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《奥井木工舎》
飛騨高山の木工技術×愛らしいデザインの雪入道

2024.2.28
《奥井木工舎》<br>飛騨高山の木工技術×愛らしいデザインの雪入道

木工産地の岐阜・高山市で、暮らしに寄り添う木工プロダクトを生み出す奥井木工舎(おくいもっこうしゃ)。ユーモラスな妖怪・雪入道や生木を削り出してつくる木杓子など、飛騨の伝統文化が宿る温かな品々はどのように生まれたのだろうか。職人の奥井京介さんに制作の背景を伺いました。

奥井木工舎(おくいもっこうしゃ)
木工職人の奥井京介さんが2010年に岐阜・高山市に設立。“暮らしにそっと寄り添うものづくり”をコンセプトに、木杓子や動物モチーフの作品、雪入道など、木の風合いや手仕事の跡を感じ愛着の湧く作品づくりを行う。

木工の街・飛騨高山に伝わる技術を礎として

制作は自宅の工房で。雪入道の表情も一つひとつアクリル絵の具で手描きする

高山出身の大工だった父や祖父の影響で、幼い頃から木と大工道具が身近にあったという木工作家の奥井京介さん。手を動かしてものをつくるのが好きだったこともあり、高山にある高山高等技能専門校(現・岐阜県立木工芸術スクール)へ進学した。「カンナやノミなどの手加工の技術はそこで教わりました」と奥井さんは振り返る。

卒業後は工芸関連の企業に就職したものの、ストレスで体調を崩し休職することに。「休養中に自宅でできることをと、電動糸鋸機で動物モチーフの作品づくりを始めました。それをwebやクラフト展で販売する中で、有道(うとう)杓子をつくるおじいさんに出会ったんです」

有道杓子とは、かつて作家・白洲正子も絶賛したという、江戸時代から高山市に伝わるホオノキの木杓子。この出会いを機に奥井さんは「有道杓子保存会」の講座に参加し、木杓子づくりを始めることとなる。

出刃包丁やナタといった生活道具で作られるのが有道杓子の伝統

伝統の「有道杓子」を現代生活で使いやすいものに

先細りの持ち手は、囲炉裏の灰に刺して使っていた有道杓子の歴史の名残。長さ約30cm、幅9cmも、見る側の心を惹きつけるといわれる“青銅比”にのっとっている

有道杓子は、飛騨名物・朴葉味噌でもおなじみのホオノキの生木でつくられる。「通常の木工品は乾燥させた製材を使いますが、切ったばかりの水分を含んだ生木を使うのが有道杓子の伝統。日本ではもうあまり見られないやり方です」

軟らかな生木を出刃包丁などの生活道具のみで成形する手法に魅了された奥井さん。「文献を調べる中で、”救う”との連想から水をすくう杓子が信仰の象徴とされるなど民俗学の歴史でも重要であることを知り、木杓子に惹かれました。ただ、当時の有道杓子はお土産品のような存在だったので、自分は生活道具として実用性の高い木杓子をつくりたいと考えたのです」

史料をひもとき古来の有道杓子の制作法に立ち返ったり、他地方を訪れ各地の木杓子について調べたり。使いやすいサイズやバランスも試行錯誤を重ねて生まれたのが、今の奥井さんの木杓子である。

端材を活かして、飛騨の新たなシンボルを

木片を活かすためサイズや表情も多彩。大小合わせて数体並べるとよりユーモラスに。家族分揃える人も多いとか

地元のホオノキの生木を使って木杓子をつくる中で、奥井さんにはずっと気になることがあった。「丸太から杓子をつくる際に、端材がたくさん出るのがもったいなくて。ものづくりを生業にする者として、これを生かせるものをつくらねばと」

そんな中、民俗学者・柳田國男の著作のなかで、雪の降る夜の明け方に出るひとつ目・一本脚の妖怪「雪入道」を知る。また地元の仲間たちと、猿の赤ん坊である“さるぼぼ”に代わる飛騨のシンボルをつくりたいと話していたこともあり、端材を活かした雪入道の作品を考案する。

「木を割ったときの荒々しい木肌や木目を残し、木材のねじれや多少の割れや節も生かしています。素材感が伝わるよう絵付けもシンプルに。怖いものをつくったつもりなのですが、”かわいい”、“おもしろい”と言ってもらえて、うれしい驚きでした」

木片の形や長さをそのまま雪入道に活かすことで木材のロスも削減。「雪入道をつくるようになって、処分する端材の量はかなり減りました」
端材を活用した木製の豆皿「ハシクレ」。木片を生かしているためさまざまな大きさやかたちに(現在生産は終了)

飛騨ならではの文化を深掘りし作品に生かす

木材を割ったままの木肌や、彫り跡の表情に温かみを感じる「奥井木工舎」の作品

愛嬌たっぷりな表情で、つくり手の予想を超える人気となった『飛彈の雪入道』。「昔の子どもは“悪いことしたら雪入道に連れて行かれるぞ”と脅かされたそう。そんな飛騨の伝承を継いで、子どもを悪い誘惑から遠ざける守り神のような存在になってくれたら」

飛騨の歴史や伝統が息づく作品づくりと並行して、奥井さんは飛騨の文化を見つめ直す取り組みも行っている。「深い山々で周囲と隔絶された飛騨には、独自の文化が根付いています。高山市が所蔵する民具資料の調査・整理作業に参加したり、日本の日常伝承文化を記録した『民映研』フィルムの上映会を仲間と開いたりして、飛騨の文化について深掘りしています。その学びを作品を通して伝えていきたいです」

JR高山駅近くの「hotel around TAKAYAMA」のロビー。「飛彈の雪入道」が地元のシンボルとして宿泊客を迎える

軟らかな木肌に、地域文化への敬意と使い手への配慮や遊び心を宿した「奥井木工舎」の作品。深い山に囲まれた飛騨で生まれたそのプロダクトは、地域を超え国境を超えて、さらに多くの人々に愛されていくのだろう。

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text: Miyo Yoshinaga 

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