5分で盆栽が語れるBONSAI基本講座
少々とっつきにくいイメージのある盆栽。鑑賞にはいくつかのコツがあり、基本を押さえるだけでも見方が変わります。ここではさいたま市大宮盆栽美術館監修のもと、見どころや鑑賞のポイントをイラストでわかりやすくご紹介。
さいたま市大宮盆栽美術館
実業家の根津嘉一郎や元首相の佐藤栄作などに愛され、貴重盆栽第一号に指定されているカリンをはじめ、盆栽の名品、優品113点をコレクション。うつわや鑑賞石、浮世絵など、盆栽にまつわる資料も多数所蔵する。
樹種
盆栽の種類は大きく「松柏(しょうはく)盆栽」「雑木(ぞうき)盆栽」のふたつに分けられる。植物学的にいうと松柏は裸子植物、雑木は被子植物を指すが、その分類にはさほど厳密な決まりはない。
松柏盆栽
盆栽の代表格である松柏盆栽。年間を通して、常に緑色の葉を茂らせる針葉樹で、古来より人々から愛されてきたのが松と真柏(しんぱく)だ。これら二つを合わせて「松柏」と呼び、樹種の名称になっている。松柏盆栽は生命力が強く、根や幹がさまざまな造形美を見せることが特徴。歴史は古く、何世代にも渡り伝えられる国宝級の名品が数多く存在する。
例 松、真柏
雑木盆栽
四季を通じて一貫した美しさを見せる松柏盆栽に対し、季節ごとに変化を見せるのが雑木盆栽。代表的な品種はモミジやカエデだが、フジやサツキなど花の鑑賞を目的とする「花もの盆栽」、カリンなど実なりの様子が楽しめる「実もの盆栽」というように、樹種によっても分類される。
例 モミジ、カエデ
見所
盆栽を鑑賞する際には、全体の姿を見ることはもちろん、各部分に着目することがポイントだ。盆器(ぼんき)の中に凝縮された大自然の景色をイメージすることこそ、盆栽鑑賞の醍醐味といえる。
ジン
枝先の一部が枯れたもの。または人の手が加わることによって枯れたもの。白い肌と緑の葉とのコントラストが盆栽に味わいを生みだす。
立ち上がり
根本から最初の枝までの幹の部分。大木のように太くて力強く、自然な動きと迫力の感じられるものが美しい立ち上がりとされる。
枝ぶり
大きな枝がバランスよく配されていて、不必要な枝がない盆栽は評価が高い。葉が落ちた冬は、細かく分かれた枝先が見どころになる。
幹肌
表面の質感は樹木の種類によって異なる。特に松の盆栽では、歳月を経て幾層にも重なった幹肌の様子が、大きな魅力とされている。
根張り
盆栽を鑑賞する際にまず目を向けたいのが、根の張り具合。根は年を経るごとに盛り上がり、土をしっかりとつかむようになる。
シャリ
幹の一部が枯れ、そのままかたちを残したもの。または人の手によって枯らせたもの。樹齢の長い松柏盆栽に見ることができる。
【POINT】
盆栽鑑賞 基本のキ
盆栽にも表と裏がある。正面から見ると幹の姿をよく見ることができ、逆に裏から見ると幹は枝で隠れていて鑑賞しづらい。一方で“名木に表裏なし”ということばもある。優れた盆栽は、360度、どの角度から見ても美しい造形が楽しめるのだ。
樹形
樹形とは、自然下において風雪や長年の環境変化に耐え適応してきた樹木の姿を、人の手によって模したパターンのこと。幹の数や向きなどの形状によって、それぞれ名称が与えられている。
直幹
一本の幹が根本から垂直に伸びる形態で、盆栽の基本的なかたちのひとつとされている。くまなく根を張る「八方根張り」であること、幹が根本から上にいくほど細くなっていること、枝が左右交互に出ていることなども特徴。
模様木
幹が立ち上がりから上方へとゆるやかに揺らいでいるような曲線を描く樹形。幹に変化が見られることが特徴で、幹枝が曲線を描くことを「模様」と呼ぶ。直幹と並んで、盆栽の最も代表的な樹形のひとつとされている。
懸崖
切り立った崖から樹木が垂れ下がるかたちに盆栽を仕立てたもの。厳しい条件下で、力強く生きる樹木の姿を見事に表している。垂れ下がりの角度が小さいものを半懸崖と呼び、逆に角度の大きいものを大懸崖と呼ぶ。
吹き流し
幹に傾斜をつけ、強い風にたなびく姿にかたちをつくった盆栽。すべての枝が同じ方向を向いていることが特徴で、その姿は見る者に風を感じさせる。懸崖と並び、厳しい自然の中でたくましく生きる樹木の姿をとらえた樹形だ。
寄せ植え
一株で複数の幹を表現する根連なりの盆栽に対して、ひとつの鉢にいくつもの苗木を植えた盆栽のことを寄せ植えという。寄せ植えの中には、樹木が共生する森林の趣を表現しようと試みたものも存在する。
根連なり
複数の幹が立ち上がっているため一見すると寄せ植えのようにも見えるが、ひとつの根元を軸としていくつもの幹が左右に伸びていることが特徴。木々が身を寄せ合っているかのような姿をあらわす樹形。
歴史
「盆栽」という名称が使われはじめたのは、意外にも江戸時代末期から明治時代にかけてのこと。そのルーツは中国にあった。
日本の盆栽のルーツは、約1200年前に中国で興った「盆山(ぼんさん)」とされている。平安時代に盆山が日本に伝わり、主に貴族など上流階級に広まった。江戸時代に入ると徐々に庶民の間にも盆栽が浸透し、人々が盆栽を愛でる様子は当時の浮世絵にも描かれている。1873(明治6)年にはウィーン万国博覧会に盆栽が出品され、全世界に紹介された。
盆器と水石
盆栽の魅力は樹木だけに留まらない。樹木を植えるうつわや、ともに配する自然石も、盆栽の美しさを引き立てる欠かせない要素だ。
盆栽を植えるうつわは、中国では花盆(かぼん)、日本では「鉢」と呼び、水石を飾る水盤(すいばん)とあわせ総称して盆器(ぼんき)と呼ぶ。楕円鉢や長方鉢といった形状の違い、青磁や染付といったしつらえの違いなどその個性はさまざま。
水石とは、盆や水盤に自然石を配して、山水の情景や石そのものの模様を鑑賞するためのもの。古くは「盆石(ぼんせき)」などと呼ばれ、茶の湯や生け花とともに愛好されたが、近代に入ると盆栽とともに飾られることが多くなり、水石の名で呼ばれるようになった。
さいたま市大宮盆栽美術館
住所|埼玉県さいたま市北区土呂町2-24-3
Tel|048-780-2091
開館時間|9:00〜16:00、3〜10月は〜16:30
休館日|木曜(祝日の場合開館)、年末年始臨時休館あり
入館料|310円
https://www.bonsai-art-museum.jp/ja/
text : Discover Japan illustration : Ayako Kubo
監修:さいたま市大宮盆栽美術館
2015年6月号 特集「草花生活」