定休日:日曜、祝日
料金:昼、夜ともに1万2000円〜
www.kaikatei.biz/

文=犬養裕美子 写真=前田宗晃
2019年2月号 特集「この冬、心ほどける温泉へ」


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