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埼玉県草加市《チャヴィペルト》
有機野菜と都市農業の可能性【前編】
|“ニッポンの美味しいの”いまと未来①

2025.1.20
埼玉県草加市《チャヴィペルト》<br>有機野菜と都市農業の可能性【前編】<br><small>|“ニッポンの美味しいの”いまと未来①</small>

作家・料理家の樋口直哉さんが訪ねる、知っておきたい“ニッポンの美味しい”のいまと未来。美味しいものは、生産者の方々なくしては語れません。作家かつ料理家として活躍し、全国の生産者の元へも足繁く通っている樋口直哉さんに、注目の生産者を訪ねてもらい、日本の食の現状と可能性を、生産の現場からひも解いていく。

今回は、埼玉県草加市にある住宅街で有機野菜を栽培している農園「チャヴィペルト」に足を運んだ。住宅街でも安心な、農薬を使わないオーガニックな農業。採れたて野菜がそばにある、豊かな暮らしをかなえる街づくりにもつながる都市農園の取り組みとは?

文=樋口直哉(ひぐち なおや)
料理家として活躍しながら、作家としての活動も。小説『スープの国のお姫様』(小学館)、『おいしいものには理由がある』(KADOKAWA)など著書多数。『さよならアメリ力』(講談社)では芥川賞候補にも選出。

地域の人に直接、有機野菜を

住宅街にある畑。中心が園主の中山拓郎さん、両脇を固めるのは農園スタッフ。野菜の配達も自前で行うのがルール。つくり手が届けることで、買い手との会話が生まれる

ニッポンの美味しいを考える。その答えのヒントが埼玉県草加市にある「チャヴィペルト」にある。草加駅から歩いて8分。住宅街に絵本の中のような畑が現れる。Google Mapで空から眺めると「こんなところに畑があるの」と驚くかもしれない。風変わりな響きの名前は、英語でおしゃべりを意味する「Chatty」と、フィンランド語で野菜を意味する「Vihannes」に畑の意の「Pelto」を合わせたもの。

有機JAS認証を取得している農園を営むのは中山拓郎さん、かんなさん夫妻。農園では畑を管理するスタッフ、併設された直売所とデリで働くパート従業員など多くの人が働いている。

「代々続く農家に生まれ、私で5代目になります。昔は千住ネギ、その後は小松菜を中心とした農業を営んでいましたが、私は地域の人に直接野菜を売りたかったので、有機に転換、直売所を併設するスタイルになりました」

直売所には農園で収穫された野菜が並び、その野菜を使った総菜も評判。お昼時になると近所の人たちで賑わう。

人々がつながる畑、都市農業の未来

スイスチャード、ちりめんキャベツ、バレンシアリトルレモン……。埼玉県草加市の農園「チャヴィペルト」の、まるで宝箱のような畑から収穫されたばかりの作物

チャヴィペルトのような「市街化区域内農地とその周辺で営まれる農業」を「都市農業」という。昔は住宅地にも畑が残っていたが、いまではすっかり見なくなった。

最初の転換点は1968(昭和43)年。新都市計画法という法律が制定され、都市部の農地は届け出さえすれば転用が可能になった。バブル期に入ると宅地化がさらに進む。1991(平成3)年以降は農地に対して、固定資産税の宅地並み課税、相続税の納税猶予制度の不適用といった措置がとられ、さらに農地は減った。

しかし時代が下るにつれ、都市農業は都市部への新鮮な農産物が供給できるだけでなく、農業体験や交流活動の場や、災害時の防災空間になるなど機能が見直され、結果、2015年「都市農業振興基本法」が施行される。できるだけ我々が住んでいる場所に近い農業を守っていこう、というように価値観が変わったのだ。とはいえ、一度消えた農地は元には戻らない。チャヴィペルトのような農園は貴重な存在だ。

ハウスで育てられるケールの畑。少量多品種栽培のため、季節によって植え付けられる作物は異なる。最近の飲食店では風味の強い野菜が好まれる、とのこと

「ケールが人気だから、ちょっと食べてみて」

畑の片隅でケールを摘んで食べてみる。ケールというと歯応えがあるイメージだが(だからサラダをつくるときは千切りにするのが基本)ここのケールは軟らかく、アブラナ科特有の甘い味わいが口に広がる。植物性の堆肥、それも菜種油かすを少し入れる程度にとどめると、食感や味わいが軟らかくなる、という。

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農薬を使わない農業には
新たな街づくりのヒントも

 
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text: higuchi naoya photo: Shimpei Fukazawa
2025年1月号「ニッポンのいいもの美味いもの」

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